メガネコンプレックス2
冬休みに入り、新年を迎えた
近所の神社は初詣の人でごった返していた
待ち合わせの時間までまだ少しある
『、綺麗になろう。』
私の話を全て聞いたジロー君は、そう言った
『綺麗になればいいよ。』
忍足そんなヤツじゃないよとか
は自信がなさすぎるんだよとか
そういう事は何も言わず、ただそう言った
だから私は素直に頷いた
カッコつけるわけじゃないけど
過去の自分を捨てたかった
地味な生活を送り続け
このまま
たった一言の言葉に苦しみ続けるなんて嫌だった
「!お待たせっ!」
「ジロー君!あけましておめでとう。」
「おめでとー。…、綺麗になったねー。」
親戚の叔父さんみたいなセリフに
私は吹いてしまった
なんだよーとジロー君がぼやいている
きつく縛り続けた、腰近くまである髪を開放した
眼鏡も外した
隠すものは何もない
嫌いだったそれらを全部開放した
これが自分
見た目云々より、気持ちの問題の方が大きいけれど
「あのままでも良かったけど、いっぱい隠してたから。」
「…」
「その髪も目も、本当にのものだもんね。」
「うん…」
そう、私のもの
だから隠す必要なんてない
堂々としていればいい
「…ジロー君、本当にありがとう。」
新年早々
私は終わりのようなセリフを吐いた
また二人で顔を合わせて笑った
本当に彼と友達になれて良かった
こんな私に好きになってくれて
応えることは出来なかったけど
それでも私に自信をくれた
ほんとうに感謝している
あとは、自分でなんとしなきゃいけない
そして新学期が始まる
けれど学校に行った瞬間、私はジローに怒られた
私の風貌が以前と一緒だったからだ
そう、ビビッてしまったから
眼鏡をかけるのものも
髪を縛りつけるのも止めれなかった
どうしても踏み切れなかった
そうしたら今度はジローはこう言った
『俺がテニス部でレギュラーになれたら、も変わってね。』
だから私も応えた
『分かった。約束する。』
二年が終わり三年になる
そして…
彼は見事にレギュラーの座を獲得していた
ピンポーン
ピンポーン
ピンポーン
「ジロー君!!! 」 ばんっ
「おはよ〜〜♪」
「朝っぱらからチェイム連打はやめて…おはよう。」
ニコニコしている彼を見て、はぁと小さくため息を吐く
今日は彼と一緒に学校へ行く約束をしていた
今日とは三年生
私は彼と約束した
『俺がレギュラーになれたら、も変わってね。』
と
今までずっと隠してきた、見せれないできた
色素の薄い目に髪
それが原因でいじめられていた過去
そんなコンプレックスを抱え続けてきた
そして好きになった人からの一言により
さらに抱え込み
逃げ出せなくなっていた
「ってそらまだ眼鏡だし、髪縛ってるし。」
「まだ準備の途中!」
「じゃあまってるから早くねー。」
「…そこで寝ないでね。」
教室への道のりが長い気がする
足が重い、気が重い
既に軽く視線を受けている気がするが
気にしている余裕はない
「ラッキーだね、。」
「ラッキー、じゃない…。」
クラス替えの紙が張られる掲示板を見てきた
ジロー君とは違うクラスだった
その代わり、いたのは
忍足侑士…
髪はキチンと解いてきた、眼鏡も外した
色素の薄いそれらは、一見非行に走った生徒みたいだが
ジロー君も満足そうだし
けど、けれど、想定外だった
というかクラス別けのことを忘れていたりもした
その結果がこれ
確かにジロー君の言う通りいいのかもしれない
私がかたくなに地味を貫き通す原因を作ったのは
その彼の言葉からだったから
『全然、違う』
彼が何を意図していったのかなんて知らない
ただコンプレックスを抱いていた私にとっては
重過ぎる言葉だった
それを今、断ち切ってしまう
もう卑屈な自分は嫌だった
堂々と、胸張って…彼の前にでたかった
「…分かった。頑張る。」
「その意気だよ。あ、じゃぁ俺ココだから。」
ジロー君が新しい自分のクラスを指差す
急に不安が襲う、けれど
応援してくれたことを、無駄にはしたくはない
「また…後でね。」
「うん、じゃあね、。」
「えっ??」
「あ、お、はよう。」
「眼鏡やめたんだ!」
「あーうん。」
まず始めに、前も同じクラスだった友達に捕まった
始めに眼鏡を指摘され、髪を指摘された
そばで見せたらそれが自前だと信じれくれた
「えーそんな綺麗な色、隠す必要なんてなかったのに。」
「あ、ありがと…。」
ぎこちない笑みを返す
それからちらほらとクラスの子と話したけれど
皆同じような反応だった
カラコンでしょと染めたんでしょとか
そんなことを言ってくる子はいなかった
それ以外の人達がどう思ってるかは知らないけど
やっぱり私は必要以上に周囲の目を気にし
殻に閉じこもっていたのだと
改めて思う
けれど本題はこれから
そう、色んな意味で
一番に自分を見せたい人
どんな反応をするのだろうか
案外なにも思わないかもしれない
私の変化なんて彼にとってはどうでもいいかもしれない
…それでもいい
