いつもの朝といつもと違う出来事 前
がたがたがたと電車が揺れる
いつもの朝、いつもの時間
私はいつもの様に文庫本を開く
私は最近少し早めの電車に乗る
そうすると少しだけ空いているので、座れれる
学校までの約20分間
いつも通り端に近い席に座り込み
読みかけの文庫本の栞を抜いた…のだけれど
15分ほど過ぎたところでおばあさんが目の前に立った
「…どうぞ。」
「あら、いいのよ。すぐ降りるから。」
「いえ。私ももうすぐ降りるんで。」
「そう?…どうもありがとう。」
笑みを見せるおばあさんに、会釈で返す
そして立ち上がった瞬間電車が揺れる
左手に持っていた本が手から離れた
「…あ。」
「…ほら。」
「…。」
「?お前のだろ。」
「あ、うん。あ、ありがとう…。」
「…ああ。」
いつからいたんだろう、この人
落とした本を受け取った手が、軽く震える
いつからいたんだろう、この人
本を鞄の中にしまった
そして横目で、チラリと盗み見た
私の本を拾ってくれた
隣りに立つその人の横顔を
―――いつからいたんだろう、この人
たしかこの制服は氷帝学園
学生ってことはいつもこの電車に乗るんだろうか
でも私この人みたことない
私がいつも同じ時間の電車に乗るせいかな
それとも本を読んでるせいで気付かなかったのか
…かっこいい、人だなあ
こんな人いたら、きっともっと前に気付いてる
でも、なんか電車が似合わないような
そう思った瞬間だった
聞いたことの無いような
金属の摩擦音が耳に飛び込んできた
「…ッ!?」
急停車?
横からの重みに体が捻る
不味い、これ、転ぶ
「――…あれ?」
「…大丈夫か?」
「…え、あ…あ、ありがとう。」
…再び、本を拾ってくれた彼が助けてくれた
がっちりと腰に腕を回され支えられている
少し、恥ずかしい
周りは立っていたほとんどの人がお尻をついていた
すごいなこの人、どういう力してるんだろう
そして、何が起こったんだろう
ガガッ
『―――お急ぎの中大変申し訳御座いません
…只今前の駅にて客様が線路に―――』
アナウンスが流れる
「…遅刻かなあ…あ、ご、ごめんなさい!」
「…ああ。」
何やら事故があったらしい
そして抱えられたままだった彼から慌てて離れ
再度、ちゃんと彼の顔を見直す
「あの、ありがとう。」
「いや、いい。」
それ以上なんて話したらいいか分からなくて
続ける言葉が思い浮かばず詰まっていると
彼の視線を感じた
「…なに?」
「…何でも無い。」
?
口下手か、話たくないのか
彼は同じように私をじっと見たまま
なんとなく気まずくて、無理やり話を振った
「…あ…時間、大丈夫?」
「…俺はまだ余裕がある。」
「そっか…」
「…おい。」
「え?」
やはり続かない
と諦めて会話を終わらそうとしたら
少し強めの口調で呼ばれた
「…お前、俺のこと覚えてねぇのか。」
「…は?」
ざわめく車内、多分怪我をした人もいるんだろう
アナウンスが一定の時間を置きつつ、何度も流れる
私を尻餅をつくことから救ってくれた彼は
唐突にそう言った
…だれ?
この人
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