蝶29
「でーこいつが光、謙也に…あれ他の連中おらんのか?」
「まだ寮やない?」
「のんびりやなぁ」
「後で金ちゃん行かせるわ。」
「そーしといて。じゃ、俺でかけるから後頼むわ」
あれ、出かけるんだ
私どうしよう
裏方でもやってようと思ってたんだけどいいかな
「じゃあちゃん好きなようにしててええから」
「あ、じゃあ…そうさせて頂きます。」
「ほな白石、頼むわ。」
「気を付けてな」
「いってらっしゃーい!」
金ちゃん、と呼ばれた彼が
元気良く送り出す
いつものことなのか
じっと視線を感じる
さっきの白石と紹介された人
この人がリーダー的な人なんだろうか
「あの…他の方、私が呼んできましょうか?」
「あーええねん。おらんから。」
「いない?」
「あいつらは来いへん」
「え?」
にこ、とさっきのような笑顔をまた見せる
こういう笑顔を知ってる
ものすごく警戒してる顔
そりゃ信用されてないにしろ
でもどうしてこんなに警戒してるんだろう
それは金ちゃんを除く、他二人からも感じる
「…来ない、辞めたの?」
「せやね」
「千歳はまだ辞めとらんのやない?」
「まぁどちらにしろふらふらしとるからな。」
…勝手に話を整理すると
今ここにいる人以外はやめたと
例外で千歳という人がいると
「とりあえず残ってるのは貴方達だけ?」
「そーやでー姉ちゃんー寂しいやろ〜…」
「…お店は、開けるの?」
「実質働けるのは3人だけ、無理やな。」
「…お店が無くなるのが原因?」
――ああ今温度が下がった気がする
警戒心の原因はそれ?
うちの店と一緒になること?
「やっぱお店なくなるん?」
「…私はそう聞かされてる。」
「…そ、か。」
この店に愛着があるってことだろうか
そりゃそれはおかしくないけれど
でも皆は離れ離れになるわけではない
皆行く気があるなら皆連れて行くつもり
選別、とは言われてきたけど
そんなエラそうな事実際するつもりなかった
うちに来るか来ないか
それだけ
こことはルールも違うと思うし
ここは所謂普通のホストクラブだ
やり方はガラッと変わるだろう
それも説明するつもりだったけれど
「私は、説明しに来ただけだから…」
「説明?」
「うちの店の事。その上で来るか来ないか聞くつもりで、」
「ここが無くなることは前提なんやな。」
「…?」
「まぁアンタには関係ないんやけど…」
――やっぱり
ここをなくしたくない?
…そんな話聞いてないけどなぁ
「ごめんなさい。」
「ん?」
「ここにそんな愛着あることは聞いてなかった。」
「…」
「なくしたくないの?」
「そうやって言ったら…どうにかしてくれるん?」
ムリだ
そもそもそちらから頼まれた筈
経営困難で続けるのが厳しいと
だから従業員だけでもうちで雇ってほしいと
それでオーナーのオサムさんが
知り合いだった太郎さんを頼った
「それは私には決められない。」
「アンタの上?」
「…そちらのオーナーの知り合い。」
「ああオサムちゃんが言うてた人か…」
ちゃん付け…仲いいんだね
まぁここが好きなことと
経営状態は関係ないもんね…
「…とりあえず、連絡してみる。」
「…」
もう少し、詳しく話を聞こう
オサムさんもいない事だし
そう思って携帯を取り出そうとした時だった
「…何?」
「ごめんな。」
「え?」
す、と携帯を取られた
なんだか、とても嫌な予感がするけど
とりあえず冷静に聞く
「ムリなんは、しっとるん。」
「…」
「タイムリミットは?」
「え?」
「ここが無くなる日、具体的に教えてもろてないん」
「…1週間、て聞いてる。」
「1週間、」
そう、言われている
何か、考えてる顔
金太郎君はちょっと分かってない顔
他の二人は…んー
財前君は読めない
謙也君は少し焦ってる?
「さすがにキツイな。」
「何が?」
「なぁ白石、お前ほんまに、」
「謙也さん今更ビビッとるん?」
「ちゃ、ちゃうわ!ただ…」
「大丈夫やで謙也。俺がなんとかするから。」
「アホ、お前だけにやらすかい!」
話が見えない
何を、する気なんだろう
何がキツイの?
じっと三人のやり取りを見る
口を開こうとしたところで
また白石君がこちらへ向いた
「ごめんな。」
そうまた謝られる
今度は少し悲しそうな笑顔で
もう一度聞く
「何に謝ってるの?」
「かえせへん。」
「…携帯を?」
「携帯も。アンタも東京には帰せへん。」
は?
言った言葉は理解できた
だから無意識に、足が一歩後ろに下がった
同時ぐらいに、腕を掴まれる
決して強くはないけれど
絶対振り解けないんだろうなとか
ぼんやり思った
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