それでもかまわない
それでも私は
「おーいお前らーさっさと先体育館集合しろー」
ざわめく教室の中
このクラスの担任になる先生が来て言った
彼はまだ来ていない
とりあえず友達と一緒に体育館に向かった
「え、あれだれ?」
「染めてない?地毛?」
「髪と目−ちょー茶色いんだけど。」
全クラスが集まる体育館
クラスごと列を作っている間
聞こえてくる声
覚悟していたので我慢できる
それより、それより
彼はいるのだろうか
心臓が煩い
心臓が痛い
会いたいような、会いたくないような
どうしようか
また同じクラスになったね、とか何食わぬ顔で言おうか
それとも何も言わずにいようか、それじゃ意味がないのだろうか
「ー」
「…ジロー君。」
気が抜ける声した
ついさっきまで一緒にいた声
なんだか少し、安心する
「忍足まだ来てないね。掲示板とこかな。」
「ジロー君、声デカイ。」
「小さいよー誰も聞いてないし、見てるだけだし、を。」
「…そうだね。」
「だって可愛いもん。」
「可愛くないよ。」
「卑屈にならないのー。」
「…はい。」
「あ、忍足だ。」
「―ッ!」
固まった
ジロー君と話してリラックスしかけてた時
びくりと身体が震える
顔を伏せ、自分の足元を見つめる
ジロー君の視線の先の方へ向けない
忍足君の方に向けない
向かなきゃ
何気なく話しかければいい
じゃなきゃ、何のために
「…おはよう、忍足君。」
「…おはようさん。」
それから
すぐに始業式が始まった
だから私と忍足の会話もそれだけで途切れた
丁度良かった
やっぱり、挨拶だけで精一杯だった
その後の校長先生の話なんてカケラも聞いていなかった
それから教室に戻った
幸か不幸か…忍足君は隣の席だった
でも彼は友達と話していて
そんな調子のままHRが始まる
先生の話、どうでもいい
でも何て話しかけてらいいかも分からない
だんだんもどかしくなってきた
逆に、話したくてたまらなくなってきた
私は変わった、あなたの言葉がキッカケで
見せたいというより
多少自信がついたせいで“彼への思い”が先行して
ただ単に話したくなっただけなのかもしれないけど
ああやっぱりまだ彼が好きだったんだなって
他人事のように思った
先生の話が終わる
今日は始業式だけなのでもうここで終わり
私は、気づいたら行動に移っていた
自分で自分の行動に驚いた
ついこの前までびくびくして過ごしてたくせに
「忍足君、時間あるならちょっと屋上にでも行かない?」
「…ええよ。俺も…」
「え?」
「や、何でも無い。行こか。」
「う、うん…」
てことで
只今
屋上
「…。」
「…。」
自分から誘っておいて
話が切り出せないでいた
何と言おうか
自分がコンプレックスを抱いていたこと
貴方の言葉で傷ついたこと
けれどそれで自分が変われた事
忍足君にとってはどうでもいいかもしれないこれらの事
正直、何をどう話そうなんて何も考えてない
本当に勢いだった
どうしよう、またそう思ったとき
先に、彼が口を開いた
その言葉に、思考が止まる
「…、やっぱ綺麗やったんやな。」
何を言っているんだろう、この人は
綺麗?
やっぱ?
「あ、私…え?」
否定するでもなく、肯定するでもなく
私は呆然とした
呆然としながら何とか言葉を切り出そうとした
「…き、れい?」
かろうじて絞りだせた言葉がそれだった
彼の言葉が予想外すぎて
信じ、られなくて
「いや、うん、せやな。」
あまりすっきりした言い方ではなかったが
彼は少し困ったように
でも微笑んでいた
久しぶりに見る、彼の笑顔だった
正直に、嬉しかった
綺麗と言ってくれた事
やっぱりと言う言葉は気になるけど
素直にお礼を思った、けれど彼の次の言葉は
「…でも、前も綺麗やったな、は。」
嘘
嘘だ
この人は適当な事言ってる
「…嘘つき。」
「え?」
「そんなの、嘘だよ…」
「…?」
「私は、綺麗なんかじゃなかった…!」
茶色の瞳に、水が溜まっていた
茶色の髪が、風に乱されていた
太陽の光に浴びてその色は、さらに誇張されていた
私は吐き出した
彼に、違うと否定された時から
ここに来るまでの事を
はぁと私息を吐いき、また吸った
忍足の顔は見れなかった
きっと酷い顔をしているから
ここまで聞いてどう思っただろうか
引いただろうか
けれどもう引き戻せない
「…私は勝手に貴方の言葉に傷ついて、」
「…」
「でもある人の助けで、立ち直ることができた、過去からも。」
「…」
「だから、今日、忍足君を呼んだのは、」
また息を吐いた
そして吸う
顔を上げて、忍足の視線を捉えた
「一番、貴方に見せたかったから。貴方が好きだったから。」
言いたいこと全部言い切って
気づいたら告白までしていた
でも事実
これが、また一歩進むため
しなきゃいけないこと
過去の自分と向き合って、ケリをつけて
また進む為に
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