Vampiяe 5
「跡部ー、ちょっといー?」
「ジロー?…ああ。」
昼休み、ふらりとやってきたジローは
いつものように眠たげな顔ではなく
かといってテンションの高い様子もなく
あまり見ない顔をしていた
怪訝に思いつつも
跡部はこの珍しい呼び出しを了承した
その頃の私はというと
そんなことが起こっているとも知らずに
次の体育の授業どうしようと一人で悩んでいた
今日も素晴らしく天気はいい
おかげで私の機嫌と体調は最悪
朝家を出た瞬間、焼けるかと思った
いやもうそのまま、本気で肌が焦げるかと思った
太陽を見上げられなくなっていた
仕方なく長そでシャツに着替えて家を出た
日焼け止め塗りたくって
日傘をさして
学校についてからも
後ろに人がいないのを確かめてから鏡を除いた
普段は一応映っている姿が、ほぼ映っていなかった
「…何か、私、ギャグじみてきた…。」
ポツリと周りに聞こえないよう呟いた
あぁ…
渇くなぁ…
とも、心の中で呟いた
「ジロー…のことか?」
「あー、うん、あたりー」
ジローと跡部は屋上に来ていた
今日は風が強い
もう昼休みも終わるせいか、誰もいない
「…跡部さぁ、のこと好きなんでしょー?」
「…だったら、何だ?」
「んー別にぃ。」
そう言って
ジローは跡部に背を向け、フェンスに肘を置く
何が言いたいんだコイツは
という顔で跡部はジローの背を睨む
「…ジロー、お前はどうなんだ?」
「何が?」
「何がじゃねーよ。の事、…好きなんじゃねーの?」
「なに今更ー好きにきまってんじゃん。チョー好き。」
くるりと、ジローは跡部の方に向きなおし言う
その顔は、やっぱりいつも通りのジローだった
跡部は、そういう意味じゃねぇと吐き出すように言う
「じゃぁ、どーゆー意味?」
「恋愛対象としてだ。」
「れんあいたいしょー?」
「ああ…」
「…そんな誰でも持てる感情なんかで、を見てるわけないじゃん。」
「は?」
「はもっと大事な存在なの。恋愛とかそんなんどうでもいいし、よく分かんない。」
ジローらしい理屈だ、と跡部は思った
聞いた自分も馬鹿だったとも思った
でも、やはりよく分からない
「…だからさぁが跡部を必要とするなら、俺なんの文句もないの。」
ジローの声のトーンが落ちる
再び背を向けてるため、表情は分からない
でも何故か、何に対してか、跡部は寒気を感じた
「俺ね、凄い自分勝手なんだ。結局はさ、が良ければなんでもいいわけ。」
跡部は思う
目の前にはジロー
声もいつもと少し違うが確かにジロー
でも
…お前は、誰だ?
バサバサと風邪が吹く
ジローはゆっくり、再び跡部の方に向きなおす
でも顔は伏せていて、やっぱり表情は読めない
「…何が言いたい?…ジロー?」
「…―跡部がどうなろーと、どうでもいいんだよ。」
今度こそ
本当に、悪寒が走った
…今まで感じたことのない恐怖だった
お前は、ダレだ?
目の前のよく知る筈の人物に
もう一度、心の中で疑問を投げかけた
「ー早く更衣室いこ。早くしなきゃ混んじゃう。」
「あーそうだねー体育だね…、今日、…外?」
「そうだよー?何言ってんの。」
「…ですよねえ。」
隠す事せず、大きなため息をつき
体操着の入ったカバンを掴み
とぼとぼと友達の後をついていった
今度こそぶっ倒れるかもしれない
その前に絶対、見学させてもらおう
と心に決めながら
一方、未だ屋上
…ジローはただ、跡部を見ている
フェンスに体を凭れさせたまま
ただ、真っ直ぐ、跡部を見てるだけだった
ジローとあいつは幼馴染
本当の兄弟かの様に、よく一緒にいる
確かに恋愛感情とかそんな甘ったるいもので
二人が繋がっているようには見えない
今自分が呼びだされたのも
自分が新しい女を作ったことが
を傷つけたのが許せないからだと思った
自分がいつのまにかに本気な事に
好きになっていることに
ジローが気付いてた事は知っている
ただ愛人なんて言われてる時でも
口を出してくることは一切なかった
さっきの言葉通り、どんな関係だろうと
が良ければいいからだと思う
でも、それなら、なぜ今更
コイツは、そんなに怒っている?
…寒気が走るような雰囲気を醸し出してまで
「…跡部さの為にって、他の女と付き合ったんでしょ。」
「…」
「本気で付き合おうって言っても、がOKしないから。」
「…」
「…でもが、何か凄く苦しんでるのだけは分かるから。」
「…」
「だから、が苦しまないならって…昔みたいに戻ろうとした。」
たんたんとジローが話す
口を挟めなかった
だって全て、その通りの事だったから
「…あぁ、そうだよ。分かってんじゃねーか。」
「…」
「それなのにあいつは、余計…」
『―――跡部、お幸せに。』
泣きそうな顔をしていた
「意味、わかんねぇよ。」
「跡部…」
「あいつは何がそんなに辛い?俺にどうして欲しいんだ?」
最初はジローのことが本気で好きなのかと思った
だけど、俺が好きだと言ったせいで
挟まれて苦しんでいるのかと思って
でもそれなら自分から別れようと切り出せばいい
ジローと付き合えばいい
でもそれも言い出す事もない
そして情けないと思いつつも
傍にいられるならそれでよかった
だからせめてもと思い、昔のように他に女を作った
それで辛い顔を見せなくなるならそれで
理由は分からなくても
それほど、惚れていたから
昔のように他に女がいて
これ以上好きだと言わなければ
苦しまず、今まで通りでいられると思ったから
でも、それでも
アイツの言うとおり、昔みたいに女を作っても
やっぱり、アイツは泣きそうな顔をしていた
「そうだね…ごめんね。跡部もが好きなんだもんね。」
「…あぁ、そうだよ。悪ィか。」
…ジローから、さっきの雰囲気は消えていた
逆に、最近のみたいな、辛そうな顔をしていた
なぜ、こいつまでもそんな顔をするのか
「も、跡部が好きだよ。跡部と同じくらい。」
「…?…じゃぁ、どうして、」
付き合うということに、了承しない?
