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「…着信。」
「あー?」
「跡部、から?」
「あぁ。」
「っどくせェな。やっとかよ。」
「じゃ、行こうか。」
「あぁ。」









* *













「オーナーさんが、私に何か?」
「いいえ…ほんの少し、おかしなことをホスト達から聞いたものですから…」
「おかしなことー?私、言いました?精市さん、雅治さん?」







そこに残っていたのが、既に二人だけだったので
二人にわざとらしく聞く
ちなみにオーナー…アマガワの後ろには、何やら妙に屈強なホストが付いていますが







「精市、雅治、あなた達は別のお客様のところへいってなさい。」
「…じゃけど、このテーブル誰もおらんようなるじゃろ。」
「雅治。分かりましたオーナー。…失礼しますね、さん。」
「ダメ。」
「え?」






ぴしゃりと私は言った
2人は関係ないが
…少し気になることがあるので、残ってもらいたいから








「二人とも座っててもらえる?」
「……。」
「聞こえないかな?」







立ち上がりかけた二人に、視線は合わさず優しく言った
しかし、効く自信はある
伊達に、何人ものホストの…蝶を相手をしていない





じっと、若干顔を顰めはじめたアマガワだけに視線を向ける
少し座る位置をずらし、真正面に来るようにする
さて、どうしようか







「……―――――貴方、同業者の方からしら?…どちらの?」
「いやーどちらってほどでも、って、同業者って分かります?」
「舐めてもらっては、困りますわ。」
「あはは、舐めてませんよー。」
「…ウチに何の御用かしら?」
「ん?だから…そうねー雅治君と、精市さんにーこの店の居心地を聞きに。」
「…どういうつもり?まさか、引き抜き、」







さすがに、アマガワの口調も崩れだす
しかし、ホスト二人はほとんど表情を変えてなかった
僅かに顔を曇らせ、視線を落としたまま







「…ここのホストって、笑顔がぎこちない人多いですね。」
「…なんですって?」
「今だって、動揺してるっていうか…既に喧嘩越しの視線ぶつけてくる人もいますし。」
「…それは、貴方がそんな態度だからじゃないですの?」
「私が言ってることが図星だからじゃないんですか?」
「なんですって?」
「同業者潰し。ここにいるホスト達はどんな経緯でここにいるんですかね?」
「なッ」






ピクリと、二人の表情が揺らぐ
本当に、どんな方法でホストを連れてきているんだが
この中には、噂どおり、元は別の店で働いてた人も大勢居るだろう







「…アマガワさん…上に立つ人間にとって、ホストは大事なものですよね。」
「…えぇ、そうね。それが、」
「それなのに、…少なくともこの二人の笑顔は…笑顔に見えませんよ。」
「……貴方の目がおかしいんじゃありませんの。」
「あはは、えらい言い様ですねぇ。でも私目には自信ありますよぉー」
「貴方…どこの誰だか知らないけど…調子に乗らないほうがいいわ。」
「…だって、ここのお店、居心地悪いですもん。」
「っ、貴方、一体…」







ぐっとアマガワが立ちあがりかけたとこで
店内が一瞬静まりかえり、直ぐにざわつき出した
私以外の三人の視線も、そのざわめきに送られる








「呼ぶの遅ェんだよ…ンだ、コイツら…」
「大丈夫?。」
「…酒飲んでんじゃねぇよ、弱いくせに。」
「やっほー。おっつかれさーん。平気だよ景吾クン。激薄だから。」
「アホ。」








