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私は、もうずっと前からここにいる
ここで、沢山の、沢山の人と会って
それでもずっと私は変わらないでいる





なんでここで働いてんのとか
いつから、どうして、親は、とか
数え切れないほど聞かれた





学校は高校まで一応出てるし
親には捨てられた、と思っているし
今は叔父の世話になっているわけで





私は外から逃げてきたんだろうか
違う、外には居場所すら無かった
でもここは私の場所だ、とだけは、はっきり思う









* *











「暗い顔してるね?どうしたの。」
「あれ、不二。休憩?」
「うん、ちょっとだけ。隣いい?」
「どうぞ。」







カタンと、抜け出してきたんだろう不二が
縁側に腰掛けていた私の隣に、座った
幻霧館の屋敷の真ん中には中庭がある、吹き抜けになっていて空も覗ける







「で、どうしたの?。」
「ん?いやージローがココに来た時のこと思い出してたの。」
「ジローが?」
「うん。そしたら、私もどうしてここにいたんだったけなっと。」
「ふうん…僕が、ここに来た時にはもういたよね。」
「そうだね。」






空を仰ぐ、綺麗な空だった
不二は数少ない、未だ外で生活する人達の一人だった
不二には弟がいる、だから、不二は家へ帰る







「不二、ここ、好き?」
「好きだよ。」
「本当に?」
「ここは凄いところだから。」
「そうかなぁ。」
「まぁ僕が来て、未だ居るのは、君がいるからだけど。」
「えーそうなのー?」







そう言って笑う
不二と私は一度偶然外で会ってる
それから、ここで働きたいと思ったらしい






「純白の着物を着て、スーツの男達の中にいたは、凄かった。」
「はは、トラブル処理してただけだよ。」
「有名なのも大変だね。」
「でも、おかげでここらの界隈では結構好きにさせてもらってるからね。」
「誰も文句は言えないでしょ、もう。」
「どうかなぁ。」







「…失礼します。不二さん、お客様がいらっしゃいました。」
「ん。今行くよ。」
「行ってらっしゃい。」
「行ってきます。」
「あと、さんもちょっと…」
「はいはーい。」







不二を見送ってから、私もよいしょと立ち上がる
不二の腰に巻かれた赤帯が、綺麗な色を放っていた
少し気合を入れなおしてから、私も仕事に向かった








* *








「で、どうしたの?」
「それが…」
「蝶が何か?」
「いえ、お客様の方なんです。」
「お客さん?」
「お金が、払えないと。」
「…そりゃ、困ったねえ。」







げんなりと肩を落としつつも
たまーに起こる事
受付に向かう足を少し速めた









「…お客様。」
「あ…」
「今晩は。責任者のと申します。」
「……。」
「料金を払って頂けないとお聞きましたが…」
「だ、だってツケがきくと思ってたから…今日は払えないの!」
「ご来店された際、始めにご説明させて頂いた筈です。当店ではツケはきかないと…」
「だって、他のお店では出来るじゃない!普通、一気になんて簡単に払えない…」






これも、よく聞く台詞だ
他のホストクラブでとウチは違う
その特別のルール等は、客が初めて来店した際に必ず言うことだ







「に、逃げたりしないわよ!」
「どうしても、払っていただけないのでしょうか?」
「無理なものは無理なの!」






癇癪をおこしたように言う目の前の女性に
心の中でため息をつく
もう一度口を開こうとした所で、後ろから呼びかけられた






。」
「え?」
「もーいいよ。俺が払うから。」
「ブ、ブン太君っ」
「…そうですか。お客様、当店のホストが負担することになりましたので、お払い頂かなくて結構です。」
「え!?」
「その代わり、規則により、当店の立ち入りを禁止させて頂きます。」
「そ、そんな…今度来た時払うって言ってるじゃない!」
「始めに説明した筈です。当店のルールには必ず従って頂くと。」
「無茶言わないでよ!」
「では払って頂けますか?」
「……ッ」






