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「ねぇねぇ。」
「んー?どうしたのー。」
「質問していい〜?」
「どうぞ。」






大抵、皆休んでいる幻霧館の昼
庭の点検と称して歩いていた私は
ジローに捕まった






「何かあったの?」
「いっぱいあるよ。」
「ん?」
「わかんないことがあるんだー。」
「お店のこと?」
「うん。」




まぁそれもそうだろう、もう数ヶ月たって慣れてきたと思うが
ここ幻霧館は独特のルール…絶対な規則が多いから
でも慣れてしまえば楽なことばかりだと思うが







「何がわかんないの?」
「ここのルールってさぁ誰が決めてるの?」
「オーナー。幻霧館を作った一番偉い人。」
「ここに来たことある?」
「もちろん。でも滅多にこないし、大抵皆仕事してる時だからね。」
「じゃあ、その人がいないと、は一番えらいの?」
「まぁ、そうかも。でも経営とかムツカシイことはしんない。」







幻霧館の知識と、接客ルール等
私が心得てることは、本当にそんなようなことだけだ
けれど子供相手にしてるわけでもないし、蝶に至っても、お客さんでも
そう頻繁に対処不能の事態は起こらない





「ねぇ…はさ、なんで偉いの?」
「…は?」
「えっと、白蝶頭じゃん。」
「ぶー。私は副です。あ、そうオーナー以外に偉い人もう一人いる。」
「副社長、みたいな?」
「そうそう。一応その人が白蝶頭。」
「オーナーと違うの?」
「まぁ位が一個下だからね。」
「ふーん…」







ちなみに白蝶になるのは、ある意味蝶になることより難しい
そして、やはり色々と事情を抱えているものだ
蝶にちょっかいを出されないように、そのような事情も全て調べられる






そして接客以外に警備担当でもあるので、体力もなければならない
まぁなにより蝶と関係を持ってはいけない、というルールを遵守することが一番で
お互い手を出してここを辞めるなんてことになったら、もうこの界隈では働けない







…しかしそんなこと聞いて面白いのか、と思う
他にも聞いてくる人はいるが、というか当然だが
ジローの年齢的に楽しい話題ではないと思うが







「そんなこと、気になるの?」
「えーだって、一応自分が働いているとこだよ?知りたいじゃん。」
「…そうね。普通説明するもんか。ここはそんなとこもズレてるからなぁ…」
「ねぇ。」
「ん?」







幻霧館の広い庭にある、池の前で立ち止まる
鯉がパクパクしていたので
用意していた餌をまいてやる







「ここさ、普通の働く場所じゃないよね。」
「…普通って?」
「ん、んー…あんま、堂々とする仕事じゃない。」
「そうだね。」
「なんで、それなのに、はここにいるの?」
「どういう意味?」
、年齢しらないけど若いと思うし。ずっと前からいるっぽいし。」







鯉が、だんだんと集まってくる
狭い池のくせに、こんなにいたんだろうか
…繁殖?んなバカな







「――――…ふー…私ね、親に捨てられてんの。」
「え?」
「孤児院出身。私を引き取ってくれた人の協力を得てここにね。」
「ふうん…。そうなんだ。」
「そうだよ。」
「…働かされてるの?」
「違う。」







すく、としゃがんでいた私は立ち上がる
その人は私の遠い親戚だった…らしい
だから引き取ってくれた







「ここはね…私の居場所なの。」
「居場所…?」
「ここにはね、私みたいに居場所のなかった人が沢山いる。」
「……。」
「そんな人がいられる場所。そして誰かに楽しさを与えることを知ることが出来る場所。」
「お客さんにって…こと?」
「そう。居場所があって、どんなことだろうと自分の出来ること…やるべきことがある…。」
がそらがここに居て、働く理由?」
「そうだよ。」







孤児院に居場所なんてなかった
親に捨てられた私に居場所なんてなかった
オーナーは、その居場所を作る手助けをしてくれた






確かに、世間一般から見れば職業は誇れるものではないかもしれない
でも私はここを知ってる
ずっと前から






ここが居場所だと、決めた
何があっても、守る
―――外の世界を、捨てたんだ








は、ここが好き?」
「うん。」
は、ここにいるみんなが好き?」
「うん。」
「…じゃあ、俺も好き。」
「…なんだそれ。」







嬉しそうに、満足気にジローは笑い
私の真似をして、ちょこんと池のそばで座った
そして覗き込むように、ジローは言葉を続けた







「ここってさ、一応やめられるじゃん。」
「そりゃね。」
「中卒には通信とかで勉強もさせてくれるし。」
「勉強に関しては取り組む本人次第。まぁ時事とかぐらいは知ってなきゃだしねー。」
「む。まぁ、でもさ。…みないるよね。」
「…みんないる?」
「外に出ても、十分やってけそうな人も、まだここに居る、働いてる。」
「色々事情があるから…お金が必要な人とかね。」
「それもあるけど…でも、きっと」
「?」
「多分、何より、がいるからだと思う。」







ジローは笑ってそう言ってから、立ち上がり
着ていた甚平の裾をひらひらさせながら
寮の方へ戻っていった








「なんだそれ…」という小さなつぶやきは
鯉の元気よく跳ねる音でかき消された
それでも私は一人つぶやく






「私がいるからじゃない…みんなが居るから私はここに居られるんだよ。」








残りの餌を全部放って
夕日懸かってきた空を仰ぎながら
私も立ち上がった











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