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“愛人”なんて呼ばれる関係になってから

陰口を叩かれたり

お呼び出しを受けたりもしていた




まあ呼び出しを受けても

ありきたりのことしか言われないし

突き飛ばされても別に痛みは一瞬なだけで




さすがに凶器持ち出す子もいなかったし

…出されても無意味なのだけれど

普通じゃないんで




でもなぁんとなく

そんな修羅場?をくぐりぬけてきた私でも

この子はちょっと危そうだなぁと思ったり







「…何なのといわれても…私もよく分かんないけど。」

「…“愛人”とも名乗る気はないの?」

「…んー前は、自他共に認めてたりもしたけど。」

「前は…?」

「今、アナタは正真正銘の彼女なんでしょ?」




今まではみんな彼に熱を上げていて煩い子だったけど

目の前の彼女は随分落ち着いている

ように見えた





「…私は、一応付き合ってるつもり。愛人なんてものじゃなく。」

「…そ。それで、何か文句が?」

「景吾は、あなたのことが好きなの。私、よりも。」

「…あ、そう…それが事実なら、不服だね。」

「当たり前でしょ。これじゃあどっちが“愛人”か分からない。」




形の良い眉を顰める

彼が私を好き、ねぇ…本人の口から聞いたのだろうか

それとも、ただの彼女の推測か




「何で、景吾はアンタなんか好きなのよ。」




そう言った彼女の目は恐ろしく冷たくて

彼女の冷静さは…怒りを通り越した故の冷静さのような

怒り、悔しさ、嫉妬心、そんなものが渦巻いている





「彼、アンタばっか見てる。…アンタなんかを。」




よく言われる台詞だ、心のこもりようは違うけど

この台詞を聞くと、よく思うことがある

そんなに私が気に入らないか、とか

そんなに彼がイイのか、とか




でもそうなんだろうな、もう冷静に見れないんだろうな

彼か絶対な存在で

こういう人に落ち着け、の言葉が無駄なのは

嫌というほど知っている




「そんなこと、言われても…」




本当、跡部に言ってくれ、と思う

けど言わない、言うと相手がキレるのも承知済み

抵抗し過ぎず・しなさ過ぎず、それが鉄則、 なんて





「ッそれが、ムカツクの。・・・アナタ、景吾が好きなの?」

「…アナタに答える必要はないでしょ。」

「ッ…何なの!?失礼だと思わないわけ?彼女である私にッ」

「…」





しょうがないじゃない

しょうがないでしょ

素直に、気持ちを伝えられるような立場じゃないの




苦しいし

辛いし

私だって本当は、アナタなんて嫌い、嫌いなの




でも言えない

好きとも

…別れてとも




好きだと素直にいいたいけど、私は彼を利用してるから

別れてと言ってしまえればいいけど、私も彼が好きだから

…たんなるワガママだって分かってるけど




「私は彼が好きなの!誰に何て言われようよと!」

「…」

「目障りなの!」




中途半端に彼のそばにいるあなたが大嫌い

その言葉が、ずっしりと私にのしかかる

その素直さが、羨ましい




…言い訳もする気はない

私が普通せいで素直になれないんだなんて

それは自分の弱さのせいでもあるから




でもだからって

素直に彼女の言うとおりにする気にもなれなかった

ちっぽけなプライドだった




「…嫌いで結構。…話はそれだけ?私、帰るから。」

「ちょ、ちょっと!」




あまりにも、ストレートすぎる彼女の言葉

もう聞きたくない、聞く気もない

彼女の言うことは理解できるけど

これ以上言われ続ける筋合いもない




これ以上、答える義理もない

私はかばんを手にとって、さっさと教室のドアから出た

彼女の追ってくる足跡が聞こえる




「待ちなさいよ!―ッちゃんと答えて!」

「…何を?跡部が好きなのか?それとも別れるかどうか?」

「―ッ両方に決まってんでしょ!」

「…」




少しだけ、苛りとした

私も十分駄目だけど

ここまで偉そうに言われて

素直に答える気なんて全く沸いてこない




「跡部に、聞けばいいでしょ?それ。」

「アナタの気持ちまで、景吾に聞けっていうの!?」

「だから、それを言う義理はないってい言ってるの。」

「――ッ卑怯よ!」




何が卑怯なのか

意味が分からない

私は彼女を振り切り、足早に階段をお利用とした、ら




  …ドン




背中を押されていた

よく聞く“カッとなって思わず”ってやつ

気が付いたら全てがスローモーションで

私の視界に入ってきた




「 っ!」




結構すごい音がしたと思う

油断して、全く抵抗できなかったから

というか、結構私も熱くなってしまっていたし




本来なら今は並の身体能力じゃなくなってるから