他に女を作れと言う?
作ったら作ったで、あんな顔をする?
「…あいつは、何を苦しんでる?」
「…」
「…何を、隠してるんだ?」
そう言ったら
ジローは不意打ちを食らったように驚いた顔をして
すぐに、笑った
いつもみたいな、無邪気な笑顔だった
そして、気づいたら、目の前に立っていた
…いつの間に
「跡部は、やっぱ、おりこうさんだね。」
「…は?」
「は、やっぱ見る目あるねえ。」
「…何言ってんだ?」
ジローは両手を跡部の首に回し
自分の額を跡部の右肩に乗せた
そして微かに笑い声を含ませながら、呟いた
「跡部がバカだったら、今、このまま」
「ジロ…」
「 全部奪ってやるのに。」
「 ッ!!」
ぺたん
ジローがしりもちをつく
それぐらい、思いっきり振り払っていた
今、全身全霊でコイツを拒否った
さっきよりも酷い恐怖と悪寒が走った
バカらしいとも自分でも思うが
…殺されるかと、思った
「…何もしないよ?らと違って上手にできないし。」
「…な、に言ってる、お前…」
情けないぐらいに声が掠れる
…何なんだ一体
…気味が、悪い
よく知っているはずのジローに
そう、感じた
何か、得体の知れないモノを相手にしているかのような
「…とにかくね、俺がいいたいのはね、」
「…」
「が好きなら、ちゃんとそばにいてってこと。」
「それ、は」
「俺じゃね、ダメな時もあるの。」
ジローはそう言って、座ったまま笑った
いつもの笑顔だった
それでも、背を流れる冷や汗は止まらなかった
分かるのは
ただ
ジローは俺らをくっつけようとしていることだけ
ジローは言うのだから
が自分を好き、というのは間違いないのだろう
なら何故、拒否し続けるのか
…多分それは
ジローは答えてはくれない
「あー…の匂いがするー。」
「…は?」
人が真剣に考えていたら
いつものように間延びした声で
ジローは意味の分からない事を言っていた
あまりにもその様子がいつも通りで
アホらしかったから
さっきまでの恐怖もとんでいた
ジローはまたいつの間にか立ち上がり
フェンスに張り付き、グラウンドの方を見ていた
といっても別の校舎に阻まれて、全体は見えない筈だが
「…え…何で体育やってんのさ…暑いのに〜…」
「何言ってんだ…?」
「って、自己管理できてんのかできてないのか分かんない。」
「…てめーに言われたくねえだろ。」
今度こそ脱力した
いつものジローだ、いやジロー以外なんだってんだ
後ろめたさがあったから
怖いなんて思ったんだ、コイツを
「あ、てゆーか、跡部もサボリ?」
「…あァ?」
「チャイム、とっくに鳴ったよ?」
「…」
気づかなかった
そうだ
てかコイツと同じクラスじゃねぇか
不覚、それ以外
なんて言えばいいだろうか
こいつに踊らされてる、なんてジローのせいにもしてみる
「今から戻る。…ついでに答えろ、ジロー。」
「跡部はまじめだねぇ。なにー?」
「…あんなに体弱かったか?」
「……は、別に体弱くなんかないよ?」
最近のの様子を示唆していったつもりだったが
ジローは、満面の笑みでそう言っただけだった
本当に、嬉しそうに
意味が分からなかった
「もージロ〜先生怒ってたよ!芥川ドコだって。」
「へへ〜ごめんね〜」
「今度はどこで寝てたのー?体育までサボって。」
「屋上。、体育なんか出て大丈夫だったの?」
「見学。」
そう言って私は机に突っ伏した
やっぱりだるい、起きる気にならない
…渇くんだよ、くそう
にしても
ジローが随分機嫌がよさそうな気がするのは
気のせいだろうか?
…寝て元気になっただけか
「じゃ、俺部活いくね。は早く帰りなよー。」
「はーい。いってらっしゃいー…無理しないようにね。」
ひらひらと手を振ってジローを見送る
ドアが閉まり
ジローの後ろ姿が消える
…心配だった
私は今、血の供給源を失っている
跡部とは…こんな状態だから
それは即ち、ジローも血を得ていないことになる
いくら血の薄いジローでも、同じ成長期には変わらない
なのにテニス部で毎日激しい運動をしている
あまり必要でなかった血も、これだと必要になる
でも自分には今与える余裕はない
…そこまで私がする理由はないけれど
でも、ジローは、特別だから
どんな?と問われても、うまく答えられないけれど
とにかく、大事な、大事な存在だから
絶対に、私が、助けてあげたい
「しっかし…その前に私がくたば」
「さん。」
「…はい?」
いつの間に立っていたのか
誰もいないと思っていた教室に
彼女は立っていた、しかも目の前に
がばりと顔をあげ
目の前の女の子を眺める
見覚えがある
確か
…あの時跡部の、隣りにいた
「あなた…一体景吾の何なの?」
…跡部の
今の
彼女
next