Vampiяe 1
今日もいい天気
見上げれば雲ひとつない空
照りつける太陽を目を細め睨む
「いい天気だねぇ。ジローさん。」
「うーん絶好の昼寝日和だね。」
「…いつでもぐっすりじゃん。」
「へへ〜」
校舎の裏にあるちょっとした庭
木々が茂っていて、彼には格好の場所
ジローとは幼馴染やってもう…
「何年だっけ?」
「年齢分」
「だね。」
「生まれてからずっと一緒だったハズだからー」
てな感じで幼馴染やっています
ここでこんな会話をするのもいつものこと
「ジローちゃん、今日はお話がありまして。」
「ん〜何…?」
「…寝ないでね。その調子だと部活の時間まで寝る気でしょ。」
「そうしたいけど樺地が来るからあ。」
「…まぁとにかく私の話を聞いてよ。」
ポスポスとジローの頭を小突く
彼を放っておくと私まで小言を言われる
本当容赦ないんだからあの俺様部長
「うん〜で、なに?話って。」
「あー私ねぇ…あいつ殺しちゃうかも。」
「あー…もう、そっか…」
「うん。」
「…大丈夫だよ、なら。」
「そうかな。」「うん。」なんてやりとりをして
結局ジローは寝入ってしまった
主語の無い会話のまま
でもとても重大なことだった
私にとって
全ての騒動の始まり
「…お前、確かマネージャーだったよな?」
「はい…申し訳ございません。」
あの後一度はジローを起こそうとしたものの
予鈴にせかされ、起きない彼をそのままおいてきた
案の定、部活が始まる時間までジローは爆睡していた
「マネージャーが部員寝かしたまま放置してどうする。」
「…どんまい?」
「…泣かされてぇのか?」
「ヤダひどい、仮にも”愛人”に向かって。」
「…阿呆が。もういい、仕事戻れ。」
そう言って跡部はコートに戻っていった
説教終わり、一応
はあとため息を吐けば、背後に気配
「忍足。」
「お疲れさん。またジロー寝てたんやって?」
「私が甘かった…」
「…で、話によるとまだ愛人なん?は。」
「盗み聞きっすかー…さあ、どうだろねえ?」
テニス部マネージャー兼、跡部の愛人
それが私の学校での呼び名
…呼び名というか、そう認識されている
恋人、ではなく愛人
定期的に一緒に帰るのに
「付き合っているの?」と聞かれたら答えは「NO」だから
それに跡部には常に女の子がいたから
中には彼女、と呼ばれる子もいた
常にとっかえひっかえだったけれど
でも私との関係だけはずっと変わらなかった
でも、付き合ってはいない
だから、愛人、なんて呼ばれ方をする
けれど今は、跡部に他に彼女はいない
いつの間にかいなくなっていた
それでも私達の関係は変わらない
「普段の様子みとったら、恋人同士に見えるけどな。」
「普通でしょ。付き合ってないし。」
「この際事実はええねん。二人の気持ちは?」
「さあ?どうして?」
「ただの好奇心。やって愛人って響きエロい。まさかマジでそんな関係なん?」
「…忍足。」
「ん?」
「部長様がスッゲこっち睨んでいらっしゃる。」
「げ。」
この後忍足はセット三本追加されていた
うわぁかわいそう、寝坊したジローと同じ刑だ
…こんな質問も、もう何度目か分からない
「…帰り、待ってろ。」
「…ああ、うん。了解。」
部活終了後
それが合図だった
一緒に帰る時の
忍足の視線は勿論、他の部員の視線もくるが
暗黙の了解みたいなモンで誰も突っ込む人はいない
突っ込んでも答えない事を皆知っている
彼の車に乗り込むのももう慣れた
特に会話もせず
車は静かに跡部家へ到着する
「、夕飯一緒に食うか?」
「今日は家帰って食べる。跡部食べてきなよ。」
「…分かった、部屋で待ってろ。」
「ん。」
ここまでもたいして普段と変わらない
そして私は一人時間をつぶす
無駄に広い、殺風景な彼の部屋で
ベッドの上に行儀悪く寝転がっていたら
しばらくして
跡部が戻ってきた
「…早かったね、ちゃんと食べた?」
「いや…待たせたままじゃ悪いだろ。」
「気にしなくていいのに…いつもの跡部様でいいのに…」
「煩ぇ。だったら一緒に食え。」
「はいはい。」
呆れたように息をついて、ギシと音を立て
スプリングのよくきいた、フカフカなベッドの上に彼は座った
つけたままだったネクタイを慣れたしぐさで取りはらう
私はボケっと寝転がった状態のまま見上げていた