お客が払えなかった場合、責任はホストが取る
結果客は払わずに済むが、その代わりに店への出入りは一切禁止となる
それが幻霧館のルールの一つ





―――…結局逆ギレしてお客は出て行った
金は払ったが二度と来ないらしい
…払えるんじゃん!と出て行った玄関を見ながら私は呟いた








、ゴメン…。」
「いいよ、こっちも悪かった。チェックミス。」
「でも、多分他の店でも逃げてたっぽいよ。あの客。途中から高いのばっか頼みだすからさ、なーんかヤな予感して止めたんだけどさぁ…。」
「そりゃブラーックリスト入りー…ってもう来ないか。」
「はー……もうヤダ。俺帰る。」
「まぁまぁそんな滅多にいるモンじゃないから。」







ブン太は腰に巻かれた青帯を引っ張った
障子にもたれ、珍しくネガティブで不機嫌な顔をした彼
どうしたもんかと私は苦笑する






「どうしたの、ブン太。。」
「不二。」
「あ、周助さん!」
「あ、もしかしてもう直ぐ次のお客さん来る?」
「うん、連絡あったから門開けてもらえる?」
「ん、頼んどく。」







ウチの店の門は常に閉じられている
だからお客さんが入る場合は、店に連絡するか、蝶に直接連絡して
こちらから開け、そして出迎える







「何か、トラブルあったみたいだね。」
「ちょっとね。お客さんがお金払わないってゴネだして。」
「……う〜俺って見る目ない?」
「僕もあるよ、お客さんが払えないって言い出すコト。」
「え、周助さんが?まさか、赤蝶なのに。」
「僕だって始めから赤だったわけじゃないよ。赤だからこそってのもあるし。」
「あー…金額デカくなるし。でも、やっぱ俺の魅力不足?みたないな…。」
「ブン太が魅力ないっていうなら、の目が狂ってたってことになるね。」







不二が意味ありげな視線を私によこしながら
微笑み言った
ブン太を拾ってきたのは私だから







「そんなことは、ないっ!」
「本当に?私、ブン太は魅力タップリと思って期待してるんだけどなぁ。」
…。だ、大丈夫!俺の天才的妙技を発揮して直ぐに挽回する!」
「じゃ、最後まで頑張らなきゃダメだよ。じゃあ、僕お客さん迎えに行くから。」
「うんいってらっしゃい。ブン太も頑張ってね。」
「任せとけ!」








元気を取り戻したブン太は再び部屋に戻っていった
後は複数のお客さんを、複数の蝶で迎える大部屋の仕事だけだから大丈夫だろう
紫蝶以下のランクの蝶なら、他のホストクラブの様に数人で迎えることもあるのだ
初めてのお客さんは大抵、その大部屋から始める







「不二、ありがとね。」
「どう致しまして。」
「やっぱ同じ蝶に限るねぇ、元気づけるのは。」
「まさか、大半がの言葉で元気になってるでしょ。」
「そうかな。」
「そうだよ。」
「ありがと。んじゃ、再びいってらっしゃい。」
「ん、いってきます。」







カコンと、不二の履いた下駄の音が小気味良い音をたてた
ここには蝶同時の争いはあまり無い、各ランクの蝶の数に制限はないからだ
指名数でのライバル視あるかもしれないが、それもごく一部だ







「うんうん。でも蹴落とすとか、そんな性質悪いのここにいないからね!」
「…何一人でしゃべってんですか、アナタは。」
「げ。観月。」







いつの間に来てたのか
振り返ればそこにいたのは、不二と同じく赤蝶の一人である観月
女性顔負けの美貌を持った顔に関わらず、性格はどーも棘がある








「げって何ですか。全く良いのは格好だけですね。」
「観月に言われたく…って観月も今から出迎え?」
「も?」
「不二も今行った。」
「ふぅん…。」
「まだ敵視してるー同じ赤蝶になったクセに。」
「彼が喧嘩売ってくるんですよ。」
「元同じ高校同士仲良くしなさい?」
「お断りします。」







ぴしゃりと観月はそう言って
不二と同じように下駄を履き、玄関に向かった
なんだかんだ言って、二人は仲がいいと私は思っているのだが








「仲良きことは美しきことー。」






私はそう呟いて、自室に戻ることにした












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