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「どうして、わざわざお店のホスト達まで呼んだんですか?」
「えー?」







エレベーターの中で
精市さんが静かに聞いてきた







「どうせ、ウチのオーナーに言い返す力なんてないよ。」
「…」
「貴女一人で、十分迫力があった。」
「あはは、ありがと。でもね、さっきも言ったけど…」
「…?」
「心強いから、彼らがいるだけで。」
「信頼してるんだね…。」
「うん。」
「…彼らも、貴女のことをすごく信頼してるみたいだった。」
「そう?」
「うん。」







にっこりと、精市さんは微笑んだ
なんだ、ちゃんと笑えるんじゃないか
と、思った、だからもう一度聞いた







「ね、どうしてここで働いてるの?」
「…こんな店でってこと?」
「うん、雅治クンも精市さんも、似合わないよ。」
「よー…見ちょる。」







今まで黙っていた雅治クンが口を開いた
この二人は、ここが似合わない
ただの直感だったけれど







「…ちゃん。」
「なに?」
「精市、あんたんとこで働かせてもらえんか?」
「雅治!」
「…どういうこと?」







ピンとなって、エレベーターが一階で止まった
けれどそのまま
私は話を聞いた







――――――精市さんが、ここで働いているのは
入院している妹のため、ということ
両親が他界していて、彼しか妹を守る人がいないこと





そして彼自身、体が弱いこと
だから、昔からの友人である雅治クンが
彼と一緒にここで働いていること






「アマガワはな、知っとるんじゃ。こいつの妹が入院しとること。」
「知ってる?」
「こいつも体が弱いから、儲けのいい肉体労働なんやかはできん。
 それを分かった上で、ウチで働かんかって直接言いに来よった。」
「カシオペアの噂は、知っていた?」
「知っとった。けどどうしようもできんじゃろ。金が必要なんは違いないんじゃから。」
「でも、半脅しだねぇ。顔がいいから使えるってことか…雅治クンは何で?」
「…放っとけるか。」
「そっか、優しいね。」








雅治クンの話は納得した
まーんなことだろうと予想はついていた
お人よしだねぇとも思いつつ






私はとめていたエレベーターを出た
景吾達が視界に入る
笑って、手を振っておいた








「精市さんのためか。」
「…本当に、迷惑かけてるよ、仁王には。」
「俺が勝手にしとるだけじゃ。」
「仲良しだね。………仁王って、雅治クン?じゃ精市さんは?」
「幸村。普段は名前で呼ばんからな。」
「じゃ、仁王は平気なの、ここらで働らいてて。」
「親か?とーの昔に勘当されちょる、関係ないわ。」
「成程。」







まぁ一緒に働いてるんだから
それなりの理由を彼も、仁王も持ってるんだろうとは予想済みだったかれど
そう思いつつ私は三人の元に駆け寄った







「景吾ー!不二ー!あっくーんって、既にバイク持ってきてるし…。」
「帰るっつッたろ。」
「遅ぇ。何やってたんだ。」
「ん、二人とおしゃべり。」
「すみません。」








幸村が謝った
景吾はそんな二人をじっと見つめる
だから私も景吾を見つめてみた







「……そーゆーことか。好きにしろ。」
「ふふふさすが景吾分かってくれるね!」
「へぇ気に入ったんだ?。」
「えへへ。不二もいいよね?てか、不二に頼もうかと思ってるんだけど…」
「二人とも?」
「ううん、仁王だけ。」
「いいよ。」
「ありがと♪」







黙ったままの二人をおいて
私は話しを進める
そして振り返って、今度はちゃんとその二人に声をかけた










「幸村、仁王。…幻霧館へようこそ。……ってまだついてないけど。」









そう笑顔で言った










* *












「本当に、いーんか?俺まで。」
「んー?だってあの店戻る気ないでしょもう。」
「睨まれるだろうからの。…でもアイツに嫌がらせされんか?」
「大丈夫大丈夫。」
「……あんたやっぱ凄いの。」
「ええ?度胸が?」
「全部じゃ。」







