跡部が浮気してたと確定した訳ではない

でも彼への拭いくれない不信感と

何よりも自信が持てない自分と




…やっぱり彼が好きな自分

だから、こそ悔しくて

腹が立って、情けなくて




だから、じゃないけど

私は

日吉と浮気する事にした








気に対する共謀作戦2







**



下克上の一環

本当にただそう思った

彼女を見てたら、そう、思い立った






先輩は俺が一年の時、マネージャーになった

冷めてるというか、飄々としてるというか

そんな雰囲気にちょっと違和感を覚えた




その後で跡部先輩と付き合っていると聞いて

あぁ、そのせいかと思った

跡部先輩の彼女という他人からの視線に負けないよう

あんな態度でいるのだと




実際話したのは、結構時間がたってからだった

一年らしく雑用をしている時

先輩のほうから話しかけてきた




『日吉若だっけ?…変わった名前だね。』

『失礼ですね。…先輩。』

『…対抗してフルネーム呼ばんでも。生意気。』

『それは、どうも。』

『じゃあアダ名で読んであげよう。…ひよ、ひ、ぴよ?』

『やめて下さい。』




しばらくたってから

あの時何故話しかけてきたのか聞いてみた

普段は事務的な事以外話すのをあまり見ないから




『んー話しかけたのはなんとなく。』

『はあ…』

『その後話続けるつもりはなかったんだけど。』

『だけど?』

『日吉が、私の名前知ってたから。』

『…』





ほら私の呼称って「跡部景吾の彼女」だから

そう言って先輩は普段あまり見せない笑顔を浮かべた

なんか、その笑顔が忘れられなくて

それだけ、本当にそれだけだったけれど





「おーはよー…」

「朝から、締りのない顔ですね。」

「ぴよし。」

「殴りますよ。」

「…ねー、浮気ってさ、実際何すんの?」





そんな先輩が

恋人の浮気現場を目撃して泣いていた

何も、深く考えず今回の事を提案していた





「とりあえず、一緒にいればいいんじゃないですか。」

「じゃあこれも一環だねえ。一緒に登校。」

「あまり、面倒なことをするのもあれですから。」

「え、なんか日吉面倒くさくなってない?」

「そんなやる気だすことでもないでしょう。」

「…そっすね…」




そのあとは特に話すこともなく

黙々と歩き、学校へと向かった

そして昇降口で別れる

お昼は一緒に食べようという約束だけして





 **





「だるい…」




私はぼーっと授業を受けていた

跡部とはクラスも遠い、だから会うこともなかった

というか、昨日から携帯に連絡はきてるが

返事はしてなかった




部室に行くと言って行かなかったんだから

普段だったら文句を言ってくる

あの人の性格上



文句だけだろうか

女の子との事は何も言わないのか

それとも、何でもなかったかのように話すんだろうか




どちらにしろ

きっと

直接捕まえに来ることはないんだろうな




そう

いつも私の方から彼の元へ行くんだ

今更、そんな事に気づいた




「なんか…むなし…」




呟きと共に、四時間目終了のチャイムが鳴る

誘ってくれる友達を断り、屋上へ向かう

きっと彼女はまた跡部と食べると思ってるんだろうな

そう思ったら、更に、虚しくなったけど














「うわ…今日も風強いなぁ」

「お疲れさまです。」

「あれ、もう来てたの?早いね。」

「普通ですよ。」

「そっか。私は待たされるのが普通だからさー」

「…」

「ご飯食べよ。」





バタンと勢いよくあけた屋上の扉の向こう

日吉はもうそこにいた

今日も天気は悪い、やっぱり人もいない





「もっと誰かに目撃されたほうがいいのかな。」

「噂なんて簡単に生まれて流れるもんですよ。」

「ふうん…」




日吉の隣に座り込み

風に髪を煽られながら

お弁当を食べ始める




「中学生らしいお弁当の中身だね。」

「中学生ですから。」

「もっと会話は楽しむものだよ。」

「跡部先輩とは楽しんでたんですか?」

「え…あ…うん…まあ、普通?」






