蝶4
ガラガラと戸を開ければ
そこには数人の、白色を基調とした着物を着た女性がいた
ここで働く女性、白蝶である
「たっだいまー!」
「お帰りなさい、さん。」
「あーもうヒールは痛いわ。」
「おばさんくさいこと言わないで下さい。はい、草履。」
「さんきゅ。あ、こっちの子にもあげて。」
「…新人さんですか?ようこそ、幻霧館へ。」
「……。」
ジローは久しぶりに感じる驚きで、ただ見つめるしかなかった
入ったそこは、まるでいつだか行った、京都にある建物のようで
出迎えた女性に他に見える女性は皆、浴衣みたいな白い着物を着てて
「着替えてくるね、この子宜しく。」
「分かりしました。」
「……あ。」
「ジロー、すぐ着替えちゃうから、ちょっとしたらそのお姉さんに連れてきてもらってね。」
「…うん。」
入って直ぐ、目の前には障子で隔てられた畳の部屋があった
そこには数人の着物を着た女性と、普通の服を着た女性達がいた
誰かを待っているような、受付みたいな感じがした
玄関から向かって正面には、その部屋があって
廊下はその部屋を挟んで、右と、左側に伸びている
が消えたのは右側の廊下だった
「あっちはね、私達と、蝶が使う部屋があるのよ。」
「蝶…?」
「ホスト達。」
「あぁ…。」
「だからアナタもこっち。」
連れられて、の消えていった方の右側の廊下を行けば
すぐに細い階段が目に入った
さらに奥にもいけるようだが、その階段を上るよう促された
階段を上りきれば
見えるのは障子で閉じられた沢山の部屋が、横長にずっと広がっている
この屋敷の奥行きのがあるのがよく分かる
ジローは一番端にある部屋に連れられた
階段は、まだ上に伸びているようだった
けれど促されるまま、白い着物の女性に付いて行った
「はい、いらっしゃい!ジロー。」
「……――――?」
「ちゃんと名前覚えたね。じゃ簡単にここの説明するから。」
障子戸を開けていたのは
さっきまでのカジュアルな装いとは違い
他の女性とはちょっと違う、綺麗なもっと高そうな白の着物に身を包んだ
「幻霧館はね、さっき正面にあった部屋を仕切りに、右と左にわけられるの。」
「俺とかが来るのは、右って。」
「うん。一階右側はお得意さんスペース。そして二階以降は私達のスペース。
左側が、お客様をもてなすスペース。」
「こっちみたいに、部屋いっぱいあるの?ホストクラブって、大きい部屋一つじゃ…。」
「ここはね、一人の蝶につき、一人のお客様。」
「一人…?」
「対複数はランクの低い蝶だけ。そん時は一階左側にある大部屋を使う。」
はぁとジローは生返事を返した
分からないわけじゃないが
変わってると思った…他だってよく知らないが
「ジロー、君はまず青蝶から。」
「あお、ちょう?」
「ランク別けよ。一位を黒蝶。二位が赤蝶、三位紫蝶。四位青蝶。五位が黄蝶。」
「は?しろちょうって…さっき。」
「白蝶はね、ここで働く女を指す。事務、掃除、警備、雑用は私達の役目。」
「…はえらい方なの?」
「まぁ君とかを連れてこられる位はね。」
「なんで、俺一番下からじゃないの?」
「黄蝶はね、まぁ簡単に言えば問題児達のことだから。基本は青蝶からなの。」
ジローはまた生返事を返す
色わけは正直、一番が黒で、自分が青としか覚えてない
がちょっと偉いこともまぁ分かったが
「本当に、俺ここで働いていいの?」
「いいから、連れてきたの。」
「…でも、帰るとこもないし、あるけど…帰る気ないし。」
「そんな奴ばっかだよここは。だから寮完備。出るのが厳しい代わりに、生活面の保障がデカイの。」
「でも、お金ないよ。」
「寮はお金要らない。全部無料。掃除・ご飯は全部付いてるし。」
「…みんな住んでるの?」
「自活してる人もいるよ。大抵寮にいるけど。」
「外にはでれるの?」
「うん。連絡は必要だけど。どこで住もうが、遊ぼうが買い物しようがお好きに。」
「……俺、接客ってしたことない…」
「担当の蝶付けるから。細かい規則はソイツに聞いてもいいしね。」
そう一気に話しり、は立ち上がった
なんとなく、合わせて正座したせいで、足が痺れていた
だから立てずに、そのまま座りこんだままぼーっとしてた
別世界だ
そう思った
なのに、とても落ち着く
綺麗で
静かで
別世界だった
「さん。ジローさんの着物と青帯です。」
「ありがとう。」
首だけを声のする方に向けた
いつも間に出ていたのか、さっきここまで連れてきてくれた女性が
今度は着物をもってまたいつの間にか戻ってきていた
「ジロー着物きれる?」
「…全然わかんない。」
「だよね。…あーねぇ、今暇な蝶いる?」
「んー…ちょっと見てきますね。」
「宜しく。」
がまた女性に声をかけ
その女性はパタンと障子戸を閉めて出て行った
パタパタと、階段を下りる音が聞こえた
は目の前に着物を広げた
淡い紺を基調とした、高価そうな着物だった
着物を着るのは何年ぶり……着たことあったっけ?
