19








「…ってことがあったんですけど、やっぱマズイですよね?」
『あの手の店は働いてる人間を簡単には手放さないからな。』
「ですよねー…」
『店に入るだけであれば、金を積めばいけるだろうが。』
「うーん…」







オーナーこと、私の叔父こと、太郎さんに
私はさっきあったことを電話で話していた
やはり、どうしても、彼が忘れられなくて







『しかし、お前がどうしても気になるというなら、私が行くが。』
「え、や、いいです。いいです。余計な仕事は増やせません。」
『気になるんだろう、その男が。』
「うーん…気になるっていうか…」







気になるとは、ちょっと違った、いつものように
なんか、そうただ「心配」という感情がピッタリあてはまった
今までそんな風に、拾いに行って思ったことはなかった








そして、結局私はまた足を運ぶことになる
そして、案の定
トラブルに巻き込まれることになったのだけれど












* *











彼を探しに行くつもりはなかった
その時は、本当に
ただ、彼を忘れるために新しい人を探しに行ったつもりだった









でも気づいたら足は昨日の路地裏に向かっていて
また外にいるわけないよねと早足に通ろうとした時だった
私の耳は、また、その声を拾った








「調子のってんじゃねぇぞ!ミヅキッ」
「…っ…げほっ」
「…大事な顔は殴んねぇよ。辞めるのも許さねぇ。」
「……は、」
「ここ以外、テメェの居場所なんかねぇんだ、覚えとけ。」







…ああ、そっか、彼は辞めたいんだ
逃げ出したいんだ
――――――――居場所が、無い、か







男に連れられまた路地裏に消えていく彼
どうしようか、なんて言いながら
足はもうお店の方へ向かっていた











* *













「いらっしゃい……悪いがここはお嬢さんが来るような…」
「いや男だけど。金ならあるし。」
「…男?」
「ほら、いいっしょ?ケチケチすんなって。」







そう言いながらブラックカード投げつける
イザという時のために太郎さんが用意してくれたものだ
…まあこんなことのためじゃ勿論ないだろうが







黒のニットを被って長い髪を隠し
サングラスで、顔を誤魔化す
声色は得意だが、流石に無理があるか







それでも男と名乗ったのは
この店で裏で行われてる事は、男性による男性相手の商売だとか
と、太郎さんから聞いていたから








「…どうぞ、こちらへ。」
「なぁ。」
「なんでしょうか。」
「”相手”、選べんの。」
「…お選び頂けます。」
「ドコまで出来んの。」
「…お支払い次第で、ございます。」
「あ、そ。じゃ顔のリスト見せて。」
「かしこまりました。」








外見は、確かにバーだ
問題は、奥の方にある部屋だろう
私は渡されたリストを見て、探す






(見っけ)






「コレがいいんだけど。」
「…申し訳御座いませんが、彼にはもう予約が…」
「その予約してる奴の2倍払うよ。」
「…少々お待ち下さい。」







待ってる間
やはり、たまに
奥の部屋に消えて行く連中がちらほらといた







彼はあそこに行く前に逃げたのだろうか
それとも、行ってから逃げたのだろうか
それとも、もうとっくの昔に行ったことがあったのだろうか








「お待たせ致しました。」
「あ、うん。」
「ほら、ご挨拶しろ。」
「――――はじめです。」
「……。」







ミヅキは、私の目なんか見ちゃいなかった
綺麗な声が、くぐもって聞こえた
「お前のこの仕事最初のお客様だ…また逃げてみろ、次はねぇぞ。」そんな声も、ばっちり聞こえた









そうか
私が初めてか
そりゃいいや








「…ね、まどろっこしいこと、嫌いなんだけど。」
「…え。」
「そういう店なんだろ、ここ。さっさと連れてってよ。」
「…分かりました。」









* *










「ふうん。ラブホみたい。」








奥の部屋に入り、第一声がそれだった
もう彼しかいないので、声色を使うのは止めた
でも観月は気づいていない、ますます死にそうな顔色になっているだけで








「…私が最初の客?」
「…え?」
「逃げてたの?今まで。」
「貴方…」
「顔綺麗だから、人気あったでしょ。」
「…」
「コレを避けるのも、大変だったんじゃない?」








やっと彼と目があった
驚いた表情の彼
その瞳は悲しみとか怒りとか入り混じった色が浮かんでいた








「改めて、はじめまして、ミヅキさん。」
「…貴方、一体…」











* *










「…つまり、貴方はホストクラブの人間ですか。」
「はい。」
「それで、なんでこんなとこにいるんです。」
「あなたを見かけて気づいたら?」
「気づいたらでくるようなとこですか。何を考えて…」
「だって心配で。」
「…は?」
「居場所、ないのは辛いよね。」








彼は、黙った
お前に何がわかる、そう言った顔で
じっと私はその顔を見た








「ああ、それから言いたかったの。」
「…言いたかった?」
「うちへ来る?って言いたかった。」
「…はい?」
「だから、うちの店。」
「相当のバカみたいですね…」








観月はそう言ってため息をついた
太郎さんも言ってた、こうゆう仕事をする人間は
そう簡単に店はやめさせてもらえない


それでも








「私についてくるなら、居場所はあげる。」
「死んだ方がマシです。結局ホストクラブにいくのなら…」
「死ぬならその命頂戴。」
「だから…」
「どうせ、ここにいても死ぬんでしょ、観月は。」
「…もう、死んでます。」
「じゃ、その遺体引き取らせてよ。」
「何、言ってるんですか貴方は。」
「私の手をとるなら、居場所をあげる。」








私はすっと手を差し出した
いつものように
笑顔で








「この手をとったら、」
「…とったら、なんです。」
「死んでも、私が、観月を守るよ。」








それは、事実
観月の瞳が揺れた
生気はないが、腐ってはいない、その綺麗な瞳








「…現実的に、無理です。」
「取りたいのか、取りたくないのか。」
「…ここから、逃げれると、」
「言ったでしょ。」








この手をとったら
アナタは幻霧館の蝶だから
絶対に、私が守る








「観月は頭いいだろうね、凄く。」
「…」
「でも今考えるのはいいから。」
「…」
「信じて。」








冷たい手が、触れた


















20