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「光君がいない?」
「うん。白石君たちも知らないみたい。」



朝、不二が部屋にきてそう知らせてきた
仕事の時間にはまだ早いが
色々その前に教えることがある


だから今日は午前中から
教育係含め自分も一緒に
集合をかけていたのだが



「どこにもいないみたい」
「えー…外かぁ」
「だろうね、どうする?」
「先にはじめといて?」



ここにいないなら
まぁ間違いなく
外へ出たんだろう


誰もいわずに、
が気になるところだが
彼の様子だけは皆と少し違ったから



ちゃん」
「白石君、」
「俺が探してくるから」
「ダメ。」
「ダメ?」



遅れて入ってきた彼を止める
言い出すのは分かってたけど
そうはいかない



「光君にね、知ってほしいの」
「?何を?」
「貴方達以外にも、頼れる人がいること」
「…」
「愛してくれる人達がいるってこと」



彼は多く語らない
大阪のあの部屋にいる時からそう
クールで静か


でも白石くんたちの事を
使用してる、好きだってこと
オサムさんやあの店も、あの場所も


だから
本当は彼はまだ
気持ちの整理がついていない


これは、
勝手な私の考えだけれど



「でも、私に行かせて?」
「せやけど…」
「大丈夫だよ、に任せれば」
「不二君。…やったら、頼む。」
「うん」





**





天気は曇り
少し、肌寒い
なんだかこうして外に出るのも久しぶりな


大阪には行ったけど
お店の周り
街を歩くのが


この町でいろんな子と会った
危ないこともバカやったこともあった
大嫌いで、大事な街


彼は、どこだろう
ジロちゃんがいたあの屋上?
不二がキャッチしていたあの通り?
幸村君、仁王君がいたあのお店?
薫ちゃん、観月がいたあの裏通り?


懐かしくて
少し切ない
彼が、一人でいると思うと


マフラーを巻きなおす
暑いかと思ったが、ちょうどよかった
自然と歩く速度は早くなる



「あ」


ピタと足を止める
雑踏の中
道路脇のレールにもたれる彼



「以外に見つかるもんだ」



人の流れにのりながら
彼に近づく
その途中、彼に近づく人影に気づく


キャバの女の子か
簡単にあしらわれたのか
直ぐに女の子は離れて行った


彼イケメンだからなぁ
あんな暇そーにぼーっと立ってたら
本人が意図しなくても寄ってくるでしょう


そう思ってたら
また誰かが近づく
今度はスーツ着た男


あーあれは…
ホストかなー
勧誘かぁ…邪魔するか



「ねぇ君」
「…は?」
「それうちの子だから」
「えー?でも彼どこでも働いてないって…」
「うるさいなぁ」
「煩いってあんた…」


ちょっといらっとした感じで
男がこちらに向きなおしてきた
光君は黙ったまま…ちょっと驚いてるか



「お引き取り下さい」
「はぁ?なにコイツの女?」
「雇い主だバカ」
「バ…お前が雇い主?」
「…」



ちょっと喧嘩腰だな私
少し苛立ってるかも
冷静に分析してる場合でもないけど



「ふざけ…え?」
「名乗った方がいい?」
「あ、いや、いいっす…」



慌てたように
男が早足で去って行った
良かった良かった



「ふうん働いてないんだ?」



そう一言いって
彼の横にたった
細いレールにもたれる



「アイツの店で働きたかった?」
「…アンタ何者?」
「どっちの答えにもなってない」



そう言って
彼の方を見る
目があって、少し気まずそうな顔をされた



「罪悪感?」
「…」
「何も言わず出てきて、白石君達に迷惑かけたんじゃないかって?」
「…子供やない」
「子供でしょ」
「…」
「子供でいいじゃん」



子供でいい
そんな考えなくていい
甘えてればいい


ずっとそれじゃダメだけど
そうしてもいい時もある
私が、景吾にそうだったように



「嫌なら嫌って」
「言ってもどうにもならんやろ」
「それでもいいじゃん」
「…意味わからへん」
「言ってみなよ」
「困らせるだけやろ」
「言わなくても同じだよ」



そんな顔して
貴方が彼らを好きなように
彼らも貴方が大事なんだから



「言っていいの」
「…」
「白石君達に言えないなら、私に言えばいい」
「なんで、アンタに」
「私は、そういうもんなの」
「なんなん、ソレ…」
「そのうち分かるよ」



意味分からないという顔をして
彼はまた雑踏へ視線を向ける
黙って彼の次の言葉を待つ



「あそこが、居場所とは思えん」
「今はね」
「…ずっとかもしれんやろ」
「居てみなきゃ分からない」
「それでも帰りたない、言うたら?」



大阪にも帰れない
幻霧館にも居場所が無い
だからこうして街中にいるしかない


それはきっと
すごく辛い
帰る場所、帰りたい場所がないこと



「光君」
「…なん」
「私はねぇ、あそこには皆がいるから好きなの」
「…」
「皆がいる場所だから帰りたいの」



皆がいるなら
どこだっていい
彼らが幸せでいられるなら
どこにだって行く、居る、居られる



「白石君達は、好きでしょう?」
「…あいつらが、あそこ選ぶんやったら…それでええ」
「うん」
「なぁ」
「ん?」
「俺らは、居ってもええの?あそこに」



いつか
好きになってくれればいい
今はまだいいから


そう笑顔で応えた
何も言わず
伝ればいい






**






「アンタ有名なん?」
「えー?」



店へと戻る道
一緒に歩く
思い出したように彼が聞いてきた



「さっきのアイツ」
「ああホスト」
「何かに気づいてどっか行ったやろ」
「お店が有名なだけだよ、うちの」
「店の名前言ってへんやん」
「そだっけ」



風が強くなってきた
私以上に薄着な彼
何も考えずふらふらでてきたんだろう



立ち止まり
マフラーを外し
彼にまいた



「いらん」
「寒いでしょ」
「アンタのが寒いやろ」
。」
「は?」
「名前知らないのかと。」
…」


気に入らない、とでもいうように
眉根を寄せる彼
それがなんだかおかしい



「風邪ひいたら大変」
「…風邪くらいどうえもいいやろ」
「よくない」
「何でや」
「大事なうちの子だもん」
「…働けんと意味ないゆーことか」
「ばぁか」


まだ持ったままだったマフラーを
ぎゅっとしめた
可愛くない、そう思ったまんま言った



「かわいなくてええわ」
「素直じゃない、あ、照れてる?」
「アホ」
「知ってる」
「…」



減らず口には自信がある
そう思ったら
無言で頭突きされた



そうきたか…
痛いと訴えたが無視された
心なしが笑ってないか



だんだんと冷たい風が強くなる
でも嫌じゃなかった
帰る場所があるから



彼も、そう思ってくれてればいい
今はそうじゃなくても
少しずつ




「腹減ったな…」
「あ、何か食べて帰る?」
「甘いもん食べたい」
「何がいい?」
「ぜんざい」
「は?」












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