蝶16
「あ、空港のくせにアイス美味しい。」
「ふふ、良かったね。」
「なめてた。あ、お茶だけで良かった?」
本当にアイスを頼んだ私に対して
彼はコーヒーを一つチョイスしただけだが
それでも、彼は薄く笑んだまま私の顔を見た
「で、弟君が留学行ってるんだって?」
「うん。その見送り。」
「スゴイねぇ。何でまた?」
「テニス。」
「ふーん。フジ君もやってた?」
「…当たり。」
「やっぱりー何かスポーツやってそうな気がしたんだよー。」
「観察力、あるね。」
「ま、あくまで勘だけどね。」
彼の名前は聞いた、苗字だけだけど
私はまだ名乗っていない、彼も聞いてこなかったから
雰囲気に流されて、ここに来て、今おしゃべりしている状態
「弟君、心配?」
「…まぁ、一応大事な弟だからね。」
「ふーん。」
「ただ…」
「ただ?」
「ううん。」
言いかけて、止めて
彼はにっこりと、また笑んだ
それは、追求してきても言わないよと云う笑顔に見えた
嘘くさい、綺麗な笑顔
もったいない…もったいない
そう思ってたら、彼がチラリと時計を見た
「…ごめんね。もう、行かなきゃ。」
「あ、ううん。引き止めて申し訳ない。」
「ううん。楽しかった。 ―――帰りは転ばないようにね。」
「あはは。ありがと。」
「さよなら。」
「――――――バイバイ。」
手を振って、彼を見送った
最後に見せた笑顔は、やっぱり仮面だった
まぁ当然っちゃあ当然か…会ってまだ一時間くらいだし
「―――――――あ、伝票持ってかれた…奢られちゃった。」
* *
フジは一人…否、正確には周りに人はうじゃうじゃいるのだが
スーツとネオンに包まれそこに立っていた
笑顔は無かった
「―――――フジ君には似合わないなぁ…科白町は。」
ギラギラと輝くネオンを背に、私は声を掛けた
歓楽街、科白町
幻霧館―――その他、店がひしめく夜の街で、である
「……また会ったね。」
「運命?」
「…まるで、分かってたみたいだね。」
「はは。」
「―――――…着物?」
「うん、私の正装。」
「じゃあ、君も…この町で?」
「うん。」
空港で会った彼
直感だった
私が蝶を拾う時、それはいつも直感だ
見て、話して、見て
忘れなければ、私はその人に声をかける
―――――過去も名前も関係ないから
「似合わないなぁフジ君…やっぱ。」
「――ここが?それとも、この仕事が?」
「キャッチが。」
「――――――本当に、面白いこと言うね。…でも、仕方ないから。」
彼は微笑む
彼の語る言葉より
やっぱりその魅力的な笑顔が気になった
「―――フジ君笑顔は仮面みたい。それじゃあ息が詰まって死んじゃうよ。」
「――」
「私がそうだったから、昔。」
カコカコと下駄をならしながら
昼とは違うスーツ姿の彼に近づく
至近距離までニコリと来て微笑む
「――――おーいフジ、お前いつまで…――って、げっ…し、白蝶…?」
「やぁ、同僚君?」
ふと後ろから出てきたのは
同じくスーツに身を包み、茶髪をツンツンに立てた
みるからに、な男
「…しろ、ちょう?」
「―――ば、馬鹿、お前知らねぇのかよ、あの幻霧館の女だぞッ」
「幻霧、館…」
不二はふと思い出す
自分がこの仕事につこうと思い、探してる時
幾度となく耳にし、実際見に行ったことがある ―――見えたのは門だけだが
「君は…」
「。」
「え?」
「私の名前。」
「―――――…」
「良かったら、覚えておいて。私も君の事ずっと覚えてるから。」
「…」
驚いた表情をしたまま
彼は固まっている
私はまた微笑んで、その場を去った
後は彼次第
彼が幻霧館の戸を叩けば
いつでも受け入れるから
それから彼が本当に幻霧館へ来たのは
本当に直ぐのことだった
その時彼が見せてくれた笑顔は、私は今でも一番好きだと思う
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