跡部との会話はどうだったろうか

別につまるとか、つまらないとかで考えてた事ないような

普通だった、うん良くも悪くも




「普通だったなら、いいじゃないですか。」

「いいのかね。」

「…あれから連絡は?話てないんですか?」

「昨日夜に一度、出てないけど。会ってはない。」

「そうですか。」

「よっぽどの事がなきゃ会いになんてこないよ。」

「…」




また自虐的なこと言ってんなぁとか

思ってんだろうな

でも事実なんだもの




「…やめる?浮気ごっこ。」

「まだ何もしてないですよ。」

「…」

「それよりさっさとご飯食べて下さい。」

「え?え、あ、はやっ!そんなに急がなくても…」













「…あー…最低…こうゆー事ね、早く食べろって…」

「はい。」

「先に言って、先にっ!したら屋上なんて選ばなかったしっ!」




あの後直ぐ、雨が降り出した

そりゃもう見事な土砂降りで

数分いただけでずぶぬれだった




ぬれた制服や髪をはたきながら

廊下をわめきながら歩いた

無駄に目立つ




「なにこれ作戦?目立つ。恥ずかしい。」

「さぁ。でもこんなにぬれる気はありませんでした。不快です。」

「…どうもすみません…。」




くそこいつ本当可愛くない

なんて心の中で悪態をついてた

そんな時だった




「うっわ、何やってんのお前ら。」

「岳人。あー…雨中散歩?」

「なんだそれ。つか変な組み合わせ。仲よかったっけ?」

「あー…まあね。ちょっとお昼………あ。」




声をかけてきたのは岳人

まぁ三年校舎の廊下を歩いているんだから

別に話しかけられてもおかしくはない




けれど、その背後にいた人物に

私は固まった

つい、忘れてしまっていたから




「…跡部。」

「何やってんだ、お前。」

「え、いや何って…」

「…つーか、なに昨日から人のこと無視してやがる。」




そう言われるのは予想していた

でもいざ目の前で言われたら、何も言えなかった

日吉も向日もいる前で、変な空気が流れる




その変な空気に割って入ったのは

日吉だった

彼はこう一言だけ




「…先輩、早く教室戻らないと、風邪ひきますよ。」

「え?あ、うん。」

「俺も戻ります。じゃあまた。」




失礼します。そう最後に言って日吉は二年校舎の方に戻っていった

私はぼけっとしてその様子を眺めていたが

ぱっと思い出したように顔を跡部に向け言った




「・・・風邪引きたくないから教室戻る。」




じゃあね、と背を向けながら言って

逃げるように教室のほうに走っていった

彼がどんな顔をしてるかなんて、知らない










「…おい向日、あの二人何してたんだ。」

「さあしらね。あ、うちゅうさんぽとか言ってた。」

「何言ってんだ…」

「だからしらねーって。」




それだけ吐き捨て、向日も自分の教室へと去っていった

残された跡部は、ただの走っていった方を数秒眺め

何もなかったように、表情も変えずに、その場を後にした














あの後教室に戻って髪をタオルで拭き、授業を受けた

相変わらずぼぉっとして

でも今度はずっと跡部のことが脳みそをぐるぐるしていた




結局私は跡部が好きなのか

誰でも思う至極当たり前のことを言われただけで

あぁ、ちゃんと気にしててくれたんだって




…無視された事が気に入らないだけかもしれないけど

さっきのも普段に比べたら反抗的な態度だし

日吉の台詞にも驚いたけど、あれもごっこの一環か




「はー…でも、結局あれだけだし。」




そう結局あれだけ

本人目の前にして何もいえなかった自分も情けないし

私は何がしたいんだろうと、もう一度自問したくなる





HRも適当におわらし、部活に向かうために席を立った

しかしまだ外は雷鳴付きの土砂降りだった

部活・・・あるのか?と疑った瞬間、また声をかけられた




日吉ではなく、彼だった






「…跡部。」




教室のドアに軽くもたれながら、

尊大な雰囲気を放ちながら跡部が立っていた

チラチラと他の生徒の視線を感じる