簡単に転げ落ちることなんて防げたのだ

けれどし損ねた




一瞬からだ中に激痛が走る、首が特に痛い

けどそれも数秒だけ

徐々にハッキリしてくる視界の端に

彼女が青ざめているのが見える



私以上にビビッてるんだろう

自分のしでかしたことに

震えるぐらいなら、手を出すなっての…今更か




あぁもう

本当

バカらしい

イライラする



無駄な体力を使わせないで欲しい




…彼女が、更に青褪めるのが目に入る

自分のしでかした事に対する恐怖、ではなく

目の前で起きていることに対する、恐怖で




「あー…イッタかった…、もー…殺す気?」




私は痛む首に手を沿えながら立ち上がった

体のあちこちも打撲してたと思う

でも、そんなもん、どーてことない



吸血鬼の血が強まってる今

階段から転げ落ちた程度の傷

あっという間に治癒してしまうから




だからと言って、今実際平気な顔してちゃマズイだろうか

バケモンと思われても仕方がない、これじゃ

まあ大した事なかったと誤魔化せればいいか




私は直立のまま、睨みつけるわけでもなく

階段の上にいる彼女を見上げた

蒼白だった彼女は、私が言い訳するまでもなく

「たいしたことなかったのだ」と自身で解釈したらしい




彼女は、うっすらと安堵の色さえ浮かべていた

…勿論、私が無事だったことにではなく

自分がトンデモない事しでかさずに済んだ事にだが




―――そして

私はそのまま

何も言わずにその場を後にした















「跡部、別れよっか。ちゃんとさ。」

「…第一声がソレか。」

「だって、さ…」




早朝の、部室前のベンチ

ただでさえ早い朝練の集合時間前に

跡部を呼び出してみたりした




昨日の彼女の為、別れを切り出している訳じゃない

…ただ、大丈夫だと思ったから

このまま乗り切って、血が不要な体に戻れると思ったから

…なんの根拠もないけれど




そして、やっぱり、純粋に

跡部を好きでいたかったから

今ずるずると半端に関係を繋げているのは

血が欲しいからだって、思いたくなかったから




今までゴメンナサイの意味もこめて

謝まって済むような問題でもないことも分かってるけど

これ以上、彼のそばにいる権利は

私にはないから





「・・・彼女も、できたみたいだし?」

「…、」

「…なに?」

「お前、ジローの言うことは、何でも信じるか?」

「…?何でもってわけじゃないけど、まあジローなら…」

「信じるんだな。」

「…う、うん。」




そうか。そう言って、跡部立ち上がった

ジローの信頼どうのが何の関係があるのか

目の前に仁王立ちした跡部を

私は不信感丸出しの顔で眺めた




「そら、愛人の関係は解消だ。」

「え?」




何が「え」だ、自分

望んでいた言葉でしょう…心の底からじゃなくても

分かった、そう返事をすればいい




「…わ、」

「俺はお前が好きなんだよ。」




「…   は?」




分からない

何を言っているのかこの人は

フって、もう一度告白?




「お前が、それに応えないのも分かってる」

「…」

「それでも、俺の気持ちは変わらない。」

「ちょ、跡部、…」

「昔の様に他の女と付き合えば、お前がそういう顔しなくなると思った。」









「でも、お前は変わらず辛そうな顔しかしない。」




ごめん




「それでも、俺はお前が好きなんだよ。・・・悪ィな。」




ごめんね




「何に苦しんでるか、辛いのか、話せる時がきたら話せばいい。」




ごめんね、跡部




「もう俺も無理にお前に関わろうとはしねえ。」

「跡部…」

「ただ、俺がお前のことが好きだって事だけ、ちゃんと覚えておけ。」




顔を伏せる

頬を伝うものが止められなくて

心の中でごめんとしか、繰り返せなくて




「…分かった。分かったから、跡部。」




かろうじてそれだけを搾り出した

少し間をおいて

また跡部が口を開く




「…ジローに言われた。お前のそばにいろってな。」

「え、ジローが?」

「滅多に干渉しないアイツがだ。だから、俺もアイツの言葉を信じる。」




さっきのジローを信頼しているか云々はそういうことか

ジローのことを信じているのなら

私もジローの言葉を信じてみろと




でもそれは、ジローは全てを知っているから…

私の問題自体は何も解決していない

これからどうなるかも分からないのに




それでも

私には

今この跡部の言葉を否定することは出来なかった




縋りたかった

跡部が好き

跡部が、好きだから




だから

ごめんね、跡部




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