蝶24
自分が幻霧館の者であること
幻霧館が一体何なのか
リョーマに一体なにをやってもらおうとしているのか
とりあえず全部話してみた、一方的に
あ、ついでに私の名前も
そして彼の言葉を待つ
「アンタ、ホストクラブで働いてるんだ?」
「そう。大切な蝶達と一緒に。」
「蝶って、ホストのことだっけ。…大切なんだ?」
「当然。」
じっと、リョーマは視線を向けてくる
伺うような
探るような目で
「…は、いつもそこにいるの?」
「もちろん。」
「みんなのこと、好き?」
「好きだよ。」
「じゃあ全員の名前言えたりすんの?」
「あはは、あたり前だよ。年齢も誕生日も血液型も…」
そこまで言って
ふ、と少しリョーマの警戒が薄れた気がした
けれど
「じゃあ、幸せじゃん。その人たち。」
「そう思ってくれてると嬉しいけど。」
「でも、アンタは馬鹿。」
「ええ?」
「本気で、ソレに俺を誘おうとしてるの?」
「うん。」
「俺の親怖いよ?」
「さっき聞いたよ。」
けろと、した表情では答える
リョーマはため息をはく
ゆっくりと腰をあげた
「殺されたいの?アンタ。」
「いいえ。死にかけたことはありますが。」
「……店、潰されるかもよ。」
「まさか。」
「なに、その自信。」
リョーマの苗字を聞いた「越前」
科白町の越前、知ってる
結構手広く手がけてて、色んな店を経営してる
「リスクはあるけどね。」
「…アンタんとこもデカイかもしんないけど。」
「まぁ。」
「だからこそ危ないよ。ウチの親、平気で潰そうとするよきっと。」
「そう簡単にいくかなぁ。まあとりあえず行こうか。」
「は?」
「リョーマんち。」
* *
結局あれから、リョーマには逃げられた
まぁ、私もさすがにいきなり乗り込んでやろう、と
本気で思ってたわけじゃないけど
似たような事を観月ん時とかやった気がするけど
ああとりあえず太郎さんに電話しようかな
――――諦めが悪いのが、悪い癖だ
―PLUUU
「太郎さん。」
『か。』
「はい。あのー今拾い中なんですけど。」
『気に入ったのを見つけたのか?』
「科白町の息子を一人。」
『名前は?』
「越前。」
さすが太郎さん
驚かなかった
私は話しを続ける
『そいつがいいのか?』
「はい。」
『なら手を回そう。』
「できますか?」
『ああ。直ぐか?』
「はい、今から行くつもりです。」
『分かった。』
結局私はリョーマ家を尋ねることになった
望んでたことだけど
…ここまで関わったんだ、有耶無耶にする気はない
* *
和風のどでかい門を構えた家
リョーマの実家
出迎えたのは綺麗な和服姿の女の人
「様で御座いますね?」
「あ、はい。」
「榊様から連絡は頂いております。こちらへどうぞ。」
「はい。」
綺麗な庭を眺めつつ
廊下を歩いた
そして一室の障子の前に通される
「失礼します。様をお連れしました。」
「入ってもらえ。」
「はい。」
「どうも。」
ピンとした空気
中にいたのは、予想に反して男一人だった
…この人がリョーマの父親
「お初にお目にかかります。越前…南次郎さん。」
「へぇ嬉しいね。俺の名前知ってんのかい。ちゃん?」
「訪ねる相手の名前ぐらい。当然です。」
「噂通りの度胸だねぇ。」
「ありがとうございます。」
にこりと、私は笑う
思った以上に若い
というかフランクというかなんというか…
「それで、用件はなんだったけな。」
「リョーマ君を、幻霧館に頂けませんか?」
「いいぜ。」
思わず、ポカンとしてしまった
――――一筋縄じゃ、いかない人、なんだろうか
私は気を取り直す
「条件はなんですか?」
「…いいねぇ、頭のいい女は好きだよ。」
「おしゃって下さい。」
「金じゃねぇよ。」
「では、」
「今この家にゃ、男共が30人近く待機してる。」
「そうですか。」
リョーマの親父は足を崩し
愉快そうに豪快に笑った
そして、言う
「ルールは簡単だ。」
「はい。」
「リョーマに辿りつきたきゃ、全員ぶっとばせ。」
「…。」
「俺は頭がいいオンナも好きだが、それ以上に強い女も好きなんでな。」
「分かりました。」
「お?当然、鍛えてる奴もいるぜ?」
「そうでしょうね。」
私はすく、と立ち上がった
パンパンと、実は着ていた着物をはたく
こういう展開も覚悟済み
「…綺麗な着物が汚れちまうな。」
「買い替えます。」
「――――――そこまでして、どうしてウチの馬鹿息子がほしい?」
「直感です。」
「直感で、死ににいくのか?―――いや、殺させるつもりはねぇけどよ。」
「私も死ぬつもりはありません。」
じいとリョーマの父親を見る
予想外、といえば予想外な人柄
まだ何かいいたそうな彼に、その先を促すように視線を送る
「…俺のあとを継ぐ、それがアイツにとっても幸せな事だろ。」
「…テニスをやっていくより?」
「不確定な未来に突っ走るよりな。」
「どんな仕事だって不確定でしょう。」
「ずっとマシだろ。勿論お前んとこ行くよりも、な」
「一般論ですね。」
「そういう世間で生きていくんだ。」
「つまり、他人の価値観の中で生きろと。」
「…」
はあとため息を吐く
呆れたとかではなく、ちょっと熱が入ってしまったから
向こうもすべてが本心で言ってるわけではないだろう
これ以上話はないな
私はそのまま出て行くために障子に手をかけた
ふと、思い出した様に彼をもう一度見た
「リョーマの怪我、貴方がやったんじゃないですね。」
「―――その覚えはねぇよ。」
「馬鹿ですね…息子さん。」
「ああ、馬鹿さ。手に余る。…是非もってって欲しいな。」
にっこりと
私はその言葉に笑顔で返した
最後の言葉が、本心と取ろう
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