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「みんな、着物なん?」
「うん、着物は絶対」
「ワイ着られへんわー…苦しそうやし…」



そっと階段の上から
下の様子を伺う
あまり蝶達は出入りしてないけど


ざっくりと幻夢館の事を説明していく
接客の基本は不要だろうから
ここの独特のルールだけを


着物は絶対
まぁ普通は慣れないものだろうけど
金太郎君の不安げな呟きに笑顔で答える



「大丈夫。慣れるもんなんだってコレが」
「う〜ん…」
「ここもランキングとかあるん?売り上げの」
「うん、あるよ。ちょっと違うけど…」
「違う?」



白石君の質問に答える
黒、赤、紫、青、黄の帯の色分け
最高位は黒



「黒蝶…跡部君か?」
「お、正解」
「やっぱりなぁオーラあるわ」
「はは。黒だけは一人だけだから」
「俺らは新人、青っちゅーこと?」
「そうだね」
「へぇ〜…」



お店で働いてた彼らなら
青から上がるのも早いだろう
…まぁ金太郎君は除いて


お客様を迎えるまでの流れを説明し
それから四人は入るだろう寮の説明
あらかた話をしたところで声を掛けられた



「よぉ」
「…久しぶりやな跡部君」
「そうでもねぇけどな」
「はは」


合間を見て抜け出してきたんだろう景吾
白石君は景吾にもまた謝っていた
コイツも気にしてないよ



「働くのか」
「そう、させてもらいます」
「ふうん、いいんじゃねぇの」
「ええん?」
「俺が決めることじゃねぇ、コイツだ」
「働らいてもらうよー」
「知ってる」



あ、そう
時計を見てる景吾を一睨みし
それから着物を見立てようと場所を移そうとした



「ただ、どう説得させる気だ?」
「え?」
「えじゃねーよ。こいつらがした事知ってんぞ全員。」
「それはもう、」
「終わった事だとしても、だ」



う、と言葉が詰まる
自惚れるつもりはないし
本当に自分ではもう済んだことと思っている


でも正直本当
皆がどういう反応をするか不安なのは事実
それは、きっと私以上に白石君たちも分かってる


でも私もそれで諦めるつもりはない
皆もそれも分かってるだろうけど…
ふと白石君と目が合う



「わかっとるよ」
「白石君、」
「そんな何もかも都合よくいかへんって事」
「どうなっても私も気持ちは変えないよ」
「ありがとう」
「…」



それから景吾は最後のお客様を迎えに行った
途中太郎さんから電話が来て
白石君達の話をしたので着物は後回しにした


結局そのまま
営業終了時間
皆に集まってもらう


…空気が重いのは、気のせいか




**





「あれー今日給料日だっけー?」
「ちげーよジローお前給料日も覚えてねーの」
「岳人煩い」
「うっせ日吉」
「はいはいはいストップ」


騒ぎ出しそうな岳人達を止め
四人を紹介する為来てもらう
いつも通り紹介するつもりだ


「明日から、皆と一緒に働いてもらうね」


四人の名前を伝える
特に自己紹介とかはしない
いつもそんな感じなので


「全員寮に入るから」

「教育係、今私が選んじゃうね」


これも恒例
先ずは必ず先生を付ける
たいていは私が合うと思った人を適当に付ける


一人につき誰か一人
でも今回は人数が多いから兼任してもうか…
と話は無事進むと思ったけれど



、ちょっといいかな?」
「…ん、何?不二」
「これは、皆からの質問なんだけどね」
「…うん」
「――彼らは信用していいのか?」



静かに、手塚が言う
普段こういう事に口出ししない彼が言うと
なかなかに重い


いや実際跡部の次くらいに
色々まとめる時には彼に頼ってるけど
そういう存在だから、彼が代表して言ったんだろうけど


信用、
今回の大阪の件なのは分かってる
けど私がどれだけ大丈夫と言えば納得してもらえるだろうか



「それは、」



考えがまとまらないまま
とりあえず何か
と思う口を開いた所で、遮られる



「簡単に許してもらおうとは思っとらん」

「それでも許して欲しい」



