Vampiяe 11
『お前は一体、何なんだ?』
私は
一体、何者か
私は
「跡部…私は、」
「、」
「いいの、ジロー…」
私は何者か
今更もう、隠すことじゃない
隠しても、もう意味がないから
「跡部…腕、見て。」
「…腕?」
「さっきの…傷。」
ソファに横たわったまま
ジローの手の中から、自分の手をを引き抜き
跡部の腕を、震える指で差した
跡部は腕を見る
こびりついた渇いた血を
雨に当たり湿った制服で擦りとる
傷は
「…どう、いう、ことだ?」
「治ってるよね…。私の、血で。」
「…治した?」
「吸血鬼の血は万能だよ…?」
跡部は記憶を巡らす
確かにあの時は自分の血で濡れた手で触れていた
その血で…治した?
…いや、そんなこと考えなくても
目の前、間違いなくカッターで裂かれた腕の傷が
今はもう、一本の筋としてしか残っていない事実
「…吸、血鬼?」
「信じられない?…そう、だよねぇ…でもそれが」
事実
「ごめんね、跡部。」
ズルリと腕が下に落ちる
体が眠りに落ちていく感覚
真っ暗な中への引きずり込まれるような
「ッ!寝たら駄目だよ!」
「ジロー、何が起こってる、はっ…」
「…死んじゃう…このままじゃ。」
体に血が、足りない
今すぐ
とりあえず補給しなきゃ
岳人が慌てたように叫ぶ
「な、なんで!?だって吸血鬼って不死って…」
「俺らは人間の血の方が濃い、だから不死なんかじゃないの、」
「死ぬて…何で、はこんなに弱っとるん?」
動揺
“吸血鬼”そんな非現実なモノだと言われても
まさか、と思うのが事実
けれど
目の前で
あきらかに衰弱しているよく見知った人物
「ジロー、お前も…」
「俺もと同じ、普通じゃない。だから俺はに血をあげられない…」
「…説明しろ、簡単でいい、詳しいことは後でいい。」
跡部が急かす
なんとかしたい
バケモノだとかそんな事実はいい
今、目の前の現実を何とかしたい
「そらの中にも俺の中にも、“吸血鬼”の血が混じっている。」
「…」
「でもあくまで人間に近いから普通に生活出来る、けど成長期が始まると話は別。」
「成長期?」
「一時的に吸血鬼の血が濃くなる時。血が、多く必要になる。」
「…さっきいっとったやつか、でもジローはなんで平気…」
「俺は血が薄いから。でもは俺より濃い。だから、今血をたったら…」
栄養を絶てば、人も死ぬ
それと同じ
吸血鬼だろうと、死ぬ
静まりかえる
雨の音だけが
やけに煩く、響いて聞こえる
…声は、聞こえていた
重いまぶたをもう一度開き
私は静寂を破った
「…私は、今まで…跡部、アナタから血を奪っていた。」
「ッ!」
「……俺から、だと?」
重い、重いまぶたを開ける
ぼんやりと焦点を跡部に合わせる
表情は読めない
「そう、跡部に近づいて、血を、奪っていた。」
「…血が必要な時期に入ったから…俺に近づいたってことか。」
「…うん。」
成長期に入り
血が必要になったから
一番危険が少なくて、簡単な方法だから
それが結局
一番自分を苦しめる要因となったのだけれど
もう、今更
「…ごめんなさい…本当に、ごめんなさい…」
謝ったからなんだというのだろうか
涙を流したから、なんだというのか
それでも、謝らずにいられなかった
だって私は
「…本当は…適当に、付き合って…」
「…」
「血が不要になったら…別れ、ようって」
「…それで、俺が何度言っても、お前は」
「…ごめんなさい…」
嬉しかった
本当は跡部の思いが嬉しかった
でも私は貴方を騙していたから
素直に応えることなんて出来なくって
「―――跡部、は、苦しんでた…黙ってることを」
