いつもの朝といつもと違う出来事 後
会社に行く人、学校に行く人
そんな人がたくさんいる朝の時間に
急遽電車が止まるという、アクシデント
そして私は今
それとは別に
小さなアクシデントに遭遇している
私いつ記憶喪失になったんだろう
「えーっと…え?」
「…覚えてねぇみたいだな。」
「…。」
新手のナンパ?…なわけないか
女の子に困ってるように見えないし
わざわざこんな状況で、尚更
ということは本気でこの人は
『お前、俺のこと覚えてねぇのか。』
と言ってるのか
えっと…
…覚えてない
どこかで会った?
「ごめん…なさい。」
「いや、別にいい。…特に話したわけでもないからな。」
「えっと、待って…あの、どこで会った?」
「…ここで。」
「…電車で?」
あ
ポンと
私の脳みその中で
埋もれていた記憶が飛び出てきた
知ってる
知ってるよ
この人
「あ、あの時の…?」
「…思い出したか?」
「思い出した…。」
『…ねぇ、大丈夫?』
『…あ?』
『顔真っ青だよ。ここ、座りなよ。』
『…平気だ。』
『見てるこっちが辛いから。私もう降りるし。はい、座って。』
『…』
そう…一ヶ月くらい前
いつもみたいに座っていたら
目の前に、真っ青な顔した男の子がいることに気が付いた
その時はその様子に気をとられて
どんな人だとか、気にしてなかった
…すぐ降りたし
ああ
そうだ
あの時の、彼
「…探してた。お前、乗る時間変えたろ。」
「え?あー…一ヶ月前は、もっと遅い時間だったかな。」
「俺は普段電車にのらねぇんだ。だから、余計時間がかかった。」
「そ、それは、ごめん。…でも何で?」
「…。」
表情は特に変わってなかったともう
でも多分照れていたんだと思う
目線を少しずらし、彼は感謝の言葉をポツリと吐いた
わざわざ、お礼を言うために
滅多に乗らない電車に乗ったのだろうか
…ていうか、それだったら早く話しかけてくれればよかったのに
「…しょうがねぇだろ。お前は全然気づかねぇし。」
「本読んでたから…」
「声かけるタイミングがつかめなかった。」
「あはは、そっか。」
「笑うんじゃねぇよ。」
「うん、ごめん。」
くすくすと声を潜めて笑う
この人ってこんな人なんだろうか
全然しならないはずなのに
何故か意外な気がしてならなかった
「あの時、やっぱ気分悪かったの?」
「…こういう、人がごちゃごちゃ居るとこは好きじゃねぇんだよ。」
「ふうん。なんでじゃああの時乗ったの?」
「気紛れだ。」
「…あ、そう。」
「お前…、名前は。」
「え?ああ、。…君は?」
「跡部、景吾。」
ふと、笑みを湛えながら彼は言った
どこか、勝気というか自信に満ちたようなその笑みに
少しドキリとした
「。」
「え?」
「降りるぞ。」
「え!?降りるって、ここ駅じゃなっ…」
「ドアは開くだろ。歩いて道路まで出る。」
「学校まで歩いていくの!?」
「なわけねぇだろ。車呼ぶ。送ってやるよ。」
「ええそんなわざわざっ」
「あん時の礼だ。」
そう言って
ぐっと
彼は私の腕を引いた
そんな、いつもの朝の
いつもとちょっと違う
出来事
end