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仕事部屋に戻り
ずるずると壁にもたれながら
ゆっくりと座り込んだ







『アンタが好き』
その言葉はゆるゆると、静かに自分の中に沁みこんできた
優しくて甘くて痛い言葉だった







好きだと、視線だけで言われたことがある
触れる手で、その温もりで言われたことがある
言葉そのままで言われたことがある







でも私は白蝶
誰も好に
好きに








「ならない。」








はあとため息を吐く
一番面倒だと思ってることだった
いくら白蝶だと言い聞かせても、所詮はただの女で







幼い頃は居場所がなかった
親の事と言えば…怒鳴り合っている姿しか思い出せない
愛情なんて感じた覚えがない






初めて愛情というものに触れた時、とても心地よかった
親でもなく、血の繋がらない他人からの愛情だったけど
失いたくないと思った






太郎さんに会って、ここの館と出会った時
私は愛を与える側になった
自分は幸福だと思った、だから今度は与えなければと思った






だからここを愛して
ここにいる人達を守って
唯一の居場所とする








。」








びくっと思わず体を揺らしてしまった
考えに浸っていたので全然気づかなかった
あけたままの戸に彼が立っていた









「景吾。」
「…どうした。」
「んー、何も。」
「…。」









笑って返したら
景吾はそれ以上何も言ってこなかった
黙って戸を閉め、隣りに座った








彼は、私に何か言ったことはなかった
多分きっとこれからも言わないと思う
でも必ず、気づいたらいつも近くにいてくれている







「私、間違ってるかなあ。」
「…」
「ここにずっと居てもいいのかな。」
「お前がいなきゃ、困るだろ。」
「―――――――景吾は」
「ずっとここにいる。お前がいる限り、少なくとも俺はな。」
「…つぶれたら、どうするココ。」
「…しかたねぇから、一緒に路頭に迷ってやるよ。」









―――これと同じ会話を繰り返すのは何度目だろうか
おかしくなったかのように、私は同じ疑問を投げかける
けれど彼は何度でも同じように答えてくれる







彼がそう笑いながら言ってくれるから、私もちゃんと笑って返せる
嘘でもなんでもいい、その言葉に、いつも、救われる
それは事実だったから








「…あーおやつの時間だね…」
「あ?」
「ジロー達に、一緒におやつ食べようって言われてた。」
「だったら早く行かねぇと拗ねるぞアイツら。ガキだから。」
「景吾も行こ。―――あと仁王もいたから誘って寮に戻ろう。」
「…ついでに観月に茶ぁ淹れさせろ。」
「観月紅茶淹れるのウマイもんねー。でもその言い方は怒るよ。」
「知るか。」
「あはは。」









笑いながら腰をあげる
跡部も立ち上がって戸をあけてくれる
ふと思い出したように私は聞いた








「さっき、私の声でかかった?」
「庭から三階に向かって叫べばな、煩ぇよ。」
「あはは、ごめん。」








ある意味、最低な台詞かもしれない
でもそれが私が答えられる唯一の言葉
仁王に最後に言った言葉が、私が言える全て








『私は、みんなのものだから。』








どう捉えられても構わない
それでも
みんなが好きだということが、ここを守りだいということが
全てだから








「…。」
「なに――――ひらっ」
「馬鹿面…」
「ったあ!何で抓るのさ…」







突然抓られた右頬をさする
痛いと訴えても
彼はいつもみたいな不敵な笑みを見せるだけで







「辛気臭ぇ面してんじゃねぇよ。またアイツらが騒ぐだろーが。」
「あー…ごめん。もう大丈夫。」
「行くぞ。さっさと仁王呼んでこい。」
「ありがと景吾。」
「…分かってる。」
「うん。」








分かってる
全て言わなくても
だから、大丈夫












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