ampiяe 10










、腕だせ、手当しねえと…」

「…平気。私は掠っただけだから。」




雨の音だけ響く薄暗い教室で

私は相変わらず、跡部の腕の傷を抑えていた

そしてボソボソと跡部の声に応える




頭がぼんやりするのは

跡部に怪我をさせたというショックから

抜けだせていないせいなのか




それとも気持ちが落ち着いて

安堵に包まれているせいなのか

どちらとも判断できなかった





「じゃあ、行くぞ。これ以上待たせるとアイツらが煩ぇ。」

「跡部…傷…」

「あ?痛くねから、平気だ。血が多少出ただけだろ。」

「…」




跡部が立ちがるのに合わせて

自分も立ち上がろうとする

でも、傷を抑えた手は固まったように外れてくれなかった




バレるのが怖い?

きっともう傷は治っているから




違う

怖いのは、傷を私が治したという事実より

もしかしたら傷が治ってないんじゃないか、という恐怖




力が足りないんじゃないか

手を外したらまた血が流れるんじゃないか

彼の傷が治っているのなら

バレることなんてどうでもいい





「…いい加減離せ、行くぞ。」

「このままでも歩ける…」

「…勝手にしろ。」




顔を伏せたまま応え、それでも手を外さない私を見ても

跡部はそのままにしてくれた

シンとした廊下を二人で歩いた












目の前が

霧がかかったようになっている

雨のせいだろうか




周りの音がよく

聞こえない

雨の音のせいだろうか





…きっと、違うんだろうな

我侭を貫き

むちゃくちゃをしてきた報いを今受けている

隠そうと、隠そうと必死になっていた事実















部室に着く

微かに中から数人の騒ぐ声が聞こえる

跡部の言ったように、自分達を待っていてくれたんだろう





私の手はそこまできてやっと跡部から離れた

傷の周りには、血がこびり付いて固まっていた

そのせいで傷が治っているのかどうか、一見分からなかった





跡部も一瞬自分の腕を見たが

やっぱり不愉快そうに眉根を寄せただけで

治っているかどうかは気にしていなかった





でも「治ってる」

私はそう確信していた

やっと安心した





「…よかった…」





その声は雨に消されて跡部には届かなかった

跡部が部室のドアに手をかける姿が視界に入る

中にいるのは…ジローと、岳人と、忍足か




「跡部おっせぇ!どこまで探しにいってんだよっ」

「うっせぇ岳人…他の奴らは?」

「もう俺ら三人だけや。」

「あとべーお迎えおつかれさまぁー…は?」

「あ?後ろにー――ッ」




ナイスキャッチ

さすがに泥まみれになるのだけはゴメンだったよ

傘はもう手から離れていて




ジローらの会話を聞きつつ

私の体は跡部のすぐそばで、重力に逆らえず

崩れて落ちていた





!!」

「ま、また貧血かよ!?」

「跡部、とりあえず早よ中は入り!」




ジローと岳人と、忍足の声が重なる

大丈夫ちゃんと聞こえる

体の感覚は、ほとんどないけど





っ!聞こえる!?」

「ジロー…、ごめん…も、駄目だったみたい…」

ッ」





ソファーに寝転がらされ

私はすぐそばに来たジローに言った

ギリギリ笑みを浮かべながら




そう

限界なんて昨日感じてたじゃないか

猛烈な睡魔、栄養不足に、力の使い過ぎ




それなのにまた怪我して

治して

後悔はしてないけど




「…、声、聞こえる?見えてる?」

「ん…一応。」

「体の感覚は?」

「…無い、かな…でも…寒いかもしれない。」

「お腹、空いてる?」

「…よく、分からない。」




ジローに問われる

一見冷静にみえて、でも声はやっぱり震えている

お腹は空いてる?は血を欲しているかの問い




これがなければ、もう、かなり危ないということだろうか

でも、今私は本当によく分からない

欲しているような、欲っしていないような




とにかく体が重くて

冷たくて

眠ってしまいたい




「ちょ、ジロー何のんきに言ってんだよ!先生呼んで来た方がッ」