当然、現れたのは、待機してもらっていた彼らである
亜久津は来たそうそう、オーナーの周りにいる屈強ホスト君に喧嘩売ってるが
そして気づくお客さんは気づく







「ねぇ…ちょっと、あれ!黒蝶!景吾!」
「え?黒蝶って?あの幻霧館の!?」
「そー幻霧館のナンバーワンホスト!」
「ねぇッあれ不二クンじゃない?なんで!?」







さすが
ウチに来たお客様もいるようで
黄色い悲鳴が、そこかしこで起こり始める







「―――…げ、幻霧館ですって…まさか、貴方…」
「…改めまして自己紹介させて頂きますね。幻霧館責任者の一人、です。」
「な、なんで、幻霧館の、」
「あ、こちらはウチのホスト達ですので、あまり気にせずに。」
「…どうぞ。」







さっと席を開けたのは、私の隣りに座っていた精市
雅治もそれを見て、立ち上がり席をあけた
そして跡部達を促す






「ありがとう。」






私は三人の代わりに、お礼を言う
この顔を真っ赤にしているオーナーよか
よっぽど冷静で頭の回る子達だ







「では、今日私が来た理由は分かりますね。アマガワさん。」
「……あ、」
「幻霧館は、同業者の立ち入りは一切禁止させて頂いております。それはご存知の筈。」
「……。」
「そして、蝶の勧誘はもってのほか。」
「…そ、それは、」
「まぁしかし私は貴方にまで規則を絶対守れとはいいせんよ。同業者、しかもオーナーの方ですし。」
「え?」
「守りたくなきゃ、勝手にして頂いて結構です。その代わり、調子に乗ればどうなるかは保障しかねます。ただココの噂が、私のところまで届いてないと思ってます?」
「………ど、どんな噂か知ならないけど、所詮は噂。そんなもの私には関係ないわ。」
「あっそう。」







まぁ正直に吐くとも思ってないけどね
そう思いつつ
私は店内を見回す





喧嘩越しの視線
目を合わさないもの
そんなホスト達の顔





今、私と目を合わさないホストはどんな理由で働いているのだろうか
どうしてここで働いているのか
儲かるからか、ただ、お金を稼ぐためか







「私は、何よりホストが…この子達が大事です。」
「…だから何?」
「だから別に、噂のように貴方に勧誘を受けて、ウチのホストがウチを辞めても、構わないんです。」
「……どういう、」
「その子にウチが合わなかったてことだから。自分が、行きたい場所に行けばいいから。ただ、ウチにいる限りは、私が守る、それだけのこと。」







そう、それだけのこと
別に他店のオーナーがウチに探りにこようが楽しもうが正直どうでもいい
ただ、ウチの内部に入り込んで火種を落としていくことは許さない







「次、良からぬ考えを持ってウチに来店されるようなことがあれば…」






じっと
見据え、睨む
普段は、作ることのない表情で







「幻霧館オーナー自らの制裁をがこの店に下ることを、覚悟しておいて下さい。」







私はいつも守られてる
みんなに、蝶達に居場所を作ってもらっている
だから、蝶達の居場所は、私が守れる限り、私が守る







「は、そういうことだよ。二度々来んなよババァ。」
「バッババァ!?」
「ンだよ。ヤるか?そこの後ろの兄ちゃん達でもイィんだぜ?」







亜久津が喧嘩を売ってるのは
雅治や、精市ではなく
オーナーの後ろでさっきから睨みを聞かせてるホストら






「やめろ亜久津。折角が話合いで終わらせてんだ。」
「それに、ここで喧嘩になったらまで危なくなっちゃうからね。」
「…チッ。んじゃ、俺ら居る意味ねぇんじゃねーか。」
「いやいやあっくん。十分心強かったよ。ありがとね。」







ポンポンと頭を叩き(払われたけど)
私は立ち上がる
もう用はない







「んじゃっ、そういうことで帰りますね。アマグワさん。お邪魔しましたー。」
「……ッ」
「あ、景吾達、先出ててくれる?」
「いいのか?」
「うん。すぐ行くから。」
「…分かった。」







先に跡部達を送り出し
私は視線をオーナーではなく
彼ら、に向けた







「店の外まで送ってもらえる?雅治さんに、精市さん。」












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