蝶20
「さて、逃げようか。」
「うまくここを逃げられても、彼らが諦めるとは思えません…」
「そうだよねぇ…」
「やっぱり…」
「やっぱりちゃんと許可もらわなきゃだよね!」
「は?」
「行くよ。観月。」
「ちょっ、」
私は観月の手を握り直し
威勢良く部屋のドアをあけ
そして叫んでみた
「すいませーん!ここの一番のお偉いさんだしてくださーい!」
「なっ」
シンと静まりかえった後、一人の男が近付いて来た
そしていつだが見たボディーガードらしき男も
掴む観月の手が、強くなる
「お客様一体…」
「観月はじめ今日を持って退職扱いで宜しくね。」
「は…何を言うと思えば。面白いお嬢さんだ。」
「そりゃどうも。」
「…さっさとソレを置いて出て行け。女。」
私が、コノ界隈の者だと気づいたんだろう
店の一番えらい奴…オーナーらしき男の雰囲気が変わった
私は平然と応える
「ソレ言うな。…観月は、ウチが貰う。」
「…お前、どこの誰だ。」
「幻霧館。」
「!…はは!面白い。幻霧館の女がわざわざ!」
「えぇ。」
「何故うちの観月を?惚れたか?」
「そうね。」
「いい冗談だ。―――だがソレにはこれからたっぷり稼いでもらわなきゃいけないんでね。」
ぞろ、とたいした人数でないが店の男達が集まってきた
ぴんと空気が張る、2.3人いた客は逃げるように出て行った
さあどうする、そう思った瞬間、観月に手を引かれた
「っ…もう、もういいです、離して下さい!」
「観月。」
「オーナー…この人、酔ってるだけです。僕はどこにも行く気はありません。」
「ほぉ…ただの酔っ払いだと?この幻霧館の女が。」
「はい。 ―――さっさとお金払わせて、出てってもらって」
ガッ
「…っ…このアマ…」
「…軽い。」
「っ!」
「大丈夫だから観月。」
オーナーの後ろにいた男の突然の一撃
って正面からだったので、利き腕で止めれた
しかもコイツ見かけだけだ、たいしたことない
「喧嘩っぱやいなぁ。まあでも、手ぇだしたの、そっちが先だから。」
その声をスタートに
私は空いた左手で
思いっきり腹に一撃差し上げた
* *
ばらばらと、床には男達が呻きながら転がっている
たっているのは、もうオーナーだけ
…おかげでこっちも流石にふらふらですけど
ついでに首を掴まれてる状態、よろしくないね、うん
「…しつこい女だ。」
「蝶に、手を出す奴は、許さないから。」
「蝶…?」
「、もう、いいですからっ」
「約束。死んでも、あんたは守る。」
と言ったものの、これは本当マズイかもしれない
多分鍛えてるだろうこいつ、まだピンピンしてるし(見てただけだからな)
どうしたもんか、そう思った時だった
「そこまでだ。」
凛とした声が、店に響いた
男の後ろ、入口の方へ視線をやれば
それは見知った人で
「え?…た、ろう、さん。」
「お、お前は…確か、」
「もう一度言う、手を離せ、東雲。」
「っ榊…!」
東雲とは、コイツの名前か
さすが榊さん、物知りだし、有名だなぁ
なんてことを思ってたら、男の手が首から外れた
「―――…あ、暴れたのは、そちらのお嬢さんだが?」
「医療費等の金は全額払う。」
「ほお…それで。」
「その男は幻霧館が預かる。」
「は、ふざけろ、この男は、」
「その男が、今までこの店で稼いだ金額の倍払う。」
「っな…本気で…」
「本気だ。」
私もにたようなコトさっき言ったなぁ
太郎さんに習ったわけではなかったと思うが
そして私の隣で黙っていた、観月が動いた
「っそんなこと、して頂かなくて結構です!」
「―――−お前に拒否権はない。」
「っ」
「お前の主人は、お前を選んだだ。嫌ならに言え。」
「……」
「…観月。ごめんね不甲斐なくて、私。」
結局は太郎さんに助けてもらったから
多分、これは私が彼のことを守れたとは言えない
私は素直に、謝った
「…何で、謝るんです。」
「…ごめんね守れなくて。」
「――――――貴女が僕を守ってくれたんです。」
「いや、最後まで守れなかったし。」
「いいえ。」
「…観月…まだ、私の手、取る気ある?」
「…行かせて頂きますよ。一生かけて、そのお返しする必要がありますから。」
そう言って、観月ははじめて笑みを見せた
クセのある、綺麗な笑みだった
私も笑い返した
* *
「馬鹿じゃねぇの、お前。」
「はっきり言うなぁ…景吾は。」
「たりめぇだ。 …おい、観月だっけか、お前は大丈夫か?」
「…はい。」
「ちゃんと殴られたトコ湿布はってもらった?気持ち悪かったら言ってね。」
あのまま東雲は太郎さんが黙らせてくれて
観月から手を引くことも約束させた
それから幻霧館に戻って手当中
「可愛い顔が台無しやなぁ、。」
「お客とるわけじゃないからいいもーん。」
「もーん、やないやろ。なぁ、えーっと…観月?」
「…あ、はい。」
「何や怖い顔して。どこか他に痛いとこあるんか?」
「いいえ……」
観月の湿布を貼ってあげた忍足が
反応の悪い観月の顔を覗き込む
その視線に、彼は思いきったように口を開いた
「怒らないんですか。」
「怒る…?お前か?」
「あなたたちが、を…彼女を大事にしてるのは、よく分かりました。」
「…」
「でも、その傷を作った…原因は僕です。」
「…それが?」
答えたのは跡部だった
私の腕に貼っていた湿布から手を離し
空いた袋のごみをまとめながら
「が選んでお前を守ったんだ。」
「…」
「だったら、俺らはそれを受け入れる、それだけだ。」
「せや。第一お前は別になんも悪ないやろ。」
「けど…」
「けども何もあらへん。俺らはみんなそうやってに連れてこられてん。」
「それでも罪悪感拭えねぇなら、とっと働きな。」
「あーでもお前がおったとこのとは違うからな、ココは。」
観月が顔をあげる
私は動いて、真正面に座り込む
そして笑顔で言う
「今日からここが観月の居場所だよ。」
「…」
「頑張ろうね。」
「…はい。」
「よし!じゃ、おっし。観月の世話頼むよ。」
「了解。ここのこと教えたる。」
「…宜しく、お願いします。」
そして
立ち上がり
もう一度手を差し出した
「改めて…―――――――幻霧館へようこそ、観月。」
21