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「…きろ、」

「…ん…」



「…んん…?」




「…起きろッてンだよ、この馬鹿!!」




ばちり、目を開ける

はっきりしてくる視界に入ってきたのは

カーテン越しの鈍い光と




…跡部?



え、昨日ちゃんと家に帰ってきたよね?

今、朝だよね?

何で跡部?




「何寝ぼけてんだ、テメーは。」

「…え、跡部?」

「昨日、通話中のまま寝ただろーが。」

「あー…ああ…」




重たい体をのろのろと動かし、携帯を探る

見つかった携帯は、開いたまま転がっていた

…わざわざ、心配して来てくれたのか



「とっとと着替えろ、俺まで遅刻する。」

「あーうん…分かった…」

「…お前、まだ体調悪るいのか?青っ白い顔しやがって…」




…顔色悪いんだ、私

そうかも、さっきから体が言うこときかない

重いし、まだ眠いし…だるい




「…気分悪いなら無理すんな、休め。」

「…でも…わざわざ、来てくれたのに。」

「ついでだ。」

「左様ですか…」




少し引き攣りながらも、笑う

跡部らしい

優しさに




もう少しこのままで、いたい

でも頭はまた眠りに入りそうになっていた

…ダメだ



不意に

そう思った

このまま、また寝ちゃんだめだ






「…く。行く。」

「…あ?」

「起きる。学校行く。…引っ張って。」




甘えるかのように

子供のように腕をさしのばし

引っ張ることを強請ってみた



跡部はしぶしぶといった様子で

腕を引っ張ってくれた




「…おい、本当にそんな状態で行く気か。」

「寝不足。寝たりないだけ。」

「まだ寝たりないのかよ。」

「お腹もすいたし。」




跡部はあきれたように溜息つく

少しずつ体の疲労感にも対抗できるようになってきた

感じることには変わりないのだか




そのまま着替えるため、外で待ってもらった

お母さん、ビックリしてなかった?と聞いたら

まぁなと、サラリと言われた




この時は、この異常な体のことを深く考えなかった

昨日の寝入る前に考えた事も

跡部がいたことが単純に嬉しくて



素直に認めた途端、こんなに楽になるんだ

単純だなあ、自分

そ思いつつ、急いで準備をした













「お疲れ跡部。ジロー寝てたからおいてきちゃった。」

「いつものことだろ。」

「でも早弁して寝ちゃったんだよ。」




なんとなく、それを報告がてら

今屋上で跡部と一緒にお昼を食べている

まあ、その他大勢もいるけど




「その他大勢は、酷いんちゃう?」

「そーだそーだ!つか早く部活来いよなっ」

「はいはい岳人〜寂しいだろうけど我慢してね〜」

「ばっ!さびしくなんかねーよ!」




いつものレギュラー面子

宍戸はもくもくとご飯を食べ

チョタはにこやかに微笑んでいるけど




「あーそうだ。ってってすげー噂の的だよな。」

「あ、二年の方にも広まってましたよ。」

「へえ?なんて?」

「オバケとか跡部先輩とまた付き合ったとか。」

「…なんだオバケって…。」

「なんでしょうねえ?」




オバケ、ですか…“バケモノ”よりはいいか

やっぱ噂ってそんなモンなんだなぁ

…跡部の方の噂もなんか違うし




「…先輩ってやっぱ跡部先輩と付き合ってるんですか?」

「付き合っていません。」

「随分はっきり言ってくれるじゃねぇか、あぁ?」

「事実だもーん。」




軽口を叩き合いながら

パックの牛乳を飲み干した

正直ダルさは全く抜けていない




けど授業受ける程度なら、余裕だし

このまま乗り切ってくれれば

このままおとなしくしていれば




とりあえず今日は曇りでよかった

こうして普通に屋上にもいられる

うん大丈夫だ、この調子なら乗り切れる




私は

単純にそう考えていた












「…おい、寝んじゃねーよ。」

「…え?」

「頭フラフラしてんじゃねぇか。」

「あー…ゴメン。」




今は、跡部と二人っきりだった

他の皆は帰ってしまっていて

でも、妙にこの空間が落ち着く




「あー…雨、降りそうだね。」

「…あぁ。」




私は

悪いことしてるんだろうか

彼の告白をきちんと受け止めず




まだ隠し事をしたままで

それでも心配してもらって

笑って、一緒にいて