「いい、無駄だから。」




岳人の至極全うな言葉に

ジローはきっぱりと言い返す

…そんな泣きそうな顔しないで欲しい




「ジロー何が、無駄なん?なあにに何が起こってん?」

「…起こってるって、どういう意味だ?」




忍足の冷静な声に、跡部が反応する

…今きっと一番事実に近いのは忍足

そばで私を見ていたから




「…忍足も、跡部も少し、黙ってて。」





押し殺したような声で、ジローは言った

ジローは皆に背を向けていて、皆にはその表情は見えない

霞む私の目にだけ、ジローの表情が映る





「…ジロ、」

、俺ね、ダルさなくなったんだ。」

「え…?」

「本当はダルかったけど、黙ってた。」

「…」

「でもさっき寝て、目覚めたら元気だって気づいた。」




ジローの持つ吸血鬼の血は、およそ私の十分の一

強まる吸血鬼の血に耐え

乗り越えるのは私より容易なのは分かる




たとえ血の供給を絶ち、運動をしていたとしても

ジローは代わりにひたすら眠っていた

体力を回復し、温存する為に最も最適な方法





「今日、いつもより、寝てたでしょ?」

「…うん、ほとんど、ずっと寝てた…」

「目覚めたら、少しだけと、ずっと継続してあった渇望感が消えてた。」

「…乗り、越えたんだ…」

「うん。」





渇望感が…血への飢えが消えること

それこそ、成長期の終わり

再び普通の人間にごく近くなり

血の供給が不要となる体となる最大の印




…よかった

本当に、よかった

血を絶たせていたことが、本当に不安だったから




自分のことよりも

一瞬その嬉しさに包まれた

ジローは言葉を続けた





「それが、どういうことか分かる?」

「…?」

もも、終わるハズなんだ。」

「ああ…」

「始まったのが、一緒なら、今、耐えればも終わる。」





ここさえ越えれば

もう、跡部から奪わなくていい?

隠していたことも、自分がバケモノであることも変わらないけど




普通に、普通の子みたいに

跡部の、そばに

あの彼女みたいに、正直に自分の気持ちを




でも、もう




「ごめん…無理、かもしんない、ね」

っ」

「あはは…酷使しすぎちゃった…」





血を絶って

階段から転げ落ちて

日光に焙られて




また血を流し

跡部の怪我を治療した

後悔はないけれど

もう取り返しはつかない




私は






「きゅうけつき・・・」






私の台詞に反応したのはジローじゃなかった

今更のクセに

自分を指すその名に、心臓が鳴った






「吸血鬼…みてえ…」






岳人はポツリと

怯えたような、訝しむような目で

それでも確かな口調で言った




単純で素直な岳人だから

素直に思ったことを言ったのだろう

私は薄く笑った




思ったのは

きっと

岳人だけじゃない





「やっぱあれ、光にやられとったんか、…」

「…え、ゆーし、何か見たの?」

「…の腕が日光に照らされた後…酷い火傷しとるように見えてん。」





この前の廊下の騒ぎのこと

やっぱ、気づくか

と呑気に私は思う




でも、ソノ程度じゃ納得できないだろうな

非現実的

ありえない




ありえるわけがない

物語・作り話・フィクション

それが“きゅうけつき”

それが“バケモノ”




ジローが、私の手を強く握る

岳人も忍足も、痛いぐらいの視線を向けるだけで

それ以上口を開かなかった




彼だけは、まだ何も言ってなかった

黙って聞いているのか

それとも、何か考えているのか




怖くて

どうしても怖くて

今更だけど怖くて

そちらに視線を送れなかった




それでも

やっぱり

彼は、跡部は黙っていることはなかった




彼が発したその言葉は

覚悟していたハズなのに

重く、心に圧し掛かった





「……お前、一体  なんなんだ?」










純粋な疑問の言葉が

つきささる

ぎゅと、私は目を閉じた










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