蝶31
2週間と1日
暇で溶けそうってこういう事か
何で何もしてないのにこんなに体が重いんだろう
ここでの私の立場って何だっけか
人質?
何の意味もない人質だよなぁ
「ねぇ…謙也君」
「…な、なん」
「私って意味あるの?」
「え…や…アンタが言うて期限伸びたわけやし…」
「それだけならここにいる意味なくない?」
「…いや…帰りたかったら言うこと聞け言う…」
脅しか
でもこの子達の望みは
1週間くらい伸ばしたところで解決しない
お店は取り戻せない
むしろ手渡した方がいい
借金は積もってく一方だ
第一それがオサムさんに知れたら
オサムさんはきっと困るよ
気持ちは嬉しいだろうけど
恩返しの仕方は
それだけじゃない筈だ
無意味だ、こんな事
「あなた達のする事を否定する気はないけどさ…」
「せやったら…黙っといて」
人間不信だなぁ
この子達
きっと今まで大変だったんだろうな
ちっとも心開く気配はないし
話もなかなか聞いてもらえない
私の話し方もいけないのか
どうしてかな
いつものように行かない
こういう子達には今までたくさん会ってきた筈なのに
「雨…」
パタパタと窓に水音
古い建物
いつもどこか軋む音がする
辛気臭くて
狭い
今日は湿気でさらにじっとりしてる
「そっくり…」
「え?」
気付いてたら口に出してたらしい
謙也君と目が合う
普段だったら絶対こんな話しないのに
「子供の頃住んでた家にそっくり」
「…そう、なん」
「うん」
住んでたのは母親と二人だけ
父親は滅多にこなかった
その代り違う男は何人かよく出入りしてたけど
「――謙也」
「っ…びっくりした…白石。」
「…」
私も思わず肩が揺れた
滅多に思い出さない昔の事
耽っていたら入ってきたのは白石君だった
「ふー…」
「お、お疲れ」
「アカンわ」
「…」
ずると白石君が壁を背に座り込む
そうだろう
2週間そこらでお店を取り返す資金は作れない
「…やったらコイツどうするん?」
「ん?」
「もう2週間過ぎとるで?」
「ああ…連絡無いから忘れとったわ」
「あ、携帯渡すの忘れとった」
ぼーっと二人のやり取りを見る
携帯、ああそういえば
昨日から返してもらってない
大抵一日一回渡される
不審に思われないよう
メールの返事だけは返すように
「あんたんとこのオーナーからきとる?」
「…ああ来てるね、今日何件か」
「やべ…」
「…どうするの?」
「え?」
「これから、どするの?」
それを決めてもらわなきゃ
電話は掛け直せない
決定権をもつだろう白石君を見る
「アンタ余裕やな…」
「…」
「ムリやって分かってるやろ」
「…」
「こんなとこ閉じ込められて」
こんなとこ
ああこの昔を思い出す所ね
子供の頃の
「また期限延ばそうか?」
「は?」
「私居なくても、誰も困らないからね」
何言ってるんだろう
頭で考える前に
口から出ていってる感じ
「…慣れてるし」
「慣れとる?」
「こう、閉じ込められること」
「…向こうの店で?」
「違うよ。私を閉じ込めてたのは、」
親
閉じ込めてたというか
邪魔だったというか
「両親とも水商売でね」
私が邪魔だった
お客さんには見られなくなかった
部屋で大人しくしてろといつも言われてた
「小学生くらいまでは大人しくしてたんだけどねー…」
幼すぎて親に反抗する力がなかった
中学に上がってから
何かが切れたように荒れた
「酷かったんだよ、中学の時の私」
「意外やな…」
「そう?」
「順風満帆そうに見えとったわ」
「それからが良かったからかな」
「それから?」
「うん。」
助けてくれたから
あいつが
ずっと一人ぼっちだった自分を
ああ
そうか
そんな昔を思い出してしまうから
うまくこの子達と会話できないのか
自分が昔に戻る
昔の自分に
人との話方が分からない
心の開き方が分からない
踏み込み方が分からない
「私は、ひとりだった」
雨音が強くなる
体が重くなる
じっとりしっとりと
ぎし、と床が軋む音がして
今度は財前君が入ってきた
金ちゃんはいないな
「白石さん」
「…どないした?」
「…コイツ返した方がいいっすよ」
「…」
「なんか危ない」
なにが?
そう思ってじっと財前君を見る
別に何もする気ないけど
「…暴れたりしないよ?」
「そういう意味やない…」
「大丈夫だって、帰らなくても平気だし…」
皆、私がいなくてもやっていける
私は
ここでじっとしてればいい
「…さっさと連絡し」
「白石、君」
「謙也、オサムちゃんに連絡とれるか」
「え、ああ、うー…」
「お前ら!何やっとるんー…!」
バンと勢いよくドアの開く音がして
そこには久しぶりのオサムさんがいた
ああ、バレてしまったんだ
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