幻霧館までの道のりを歩きつつ
仁王の言葉を聞いて私は笑った
ちなみに幸村はここにはいない、妹のところだ









* *





数分前…







『幸村は、亜久津に任そうかなっと思ってるんだけど。』
『…亜久津に?』
『俺が?ふざけんじゃねェ。ンな面倒なこと…』
『ふざけてもません。本気―。あっくんバイク煩い…』
『うるせぇ。俺は帰る。』
『どうして亜久津に?』
『あっくん、寮じゃないから。』







幻霧館に入った最初は、まず規則などを教えるために教育係りみたいなモンをつける
ジローには跡部がついたように
だから仁王には不二、そして幸村には亜久津をつけようと思った






―――亜久津は幻霧館の寮には住んでいない
母親がいるから、働く理由もそこにある
それと同じで幸村にも妹がいる、だから彼も寮は使わないだろう








『似たような二人同士って、こと?』
『まぁ、そうだね。それに、あっくんも幸村さんの淑やかさを見習ってもらおうってねー!』
『うるせェバカが!…――――ちッ………おい。』
『え?』







エンジンの音をふかせながら
亜久津は幸村に視線を向けた
そして予備のメットを投げた







『……?』
『妹ンとこだよ。…帰るんじゃねェのか。』
『…幸村。ウチに来るのは明日でいいから、妹さんとこ帰りなよ。今日のところは。』
『……ありがとう。』
『さっさとしろ。』







ぶっきらぼうに
亜久津は言う
幸村は笑みながらバイクの後ろに乗った







『あっくん、事故んないでね。』
『事故るか。』
『明日遅刻しちゃダメだよー。ちゃんと幸村連れてきてね。』
『…さん、本当にありがとう。』
『いいえ。』









* *











「ただいまー」
ー!!生きてる!?」
お帰り〜〜〜」
「ぐぉッ」







玄関をあけた瞬間
おこちゃま達に飛びつかれた
まだお客さんいるでしょうに…







「ジロちゃん、重い、がっくんも。」
「なんだよー心配してたんじゃねーか!」
「はいはい、仕事は?」
「今大部屋終わったとこ〜。」
「なるーそれで暇人ね。」
「「……ん?誰?」」







やっと気づいたのか
二人は後ろを覗き込み
仁王を見てそう言った







「新しい蝶だよ。」
「…よろしゅう。」
「はい、二人とも始めましては?」
「「はじめまして。」」
「…は、ホンマ好かれとるんじゃの。」
「いやいや、この子らが元気よすぎなだけで…」







苦笑しつつ、私はぼけーと仁王を見る二人をのけて玄関を上がる
皆への挨拶は明日にする、ということで後は不二に任せた
二人も部屋に戻るように告げる








「ふーっ…今日はありがとうね、景吾。」
「別に。…で、カシオペア、マジで何か言ってくんじゃねぇの。」
「そうだろうね。」
「…分かってんじゃねぇか。」
「私からは勧誘してません、なんて屁理屈だしねぇ。」
「…それなのに、あの二人拾ったのか。」
「ウチの子になったからには、私が守るから。」
「…無理すんなよ。」
「当然のことだよ。」








ポンと、私の頭に手をのせ言う景吾に
私はへらっと笑いながら言った
全ては、最初から覚悟済みだ








「仕事、入ってるでしょ。行ってらっしゃい。」
「…あぁ。」
「…どした?」
「…いや。じゃあな。」
「うん。」








跡部を見送って、じっと一人玄関で仁王立ちする
静かな音楽と、微かな笑い声が聞こえる
帰ってきた、と思う







すぅと大きく息をすって、吐いた
微かに、ほんの微かに震える

自分の手を押さえながら








「あ、さん、お帰りなさい!早速で悪いんですけど…」
「…うん、ただいま〜。どうしたー?」








いつもと同じ、幻霧館の夜が更けていく











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