さっき、部屋で私にしたように
白石くんはまた膝をついて
謝った



「あんたらが彼女をどれだけ大事にしてるかは分かった」
「―そうか?」
「今感じてる視線で十分」



苦笑しながら白石君が言う
手塚も、皆も何も言わず
じっと彼を見る


だから
私も
その隣に、座った



「…アンタまで何しとるん」
「えー…だったほら今回の事は私も悪いし」
「悪ないやろ」
「ううん、私が望んでやった事でもある」



昔を思い出すあの部屋で
私は本当は必要ないんじゃないかって
私がいなくたって皆平気なんじゃないかって


きっと
そうじゃないって言って欲しかったんだと思う
だから頑なにあそこから動かなかったんだと思う


本当は、景吾が来てくれて嬉しかった
皆に心配されて嬉しかった
私は本当に、一人じゃダメで



「だから、私も、ごめんなさい。」
「…」
「私は彼らを迎えたい、ダメかな?」
「…がそうしたいなら、それでいい」



手塚が言う
皆も同じ意見ととっていいのだろうか
ちらと視線を巡らせれば、景吾と合った



「…言いたい事ある奴は今はっきり言え」
「景吾、」
「妙なわだかまり残すんじゃねぇぞ」



誰も何も言わない
でも、空気は軽くなった
それなら、もう一つ



「それから、別に、皆にお願いもある」
「お願い?」



よいしょと立ち上がり
白石君も立つよう促す
それからまた皆に向かい直す



「私ね、皆と家族になりたい」
「家族?」
「もー家族じゃねーの?」


ブン太の言葉に笑顔で返す
そう、そう思ってる
でもそれだけじゃなくて



「…少しずつ、皆の事名前で呼んでもいーかな?」



家族、に
なりたいから






**






今更だと、バカと散々突っ込まれた
ちびっこ達は元から呼んでたりするから
よく意味は分かってなかったみたいだけど


景吾との話を聞いた人は
その意味に気づいたと思う
景吾だけが特別だった


このお店で働く前から一緒で
孤独で荒れてた自分を救ってくれて
家族になってくれると、最初に約束してくれた人




「しかし…我ながら仰々しい言い方だわ恥ずかしい」
「何言ってんだお前」
「なんでもなーい」
「下の名前知ってるんですか貴方」
「知ってますー は じ め ちゃん」
「ちゃん付けは止めなさい」



解散した後、年長組だけ集まってもらった
教育係つけなきゃ
もう大丈夫だろう



「じゃあえっと、謙也君は、忍足ー」
「さっそく苗字やな」
「おっと侑士」
「よくできました。ほなよろしゅー」
「あ、よ、宜しくお願いします」



謙也君には忍足
岳人もだいたい手離れてるし
あーでもならついでに



「侑士、金太郎君もお願いできる?」
「そのちっこいの?」
「接客も初心者だよね?」
「金太郎はそうやな…ある程度は出来るけど」
「なら私もなるべくつくけど一応」
「りょーかい」


と話されてる本人は
疲れもあるだろう、半分夢の世界
明日でも話せばいいや



「それから、白石君は、」
「ん、」
「キヨお願い。」
「おっけー♪よろしくね白石くん?」
「蔵ノ介や、よろしゅう」



そいやキヨはずっと前から名前だな
最初から名前で呼んでってお願いされたからか
なんて思いだしながら


最後
そう問題、と私が思ってる




「光君、疲れた?」
「…別に」
「そか。んとね、君には不二についてもらうよ」
「俺でいいの?」
「仁王はもう大丈夫だよね?」
「うん、彼は平気」
「じゃあ宜しく」


不二には最近仁王をみてもらってたけど
彼はあっという間に紫になったし
優秀なようなので問題ないだろう


まぁそれ以前に
彼、光君とは少し話した方がいいだろうな
とにかく



「今日はとりあえずここまで」
「もうだいぶ遅いしね」
「うんいったん寮に戻って後は明日」



解散と
パチンと音をならして手を叩く
とりあえずは一区切り、だろうか








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