「…ジロー…お前があん時言いたかったのは、コレか。」
「うん。跡部に知って欲しかった、から離れて欲しくなかった。」
「…」
「のこと…の気持ち、知ってたから。」
ジローがわざわざ跡部を屋上につれてきて
言った事
『のことが好きなら、のそばにいて。』
ついでに…ジローの異様な威圧感
ジローが普通じゃないから
吸血鬼の血が高揚していたからこそ醸し出されていた雰囲気
跡部は小さく溜息を吐く
ワケのわからなかったことが繋がる
の、あの矛盾する態度も言葉も表情も
全て
「馬鹿が…」
「あと、べ…?」
「…一つ聞く。」
跡部はジローをよけ
自分に近づく
そしてゆっくり抱きしめられた
だんだんと強く
強く
そして耳元で静かに語りかける
「俺は、お前が好きだ。」
「……でも、私は、」
「言ったろ、お前がお前である限り、気持ちは変わらねえ。」
「……うん、うん。」
跡部と、目が合う
目の前で
強い、いつもと同じ、碧い瞳
「私…跡部のこと好きだよ。」
「やっと言ったな…バカ。」
微笑んだ
心から、微笑えた
やっと、言えた
「…跡部、を助けて。」
「…血が、足りねぇんだな。」
「俺らのでも良かったら、いくらでもあげたるよ。」
忍足も、隣の岳人の頭をポンと叩きながら言う
岳人はいっぱいいっぱいな顔をしながらも、コクコクと頷く
有難う…でも…出来ない
「跡部のやないとあかんのか?」
「の体が慣れてるから…多分、跡部のがいい。でも…」
「でも何だ?俺は構わねぇんだ、とっとと…」
「…に血を吸う力がもうない。」
ジローは眉間にシワを寄せ、悔しそうに言う
ジローは自分の様にうまく血を吸いとることができない
血が薄いが故の事、だから私が与えていた
「…うまくできねぇだけで、お前も出来るんだろうが。」
「…跡、部…もういいから、」
「お前は黙ってろ。…ジローどうなんだ。」
「…出来る。…ただ…跡部が耐えられるかどうかが問題。」
血の吸い方
首筋の太い血管に、突起させた歯を立てる
同時にその立てた歯から、自身に流れる血を送る
その血が、痛みを感じさせなくなる“麻酔”となる
「俺はみたいに特別な血は送れない。それに…」
「それに、何だ。」
「跡部、今落ち着いてる。血を吸うときは、相手が運動した後とか、
お風呂に入った後とか、血の流れがよくなってなきゃいけない…。」
「…じゃあ、その条件全てなかったら…どうなるんや?」
「…ただ…抉られるような痛みと…吸った後も…溢れる血が、止まらなくなる。」
麻酔の変わりとなる血は、同時にキズを塞ぐ血ともなるから
震える声で、忍足の疑問に答える
ジローはぐっと口を噤む
でも跡部は
何でもないように
言い放った
「…そんだけか?」
「…え?」
「くだらねぇ理由で迷いやがって…とっととやれ、ジロー。」
お前の命と俺の痛み程度
どっちが大事だと思ってる
血なんて、どうとでも止められる
「跡部…。…、いいね?」
「コイツに確認とるな、早くしろ。」
「…あと、べ…」
「…に、血を送ることは出来るんだな。」
「…出来る、やる。…忍足、跡部の事支えてて。」
跡部は自分から離れ、ジローの方に向き直る
忍足は言われた通りにする
岳人がいつも間にか傍に来て手を握ってくれた
ジローは、あの屋上の時と似たような雰囲気を出しながら
ゆっくりと両手を跡部の首に手をかけた
跡部が、私を見ながら言う
「…少し待ってろ。元気になったら言いたいことが山ほどあるんだよ。」
「…」
そう言って
私の髪を軽く撫でた
そこで、私の意識は途切れた
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