Vampiяe 4
「さー今日も張り切っていきましょー」
コートに足を踏み入れてから
とりあえずテンション上げてみた
したら宍戸とチョタに不思議そうな目でみられた
「お前、風邪で寝込んでたんじゃねぇのかよ。」
「そのとおりだよ?宍戸君!」
「めいっぱい元気じゃねーか…」
「だから、ここにいるんでしょーが。」
「先輩、無理しないで下さいね。」
チョタは優しいね〜
そう言って腕と足を伸ばし、彼の頭を撫でる
宍戸はアホらしいという目つきで見てくる
…こういう空気は好き
和むというのだろうか
ジローや跡部といる時とはまたちょっと違う感じ
「今日も暑いですからね、本当無理はダメですよ。」
「またぶっ倒れてもしらねーからな。」
「ありがと。ってか倒れてないっすよ大げさな。」
そして部長様の集合の声がかかった
いってらっしゃ〜いと手を振り
満面の笑みで二人を見送った
宍戸はふんと顔をそっぽにむけていた
その様子がおかしくてまた笑う
心配してくれてるのが、嬉しいような申し訳ないような
…「お幸せに」そう言った後から
跡部とは一切話していない
彼は今、何を思っているのだろうか
もしかしたら
この関係も終わるんじゃないだろうか
そう思えてきた
さっきの子が
新しい彼女、本命だと言うのなら
それも有り得る
寂しい?
何が?
跡部に正直な気持ちが伝えられないことが?
愛人という形でも跡部の傍にいられなくなることが?
それとも
ただ
血の供給源が絶たれることへの
焦燥感なのか
分からない
全て
なのかもしれない
「…跡部、」
集合が解かれたとこで
私はマネージャー業に徹するために跡部に声をかけた
「今日のトレーニングいつもどおりだよね。」
「ああ。」
「暑いから、先ドリンク作り行ってるね。」
「…ああ、頼む。」
歯切れが悪い
お互いよそよそしい
それもそうか
こんな曖昧な状況なんだから
昔だったら
跡部が新しい女連れ添ってたっていつも通りだったのに
ココ最近はすっかり関係が変わってしまったから
愛人という肩書き以外は
『あれは新しい、愛人ではない、彼女?』
そう素直に聞いてしまえばいいのに
『私達の関係はどうなる?』
そう素直に聞いてしまえばいいのに
「…じゃ、行ってきます。」
「。」
「…ん?」
「…気分悪くなったらすぐ言え。」
「あーうん。分かった、ありがと。」
薄く作り笑顔を残して私は背を向けた
なんの、優しさだろう
素直に喜べない…それが、悲しい
「重いッ!」
ガンッと音をたて、ドリンクボトルの入ったカゴを置く
暑いし、重いし、二重苦だ
額に薄く滲んだ汗をぬぐおうとした瞬間
――ガシャぁンッッ
「…っ…!?」
「す、すいませんッ先輩!大丈夫ですかッ!?」
チョタの放ったサーブが
目の前をとおり過ぎてフェンスに激突した
久しぶりだったから油断した
チョタが慌ててよってくるのが目の端に映る
ついでに宍戸も呆れ顔で来た
ああ…びびった…
「ったく…ノーコン。」
「う゛…すいません…。」
「…まぁまぁ宍戸、当たらなかったんだし…」
しょぼくれるチョタの頭を手を伸ばし撫でる
他の部員達もまたか的視線を送ってから、各自の練習に戻っている
跡部も然り
私は苦笑しながら
転がったボールを投げてやる
「疲れたから私は休む。君達も練習に戻りたまえ。」
「誰のまねだよ…オラ行くぞ長太郎。」
「あ、はい。本当ごめんなさい先輩ッ」
「もー平気だってば――ッ…―ん」
笑いながら
チョタの背をぽんぽんと叩きコートへ送ろうとした
その時だった
前みたいな立ちくらみではない
気持ち悪さもない
血が足りないと感じているわけでもない
ただ、胃の中から何かが
せり上がってくる感覚
なにコレ
別に胃が気持ち悪いわけじゃない
お腹が痛いわけじゃない
全然普通だ
けど
「…先輩?」
「どうした、?」
「…」
しゃべれない
しゃべったら
…吐きそう
そう、吐きそう
気持ち悪くもないのに
何かが、喉を逆流してくる
「先輩?…気持ち悪いんですか!?」
「おい、ッ?」
煩い
騒がないでほしい
気持ち悪いわけじゃないんだから
気づかれちゃう
誰に?