「これが基本セットだね。羽織は…いっか。今は。あ、これもうジローのだから。」
「…青蝶?はみんな同じ着物じゃないの?」
「まさか。あ、この青帯は青蝶皆同じだけど、他の帯とか、着物の柄は様々。」
「…こんな綺麗なのもらっていいの?」
「うん。基本は支給。給料溜まったら自分で買う奴もいるけどね。」
「……」
「あ。」
カタと、戸の開く音がした
見ればそこには、完璧に、着物を着こなした男の人がいた
…黒い帯を巻いた人だった
「あら、景吾。どしたの?え?アンタ暇で連れてこられたの?」
「あぁ。予定の客がこれなくなって、時間が空いた。」
「あらま。ジローラッキーだね。あ、これジロー、新人ね。」
「…ふうん。」
「ジロー。こいつは景吾。…―――黒蝶だよ。」
「黒、蝶……ここで、一番凄い人?」
「はは、うん。そうだね。トップ。じゃ、着物の着方、教えてもらってね。」
それだけ言って、は笑顔で出て行った
景吾と呼ばれたその人は、じっと鋭い碧い目をこちらに向けていた
威圧感はあるけれど、怖いわけじゃなかった
* *
「いくつだ、お前。」
「…16。」
「簡単だから、着方覚えろよ。」
「…うん。多分。」
「……。」
素っ裸にされて
長襦袢(肌着)、長着(着物本体)、帯と基本的な順番を教わる
本当は足袋とか、羽織とかもあるけど、今回はいいと言われた
「ジロー。」
「あ、え、はい。…何?」
「青帯。これが、お前が今青蝶っつー印だ。」
「…しる、し。」
「自分のランクの象徴みてぇなモンだ。なくすなよ。」
「うん、…多分。」
「多分が多いんだてめぇは。」
「…ごめん。」
ふ、と跡部はため息を吐きつつ、立ち上がった
生返事ばかりだが、目はしっかりしてるし
ビビッてはいないようだ
「景吾ー終わったー?」
「あぁ。」
「どれどれ…――おー…いいじゃん。似合う!さすが私。」
「お前かよ。」
「私の目に狂いは無いってことー。どうジロー着物は。」
「…スベスベする。」
「どんな感想だ。ボケた奴だな…。」
「あはは、言われちゃったねえジロー。」
「お前もな。」
「なんで!」
二人の慣れた会話に
あぁこの人もに連れられてきた人なのかなぁとか、と思う
…少しの嫉妬を覚えた、でも何故かそれが心地よかった
「…これから、俺何すればいいの?」
「…うん。いい質問だ。」
「ふん。」
「景吾、あんたこの子に色々教えてやって。」
「あぁ!?もっと暇な奴にやらしゃいいだろうが。」
「いいじゃん、気ぃあってるみたいだし。まぁ他の奴も付けるけどさ。」
「ちっ…」
二人の会話と共に、少し開いたドアの向こうから
かすかな笛の音とか、なんだっけ、琴?の音とかが聞こえる
普段そこらへんで聞いていたような喧しい音楽じゃなかった
自分が異空間にいることを教えているようだった
「仕方ねぇな…来い。取り敢えず案内してやる。」
「頑張っといでジローちゃん。」
「うん…。えっと…あー…」
「…何だ?」
「なんて、呼べばいい?」
「好きに呼べ。」
「…ちゃんと、名前聞いてない。」
「跡部、景吾。」
「んじゃあ、アトベ。と、。」
それが、ジローの始まり
と言った時の、跡部の子供っぽい不機嫌な顔が
実は一番印象に残っている…と後のジロー談
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