ぱちりと
その蒼い目に睨まれる
「。」
「…ならないよ。」
「まだ何も言ってねぇだろうが。」
「そりゃ失敬。でも…そうでしょ?」
「あぁ…いい加減ちゃんと俺の女になれ。」
「…あなた意外の男がいったら鳥肌が立ってる台詞だね。いつものことながら。」
「そうか。でも生憎言ってるのは俺だ。」
「…おっしゃる通り。」
跡部は最近
私を家につれてきた時この台詞を言う
跡部の周りに女の子がいなくなってきた頃から
「今の関係壊すって言うなら…別れる。」
「…いつまでも愛人って呼び名がいいってのか?」
私は、跡部の気持ちを利用している
この関係を絶たれたら困るのは…本当は自分のクセに
彼は、きっと本気だと思う
けど私は“愛人”の場から変わる気はない
跡部自身も、元々は曖昧な関係から始めたせいで
強く押し切る事も出来ないでいる
…跡部はいつの間にか本気になった
…私は最初から景吾を利用する気で“愛人”になった
気持ちは重ならない
この関係を切られて困るのは私の方
だから跡部の気持ちを利用したまま
この中途半端な関係でいるわけで
「恋人とか、そんな名称どうでもいいじゃん。」
「…」
「こうして私はここに来るわけだし。ダメなの?」
「…いや…」
有無を言わせず、誤魔化すように跡部に抱きつく
そう、それでいい
同時に思い出す、忍足に言われた言葉を
“まさか本当にそんな関係なん?”
まあ、正解
こんな関係になってからもうすぐ一年だろうか
この関係の意味を唯一知っているジローに
一度言われたことがある
私のことを“全て”知っている上で、
「本当にそれでいいの?変える事だって出来るんだよ。」
私は答えた
「いいの。」 と
自分の気持ちを、深く考えたくなかった
とにかく私は今の関係のままでいい
それだけがはっきりしていることだから
そして私はそのまま
柔らかい布団の中に沈む
なにも、考えなくなる
「跡部、帰るね。」
「…二人ん時に苗字で呼ぶな。」
「えー…けーちゃん?」
「…うぜえ。」
「ひどっ」
けだるそうに横になったまま、跡部は答えていた
私はもう完全に着替え、帰り支度をしている
すぐ聞こえてくる寝息を確認してから、部屋を出る
最も、罪悪感を覚える瞬間
「・・・ばいばい、また明日ね景吾。」
「お帰り。」
「…びっくりしたぁ、来るなら言ってよジロー。」
家に帰って、自室のドアを開けたら
ベッドの上にごく自然にジローが座っていた
家族とも顔見知りなので、よく勝手に上がっている
「…跡部の匂い、がする。…大丈夫だった?」
「まだ、いつもどーり。兆候もないしね。」
「じゃあついでに、いつもどーり跡部に告白された?」
「…うん。」
「やっぱ跡部可哀想だよ。…もだけど…」
「このままでいいの。何度も言ってるでしょ。」
ジローの隣に私も腰掛けた
不服そうな複雑そうな顔でジローは私を見る
本当いっつもボケっとしてるわりに気遣ぃなんだから
「その話はもう置いといて。…ジロー足りてる?」
「平気。今日も寝てたから。」
「…本当たっぷりとね。」
「えへ。」
「…でも今なら新しいから。前あげた時から時間空いたし。」
「…知らないとはいえ、跡部がにあげたもんだから、やっぱもらい辛い。」
「…それは私も同じ気持ち。でも倒れられる方が嫌。」
「ん〜それはそうだけど〜…」
苦笑しつつ、あやすようにそのくせっ毛を撫でる
ごく自然な動作で、ジローに口付けた
自分自身も、何かを振り切るように
そして数秒して離れる
「…あーうん、綺麗だね。」
「…そりゃね。ん、たれてるよ。」
「む、もったいないー…し、申し訳、ない?」
どっちでもいいから
そう言って私はジローの口を拭った
拭った指が赤に染まる、つんとした鉄の香り
まっかな血液
さっきまで一緒にいた、彼の
私はじっとそれを見つめる
どうして
神様はこんな風に私をしたんだろう
私を、私たちを
どうして
血を吸って生きる生物の血を混ぜたの?
私もジローも見た目はいたって普通
人と違う点をあげるのならば
吸血鬼という生き物の血が混じっている事
ニンニクも十字架も、聖水も銀の杭も太陽の光も平気な
化物
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