あ、ヤバイ
「――ッげほッ」
耐え切れずに咳き込んだ
口の中に広がる、なんともいえない味
ぽたぽたと、口を押さえた指の間を
濁った、赤褐色の液体が流れた
二人の息が詰まるの様子が伝わる
てか
―――何コレ?
一見したら、血のような
二人もそう思ってるだろう、だから固まってる
でも匂いが違う
これって…
「!!」
ビクッとして顔を上げる
私を呼んだのはジローだった
一気にコート全体がざわつく
―――煩いな、血じゃいよ、コレ
…それより頭がグラついてきた方が問題だ
「ッ…どうしたの!?それ、」
「ジロ・・・おちつ、いて。これ血じゃない。」
「血じゃない…?」
「――血じゃねぇなら何だってんだ、このバカが!」
正面のジローに気をとられてたら
いつの間にか跡部が後ろにいた
…そんな怖い顔して怒鳴らなくても…
それでも跡部は
僅かにふらつきだした体を後ろから支えてくれた
とりあえず、この場を収めようと話す
「大丈夫だって…これ、さっきのんだ、薬、」
「薬だ?」
「うん、貧血の薬。最近ひどくて、それでね、」
「貧血の薬…?まだ、万全じゃなかったのか、お前。」
「や、大丈夫だったんだけど、ちょっと…」
赤褐色
自分で改めてみても気持ち悪い
何で薬を吐いてしまった?
今までそんなことはなかった
だからジローも慌ててる
ジローもそばにきて
匂いでこれが本当に血じゃないことには気づいたと思う
でも吐く理由が分からない
血が足りないのを、補う為なのに
…身体に合わなくなってきてる?
吸血鬼の血が、濃くなってる今だから?
私が薬で間に合わせることが出来るのは
私達が“人間の血”をベースとした“吸血鬼”だから
根本は人間であるんだから
血が体に足りないのなら
貧血用の薬で済ませられるのだ
でも今、私の体は“吸血鬼の力”に占領されている
だから・・・体に吸血鬼の血が張り巡らされている今
この手の人間用の薬は異物となるんだろうか?
人間の体に、他の生物の薬が合わないのと同じように?
面倒くさいことになった…
「けほッ…あー…ダメ、気持ちわる…」
「…、大丈夫じゃねぇだろ、病院に、」
珍しい
跡部の声に動揺の色が滲んでいる
あぁごめんね、本当にごめん
でも、とにかくこの場を何とかしなくては
吐血少女
なんてレッテル貼られたくない
「…病院はいい。」
「お前、」
「暑さでね、気持ち悪くなって、もどしただけ。」
ざわざわと、集まってきた部員達にも
安心させるように
無理やり笑顔を作り言葉をかける
本当は頭もグラつくし
結構吐くのは辛いのだけれど
またこんな状況にしてしまった罪悪感の方が勝る
「、もう帰ろう。送るから。」
「…ジロー。」
「病院に行った方がいいんじゃねぇか、薬が合わなかったんだろうが。」
「いい、俺が連れて帰る。」
遮り
ジローは睨みつけるように跡部を見た
まだ怒ってるのかこの子…
跡部が後ろから支えてくれていた手は離れ
私はいつの間にかジローの腕の中にいる
ジローは…いつになく真剣な
切羽詰ったような顔をしていた
「…か、える。帰るから、ジロー。」
「…うん。」
「皆も心配かけてごめん!本当、何でもないから…」
一番そばで見ていたチョタと宍戸が青い顔をしていたから
ドリンク宜しくねとだけ言って肩を叩いた
ごめんね
跡部とはそれ以上目を合わせることは無かった
ジローに軽く支えてもらってコートを出た後
部員達に指示を出す跡部の声が聞こえた
そう
それでこそ跡部
それでいい
「ジロー…ごめん。」
「大丈夫。」
「うん…」
それから私は部活を暫く休むことにした
そのことはジローから、跡部に伝えてもらった
部員達に余計な心配かけないよう
適当に理由は作ってもらって
だからと言って
学校自体休むわけにいかなかった
でも炎天下で動き回る部活がないだけで大分違う
このまま
このまま
乗り切ってしまえば
全てが…
元通りになるはず…
そんなに長くは続かないはず
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