37 最終話











ー」
「なにー仁王」
「慰めて」
「なんで?」
「跡部に勝てん」
「あはは頑張れ」



お給料日の後
今日は誰も帯の色が
変わることはなかった


だから仁王が嘆いてるのだが
黒蝶を超えるのは難しいね
恨めしそうな顔の彼



「ごめんごめん」
「傷ついたわー」
「そんなにー?」
「なんで苗字なんじゃろー」
「そこか」
「ほんまにー」
「はいはい雅治」



疲れてるんだから
と寮に戻るよう促す
しぶしぶと言った顔で彼は帰って行った


後片付けをする白蝶が
廊下をパタパタと歩く
その間をぬって玄関へ向かう


戸締り確認
その途中
白石君達にも会う



「お疲れー大阪組ー」
「お疲れさん」
「ねーちゃんお疲れ!」


金ちゃんが元気よく挨拶する
やっぱり少し眠そうだけど
光君と謙也君もお疲れな顔


「初お給料日だね」
「今時現金なん?」
「文句言わなーい光君」
「皆ちゃんと管理せなアカンよ」
「金ちゃん特にねー」


気を付けないと
岳人達みたいになりそう
引き出しにいれっぱ的なね


ちゃん」
「何?」
「ほんまにありがとうな」
「…もう十分聞いたよ」


それから
お疲れともう一度言って
寮へ行くのを見送った


うまく馴染んでやっているようで
本当に良かった
本当に


それから目的を思い出し
外に出ようと靴を履こうとした所で
また話掛けられた




「太郎さん!まだ帰ってなかったんですね」
「ああ」
「どうかしました?」
「…今回はすまなかったな」
「…大阪の事ですか?」


もうその話はしたのに
といってもまぁ
電話でだけれど


「いつもその倍私は迷惑かけてますから」
「迷惑だと思った事はない」
「…ありがとうございます」

「なんですか?」
「いや…後は、任せた。」
「…はい、太郎さん。」


笑顔で
そう返し
同じようにその後姿を見送る


ガラガラと玄関のドアを開く
ぼんやりと灯篭の灯りが光る
門へ続く石畳をゆっくり歩く


真っ暗な空には
ぼんやりと星
でも外のネオンの明かりに負けている



「ここは暗いのになぁ…」
「ここだけはな」
「ッ!!」
「変な顔してんじゃねぇよ」
「景吾!びっくりしたなぁもう…」
「うるせーな夜だぞ」


誰もいないわ!
夜だけど!
本当、いつも間に背後に来ていたのか


「なに戸締りチェック一緒にしてくれんの」
「暇だからな」
「それはそれは」


なんか
こんな会話するの
久しぶりの感じがする


それから
お互い何も言わず
ゆっくりと門まで歩いた


門に着き
施錠のチェックをする
鍵に手を置いたところで



「…何?」
「…」



覆いかぶせるように
私の手の上から
景吾の手がのせられた


景吾は何も言わなない
背後から手が伸ばされてるから
振り返らなきゃ、顔も見えない



「…ねぇ景、」
「ここから」
「え?」
「ここから出たくなったら」
「…」
「いつでも言え」


それだけ言って
景吾は手をどけた
そのまま踵を返し歩き出す


しばらくその姿をじっと見た
どういう意図があったのか
いやきっとそのままだろう


「ねー!」
「…叫ぶな、」
「その時は」
「…」
「ついてきてくれんの?」


首だけ
景吾がこちらを向く
灯篭の明かりだけじゃ、表情が読み辛い


じっと
彼の答えを待つ
そしたら彼は


ふんと
いつもみたいな
勝気な笑みだけを返した


なんだそれ、と
早足で彼に追いつき
背中を軽く小突いた


「何すんだ」
「ちゃんと答えないから」
「分かってんだろ」
「そうだけど」
「じゃあいいだろうが」
「景吾だって分かってんでしょ」


私が
ここを出ていく時なんて
来ない


「…ああ分かってる」
「じゃあ何で?」
「言っただけだ」
「ふぅん、そっか」


まぁないとも言えないかな
皆が
ここにいる皆が


何かを見つけて
ここを出て行った時
誰ひとりいなくなった時


私も
ここを


「…景吾」
「…ん?」
「ありがとう」
「…」
「でもやっぱり私はここにいるよ」


皆が出て行ったとしても
誰もいなくなったとしても


いつでも帰ってこれる場所を残したい
だから私はここにいる



「…仕方ねぇな」
「一緒にいてくれんの?」
「お前ひとりじゃ何もできねぇだろ」
「わーやさしー」
「棒読みしてんじゃねぇよ」
「あはは」



館の明かりが近付いてくる
いつもと変わらない姿
足を止め、じっと見る



「どうした?」


怪訝そうな景吾に
何でもないと答える
遠くから誰かが呼ぶ声がする



「うっせぇな…ジロー達か?」
「みたいだねぇ」
「…早く戻るぞ」
「うん」



ガラガラと景吾が玄関の戸を開く
向こうにジロー達の姿が見える
それだけが


なんで
こんなに幸せに感じるんだろう
多分きっとそれは


私がここを大好きだから













ここまでお付き合い頂きありがとうございました。
ののと







蝶・終