酷い事をしているのだろうか




「…あ…校内放送だ。」

「あ?」

「…跡部、呼ばれてるよ。」

「…聞こえねえよ、なんつってんだ?」

「え?あ…えっと、榊先生が呼んでるみたい、職員室。」




屋上ではチャイムの音は響いてきても

放送の声はほとんど聞こえない

つい普通に聞こえたように言ってしまっていた




跡部は特に気にしてないようだけど

彼はゆっくり立ち上がり

サボんなよ、と一言だけ行って出て行った




「はいはーい…ダルいけど。」




ずしりと、のしかかってくる…という感覚じゃなく

ゆるゆると…力が、抜けていく感じ

…なんだっけ、確か、昨日も考えていたような













「…景吾?」

「…お前…」




屋上からの階段の途中、彼女に会った

数日間だけの、元彼女

例のと騒動を起こした彼女




「…屋上で何してたの?」

「昼飯食ってただけだ。…おい、」

「…何?…もしかして、さんのコト?」




跡部は僅かに顔を顰める

跡部の耳にも、噂は入ってきていた

噂の元が目の前の彼女という事も予測していた





「噂の事…私って気づいた?」

「ああ…」

「怒ってないの?」

「…俺も悪ィだろ。」

「…そうね、うん。」





あの時、突然彼女に告白された

付き合ってといわれた時

だた丁度いいとしか思わなかった




最低だとは思う

OKした時も、今も最低だとは思っていた

昔は、なんとも思わなかったクセに





「でも私、景吾のこと恨んでないよ?」

「…じゃあ、何でに絡む?文句あるなら俺に言え。」

「…」




自分に言え、なんて台詞

言えた義理じゃないのは分かっている

けれどアイツの為、だなんてカッコつけた結果がコレだ





「…悪かった。」

「…。」





跡部はそれだけ最後に呟いて

彼女の横を通り抜け、階段を下った

彼女も止めなかったし

跡部も振り返ることはなかった















「ねぇジロー、ジローってば…いい加減起きろッ!!」

「ん―――ッ」





HR後の教室

すでに教室に残っている人は疎らだ

そん中、再びぐっすり寝ていたジローを揺り動かす




「あー…〜おはよ〜」

「おはようじゃ…もしかしてジロー、だるい?」

「ん〜ダイジョブだよ〜?ってあれ、もう部活の時間?」

「う、うん。」




叱ろうとして、急に、不安に襲われた

私が血の供給を絶っていると同時に

ジローも血の供給を絶っているのだ




いくら血が薄いといっても

私と同じ年なんだから

ジローだって成長期なんだから




いつもの寝起きのボヤっとしたジローの顔

なのに不安に、襲われた

…自分に対する不安もあったのかもしれない





「俺より自分の心配しなよ。血、全然飲んでないでしょ?」

「大丈夫だよ。普通に学校来れてるし、ね?」

「…跡部とは?」

「友、達。…まあまた告白はされたんだけど、保留。」

「ほりゅう・・・」





こて、とジローは首を傾げた

そういえば、私の知らないとこで話してたんだよな

不服に思ってるのだろうか





「これでいいの、今は。ね、ジロー?」

「…がいいなら、それでいい。俺、余計なことした?」

「ううん。ありがと。」




クセッ毛を撫でてやる

…けれど、やっぱこれ以上心配かけたくなくて

ダルさが抜けない事だけは黙っていた



もう少し耐えれば

乗り越えられる

そう自分に言い聞かせて




「部活行ける?…休んでもいいんだよ?」

「平気だって〜んじゃ、いってきまぁす。」

「…ん、いってらっしゃい。」




フラリとテニスバックを背負い

ジローは手を振りながら教室を出て行った

私は振り返しながら、それを見送る




「ジロー!終わる頃に部室行くから、一緒に帰ろ!」

「りょうか〜い!あ、跡部達とも一緒にね〜」

「はいはい。」




複雑な気分になりながらも

苦笑いをして了承する

教室にはもう誰もいなかった




外ではポツポツと小雨が降りだしていた

強くならない限り、部活は中止にならないだろう

私は明かりをつけることなく、窓辺の椅子に座った




…やっぱり、ダルい

気づいたら、窓辺に凭れたまま

また目を閉じていた











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