蝶7
「ねぇー景吾君、聞いてもいい?」
「何だ?」
「ここってさぁ、一応ホストクラブなのに女性いるじゃない?」
「気になるのか?」
「気になるっていうか…恋とか、しちゃわないのかなーって。」
「ねぇな。」
「ハッキリ言うのねー…」
当然だが、客からはよく聞かれる質問だった
普通、ホストクラブに女はいない
けど、ここには大勢いる…大勢ってほどでもないが
しかし、それに不快を示す奴は思いのほか少ない
ここにいる女…白蝶は皆それがウマイ
気配を消す…というのだろうか
まず、ほぼ客と視線は合わさない
対応は淡々と、ファミレス的な笑顔もなし、事務的な口調で
いつの間にか現れ、いつの間にか消える
だから、客にとっては
ただ自分と蝶を合わせてくれる人
な、だけなのだ
「は、ヘタに惚れたなんだと言ってみろ。」
「どうなるの?」
「まず二度とここでは働けねぇな。」
「女だけ?」
「俺達もだ。」
「それが、ここで人気ある人でも?」
「ここの規則は絶対だ。」
「へー…。」
「なんだ?」
「やっぱ、ここって変わってる。」
「嫌か?」
「ふふ、まさか。」
女はニコリと微笑んだ
跡部も微笑み返す
リンと、外からの呼び鈴がなった
「失礼致します。」
「いいか?」
「えぇ、どうぞ。」
お酒、料理を入れるためなどに、白蝶はこの部屋を訪れる
許可を下すのは客
促すのは蝶
するりと、障子戸をあけ白蝶が部屋に入り、お酒を置いていく
用があればここで言いつけるが、何もなければ何も言わない
そして白蝶も出て行くまで、必要以上何も喋らない
「失礼致しました。」
「ふふ、月天子ってお酒。美味しいから飲んでね。」
「…高ぇだろ。」
「当然よ。じゃなきゃ貴方に出せないわ。黒蝶。」
「さんきゅ…。今開けるか?」
「次来た時に。」
* *
「はい、幻霧館で御座います。はい。ご予約ですね。
今から、ですか。少々お待ち下さい。…ねぇさんいる?」
「あー上だと思う。呼んできます?」
「あ、ならいいや。始めてのお客様で今直ぐいいかって言われたんだけど
今空いてる蝶いた?」
「始めてのお客様なら、青蝶よね。なら大丈夫。」
「ありがと。―――もしもし、お待たせ致しました…」
数刻の後
門が開かれ、初めてのお客様という人が来る
これがまた、面倒なこととなるのだが…
「あれ、お客様?」
「あ、さん。はい。初めてのお客様です。」
「始めて…じゃあ青蝶……――あれ?」
「どうかしました?」
履物を変え、お客は受付の方へ促される
綺麗な人だった
明るいブラウンの髪を結い上げ、上品な萩色の着物を綺麗に着こなしていた
「…あー、あーあー…」
「さん?」
と一人の白蝶は、階段のから玄関を覗いていた
ギリギリ客からは見えないように
そして思い出したかのように呟いた
「あの人、Cassiopeiaのオーナーだ。」
「えっ?そこってあんまいい噂聞かない店ですよね…いいんですか?」
「よくないねぇ…大部屋?」
「いえ。相手は青蝶で、小部屋希望です。」
「よし。じゃあ取り敢えず通しちゃおうか。」
「いいんですか?」
「うん。」
「だったら、黒蝶を…」
「ブー。今跡部お得意さんとこ。」
Cassiopeiaは外のホストクラブの一つだった
結構大きい店だが、同業者の中での評判は悪かった
は場所を変え、受付を覗き込みながら笑んだ
「どうせなら、お金ふんだくってから帰ってもらおう♪」
「ふんだくるって…相手はプロですし、青蝶にそんな技術は…」
「そっか…えっと、今青なのは…ジロー、木更津兄弟、岳人、若に…」
「性格も合わないと…厳しいんじゃ…」
「あーそう考えると、そういう小悪魔系ほしいなぁ…今度拾いに…」
「さん!小悪魔とか恥ずかしいこと言ってる場合じゃないですよ!」
「えぇ小悪魔って駄目?」
ぼんやりと考えに浸ろうとした私を
真面目な白蝶は叱咤する
どうしたもんかと、受付を覗き込みながら思案を巡らす
「よっし。こっちも騙そう!あっちも同業ってバレてないと思ってるみたいだしね。」
「…はい?」
* *
「失礼して宜しいでしょうか。」
「んー?白蝶か。入ってもらっていい?」
「ええ、いいわよ。キヨ。」
「どっぞー。」
私は今、とある蝶の部屋に来ていた
ノリと性格で、あの客からふんだくるには適しているだろう彼の
あ、もちろん普段彼がそんなことしてるわけじゃないですが
「…清純さん。お客様のお呼びがかかっております。」
「えーどういうこと?ここ予約制よねぇキヨ。まだ時間平気な筈よ?」
「そうだよ。なんで?」
「申し訳御座いません。お客様には別の蝶をこちらにお呼び致します。」
「えー…」
「今日の御代も結構で御座います。」
「今日結構いっちゃってるわよ?」
「構いません。次回はご予約を優先させて頂きますので…。」
「んーじゃあいいわ。…またね、キヨ。」
「ごめんねー!今度一杯サービスするから!」
「うん、楽しみにしてる♪」
「申し訳御座いません。有難う御座います。」
正座した状態で、一礼をして
キヨを部屋の外へ促し、戸をしめた
紫の帯がゆらりと揺れた
「で、どしたのちゃん。何事?」
「ごめんね、キヨ。どうしてもお願いしたい客がいんの。」
「へ?」
「ふふ。」
* *
「……さん、いいんですか?普通に帰して。」
「ちゃんの言う通りに、あのお客さんには高いのは一杯入れてもらったよ〜♪」
「さすがキヨ。よく出来ました!うん、で、そう。今日は帰しちゃっていいの。」
「でも規則では…」
「うん、ウチに同業の人間は立ち入り禁止。…この界隈では既知の筈よねぇ。」
「ちゃん怖…」
あれから、客…を装ったCassiopeiaのオーナーが出て行った玄関を前に
私は仁王立ちになって、笑みながら見つめた
時間も時間で、他の客はもうほとんど帰っていた
「んじゃ、もう仕事終わってる蝶、集めてくれる?」
「…はい?今度は何ですか…」
8