蝶26
「もうやだ!アイツ本当生意気!」
「はーい。よしよし。」
「もう真面目に聞いてんのかよ!ッ!」
「岳人お前煩い。お前はいつも喧嘩してるだけだろ。」
「してねぇよ日吉!ちゃんと俺も教えてるし!」
結局、リョーマの担当を嫌だと盛大に岳人が騒いだため
妥協策として、+日吉をつけた
これが以外にうまくやってるみたいで
実際二人とも私のとこに来ることのが多いけど
まぁリョーマのあれはお客様の前に出ることを考えたら
もう少しどうにかした方がいいのかね
「さん…?」
「あ、ごめん。何だっけ日吉。」
「今日大部屋の仕事入ってますけど、アイツどうしますか?」
「ああ、うん、今日も出てみよっか。」
少しづつ、まだ一人ではないが皆と一緒に
接客を始めている
ああみえて要領もいいし、一人でやる日も遠くないだろう
それがまた気にいらないんだよなーなんて岳人がボヤき
まあそれは分かりますけどねと日吉が返す
ここら辺はいいライバルになりそうだなんて思いながら
* *
「。」
「ん?景吾。」
「あいつ今日も大部屋か?」
「そのつもり。」
自室で、今日その大部屋に入るお客さんのチェックをしていた
いつものようにふらりと訪ねてきた跡部
そのまま隣に座る
「…傷は。」
「あーもう大丈夫だよ。私って頑丈だから。」
「んなわけねぇだろ。」
「そうだよ。」
ふうと景吾が呆れ気味にため息を吐いた
私も誤魔化すように笑った
それでもじっと視線を送ってくる景吾に、持っていたファイルを置く
「―――リョーマね、私達の後輩だよ。」
「…あの学校か。」
「そう懐かしくて…なんか、色々思い出したよ。」
「―――。」
「ん?」
「お前は――――」
私は?そこまで言いかけたところで
襖の向こうに人の気配を感じた
言葉を止めて立ち上がる
「リョーマ。」
「―――――邪魔した?」
「ううん。リョーマ、今日も大部屋でようか。」
「…分かった。」
「そろそろ一人もいけそう?」
「平気。」
「さっすがぁ。」
「…別に。」
話hながら、リョーマはじっと視線を送っている
私ではなく、景吾に
よくあることだ
私は別に割って入るわけではなく
リョーマが動くのを待つ
景吾も特に何も言うことはない
「―――失礼します。」
「……ああ。」
「?」
リョーマはぽつりと、景吾に対して言った
急に礼儀正しくなり、偉いじゃんと思いつつ面食らう
声をかける間もなく、歩いて行ってしまったけど
* *
着々と大部屋の準備が進められていく
迎える蝶は、岳人・日吉・幸村・リョーマの四人
お客様のお迎えには岳人と日吉が代表で行った
「…緊張してない?」
「慣れた。」
「頼もしいね。」
「アンタ…あんま見ないけど。」
「実家から通ってるから。仕事以外はほとんどここにいないんだ。」
「ふうん…。」
「改めて宜しくね。リョーマ君。」
にこり、と隙のない笑顔を向ける幸村
リョーマは小さくお辞儀だけした
パタパタと、襖の向こうが騒がしくなった
* *
「へぇ、リョーマ君って言うの?」
「まだ新人さんなんだー見えなーい!落ち着いてるねぇ。」
「可愛いっ」
「…ありがと。」
愛想笑い、疲れる
別に、難しいわけじゃないけど
―――正直、つまらないだけで
リョーマは冷めた頭でそう考える
お酒も飲めないから、酔えるわけでもなく
本当楽しんだもの勝ちなんだろうと、他の蝶達を見ながら思う
岳人は岳人で自分の好きなことばっか話してるし
幸村も何か楽しげに話している
日吉って人も、普段俺に負けず無愛想なくせに
「…ねぇ、リョーマ君って。『』って人にスカウトされたの?」
「…え?」
「超有名だよぉ。このお店もだけど、あのヒトも。」
「…へぇ…。」
「何より羨ましすぎ。こんな美形に囲まれてるなんて。」
女の子特有の甲高い声で話す
この人は始めてここに来る人達なんだろうか
きっと常連の人達ほど、達の事を気にしない気がする
そう思う理由、俺よりここに長くいる日吉達が
明らかにこちらの話に反応しているということ
…これは、やっぱり流した方がいいんだろうか
「…仕事だから、関係ないよ。」
「えーそう?絶対役得だよ。あの人普段何してるの?」
「何って…」
「ここがオープンした時からいた人?」
「…た、」
多分、とまで言いかけた所で
邪魔が入った、幸村だった
話しかけながら俺と話してた女の隣に座る
「ねぇ、仕事の話なんてやめない?」
「えー?」
「あの人は只のマネージャー。俺と別の話しようよ。」
「えーでも、私今はリョーマ君と…」
「俺も貴女と話したいな。聞くなら俺の事聞いてよ。…ね?」
「精市君…――うん、精市君がそこまで言うならいいよ♪」
「リョーマ。」
交代、と無言で幸村に促される
彼女はもう幸村との会話に夢中になってるようだった
釈然としない気持ちで、席を離れた
大部屋のお客は四人
それぞれ代わる代わる話している
自分もまたさっきの人とはまた違う人と話をしている
さっきの客に執拗にのことを聞かれ、戸惑った
幸村がそこに割って入り、話は中断した
自分じゃあんな風には話は逸らせなかっただろう
けど、気になったのは自分自身もだった
本当は、自分自身が
誰よりのことを
「ねぇ。」
「…なに?」
ぼそりと、小さな声で彼女は話かけてきた
他の人たちには聞かれないように
リョーマは思わず素のまま答える
「私も彼女のこと気になるんだ。…リョーマ君もそうみたいね?」
「…別に、俺入ったばっかだし。」
「ここって本当素敵な人ばっかり。ヨリドリミドリじゃない?」
「…」
「さんって、誰かとデキてたりしてるんじゃないの?」
「…!」
びくり、と思わず反応する
そんな筈はない、と思う
見る限り、は誰かを特別にしようとしてるように見えない
誰もを、同じ目で見ている
そう思ったのだけれど
―――けれど
「はそんな人じゃないよ。」
「そんなって?」
「誰か一人だけを特別にするような。」
「本当に?」
ただ
――――――――『景吾』
は
あの人…黒蝶だけを名前で呼ぶ
年下…特に青蝶のことは名前で呼ぶけど
同い年だったり、上だったりすると皆苗字で呼ぶ
なのに、あの人だけは
黒蝶だけは、どこか違う
この前部屋の前で聞いた
『私達の後輩だよ。』
ずっと昔から一緒だったって事?
だから、そのせいだろうか仲がいいのは
でも ――――――――どうしようもなく、それが不快で仕方がない
「どうしたの?何が気になることでもあるの?」
「誰ともデキて何かないよ。」
「本当に?だってずっと一緒に働いてる人もいるんでしょ?」
「だから?多少親しくなるだけでしょ。」
「あ、やっぱり親しいって人はいるんだ?」
くす、と笑みを作りながら
あたかもただ噂話好きな女性を演じながら
――――――わざとだ、何か聞き出そうとしてる
でもそれは自分も気になっていることで
気になる
苛々する
「は、そんな人じゃない。アンタ、なんなの?」
「えっ」
ばっと、思わず立ち上が ――…話してなんていられなかった
着物の裾が揺れ、目に入る青帯に動きが止まる
けれど振り返ることなく、今度は部屋をでた
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