無駄に目立つなぁ

でも無視するわけにもいかず

ばれないよう小さくため息を吐き、近づいた




「・・・部活、中止?」

「ああ。この雨ン中やる気かよ。」

「…ですよね。直ぐ帰るの?」

「あぁ…その前に話がある。来い。」




びくと、思わず小さく肩が揺れてしまった

と同時に思う、なぜ私がビビらなきゃいけないのかと

「いいよ。」と一言いって跡部に付いて行った










部室は誰か居るかも

ということで人気のない特別教室棟の方へ歩く

情けないくらいに、私の心臓はドキドキいってた





「で、何で昨日来なかった?」

「…ちょっと…用事ができて、いけなくなった。」

「…じゃぁ何で電話もメールもシカトしてんだ?」

「携帯調子悪くて、だから、今日も持ってないし。」

「…じゃ、さっき日吉と何してた。」

「別に?何も。」

「何も?二人で仲良くずぶ濡れになってか?」




とりあえず、適当に言い訳してみた

さっきの日吉とのこと聞くんだ

てっきり昨日の話かなあと思ったんだけど




…てか怒ってるなぁこれ

どれが一番気に入らないんだろう

シカト?それとも、日吉とのこと?



――“ねぇじゃあアナタは昨日、部室で誰と何をしていたの?”




「…屋上行ったら、日吉がいて、ご飯一緒しただけ。」

「日吉が、屋上にだ?」

「…そしたら雨が降ってきて、濡れちゃっただけ。」

「…。」




納得言ってない顔だね

でも聞きたいことなら私もある




ねえ、昨日

部室で何してたの?

何で何も言わないの?




「…私、帰る。」




そう言って、来た道を戻ろう人した

…でもすぐ腕をつかまれた

振り返れば、やっぱり納得してませんって顔の跡部がいて




「…それで納得できるか。」

「…納得って、私は他の人とご飯すら食べちゃいけないの?」

「他の男とか?」

「…なにそれ束縛?大ッ嫌いそういうの。」




無理やり腕を振りほどいて、教室を飛び出した

まだ涙が出そうだった

本当は、気にかけてくれる事が嬉しいくせに


どうしても、素直になれなかった




まだ私は疑っている

だって、だって本当にショックだったから

聞きたい、聞けない















「先輩っ」




前もろくに見ずに突っ走ってたら

誰かに真正面からぶつかって止められた

…日吉だった

探していたのだろうか、私を




「…日吉」

「…まためそめそしてるんですか。」

「…うるさい。」

「跡部先輩に何か言われましたか?」

「私が大ッ嫌いって言った。」

「…何故。」

「…なんでだろう…なんか、こうかっとなって…?」





ぐすぐすと鼻をすすりながら

顔を伏せたまま話す

腕は添えられたまま




「…浮気ごっこしてるの、覚えてますか。」

「…まだリアルタイムの話じゃないの。」

「先輩次第ですよ。」

「覚えてるし、」




それがなんになるのか

正直分からないけど

私はまだ跡部に素直になれそうにないから




「さっき、名前で呼んだの気づいてました?」

「うん。跡部も気づいたんじゃない。だからより機嫌悪い。」

「仲いいレギュラーでも、名前は呼びませんもんね。」

「跡部と付き合うようになってからね。」




私の腕をつかんでいた日吉の力が弱まる

だから私も一歩引こうと思った時

また、強く腕をつかまれた

そんで、引き寄せられた




先輩、」




呼んだ声は小声だった

なに?

と答える前に言われた




「キスしていいですか。」




日吉の表情はいつもと変わらず涼しげで

何いってんだかなあこいつ

なんて呑気に考えてた




日吉の視線がどこか違うとこを見てるのは気づいた

そりゃ普段人気がない場所とは言え

今誰かいてもおかしくない



そう冷静に思ってたけど




「すれば…?」




むしろそのときの私の頭の中には

例のあのシーンが浮かんでいて

それを自ら再現するかのような感覚でいた








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