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「リョーマ。」
「…。」
「いい経験になったね。次はうまく流せるでしょう、リョーマなら。」
「…。」
「リョーマ、何怒ってるの?」
「…怒ってなんかない。」






リョーマの態度に苦笑で返す
今のリョーマは、怒られて拗ねてる子供
悪いって分かってるけど、素直に謝れない






「たまにいるんだよ。ウチを探りにくる奴。」
「…?」
「彼女達多分どっかのキャバ嬢だろうけどね。」
「誰かに雇われて、みたいな?」
「そうそう。ウチの内情聞き出して、波風たてようみたいな嫌がらせ?」
「雇ったののって…同業者?」
「だろうね。」
「…。」








 ―――リョーマが部屋を抜けた、と他の白蝶伝いに聞いた





『え?リョーマが?』
『お客様と話してる途中で何故か席を立ったみたいで…』
『…理由は後でいいや、今どうなってる?』
『残ってる三人で相手してます。』
『…分かった。後は私やるからいいよ。』
『お願いします。』





どうしたもんか
いくらなんでも突然仕事放棄はしないだろう、あの子でも
とすると相手が悪かったか、たまにタチの悪い客も紛れ込んでくるから





取り敢えず謝罪ついでに様子見して
一人フォローで入れないと…
今空いててフォローできて、尚且つお客を探れるような子は…






『―わッ!』
『―前ぐらい見て歩け。…どうした?』
『景、吾、ああごめんちょっとトラブルがね…』
『どうした?』
『あーリョーマが部屋でちゃったみたいで…でも多分お客が怪しくてね…』
『―俺が行く。』
『え、でも景吾はお客、』
『大丈夫だ。そんな時間も残ってねぇだろ。誰かつなぎで入れとけ。』
『あ、うんあと30分くらい…ごめん、お願い。』





そのまま跡部に甘えることにして
跡部の代わりにはたまたま空いてた手塚に入ってもらってた
常連さんで、たまに手塚も一緒に指名してる人だったから良かった





部屋の方も、お客さんも少しヤバイと思ったのだろう
大人しくなっていたようで、他の三人でうまくフォローしてくれていた
幸村の話を聞いて、案の定だったのだけれど





 ――それからリョーマを探し、今に至る







「リョーマ、着替えな。苦しいでしょ着物。」
。」
「ん?」
「俺はを好きになっていいの?」






真顔のまま、着物にかけていた手を止める
沈黙
困った顔をするわけでもなく、ただ黙る






「リョーマ。」
「どうなの。」
「私は皆のものだよ。」






にこり、とただ微笑む
それは、それ以上
何も言わせない笑み ―――――――――いつもと同じ






「それは、いいってことだよね。」
「私もリョーマのこと好きだよ。」
「俺も好き。」
「嬉しい。」
「―――――――――次は、勝手に部屋を出たりしない。」
「うん。」







リョーマはそれ以上何も言わなかったし
何も聞かなかった
素直に、着物の帯を解いた









* *










「…この前はすみませんでした。」
「――――――ああ。」
「…。」






お店が始まる前
午前中
跡部の部屋を訪ねて、リョーマは言った






跡部は着物ではなく、私服姿だった
どこか行くのだろうか
でも、それはどうでもよくて





途中で席を立つなんて本当は許されないこと
たとえ彼女達がただの客じゃなくても
そのフォローの為、跡部が代わりに入ったのだ





うまく流して、まとめて
気持ちよくお帰り頂いた
まあ二度とウチの敷居はまたがせないだろうが






「アンタは、」
「…あ?」
のこと好き?」
「…馬鹿じゃねぇの?」
「何が?」






ぎし、と音をたてて椅子から立ち上がる
ドア入り口で立つリョーマに
ゆっくり跡部は近づく







「ここに居る全員だろ。」
「でもアンタは特別じゃん。」
「何がだ?」
「アンタは他の人より…。」
「…なんだよ。」
「…言わない。」






不愉快そうに跡部は眉を寄せる
リョーマは睨みつけるようにその目を見る
まだ、遠い






「俺さ、アンタ嫌い。」
「同感だな。」
「アンタ蹴落とす。」
「は、やれるモンなら。」






くる、と踵を返し
リョーマはその場から離れた
その姿を見送って、跡部は小さくため息を吐いた










「黒蝶は大変やなぁ。」
「――――盗み聞きしてんじゃねぇよ、忍足。」
「声でかいねん、おたくら。」
「うるせぇ。」
「恐いなぁ、若いのは。」
「はっ…阿呆くせぇ。」






蹴落とせるモンなら蹴落としてみろ
本気で思う
そんな事じゃこの自信は揺るがない




この場所は誰にも譲る気はない
黒蝶となった時から
と同じ、あの学校を卒業した時から決めた事






「跡部、どっか行くん?」
「ああ、ちょっと出かけてくる。」
「行ってらっしゃい。」
「あー…」






ひらひらと忍足は手を振った
若干うっとうしそうに跡部はそれを横目で捉える
―――――本当に、どいつもこいつも













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