まらない人 前 






あぁ今日も眠い

いつも通りいつもの時間に学校へ向かう

今日も平和でありますように、そんな事を思いつつ





ところが、だ、本日

この落し物を拾ったせいで

この後えっらい目にあうことになる

あぁ憎し我が親切心





「…生徒手帳。…アッホだなぁ生徒手帳落とすなんて…」





たまたま目に入ったソレ

普段ならシカトする所だったが、なんとなく拾ってみた

したら、どなたかの生徒手帳だった





持ち歩いてる割に、使う頻度はとても低いこいつ

しかし大切なものであることには変わりはない

仕方ない届けてやるかぁと思いつつ

私は名前を確認した




そこに書いてあった名前は





「…手塚、国光?」





やばい、私アホって言った

あの手塚国光に

あの手塚国光 にアホって言った私!ヤバイ!

と本人に聞かれたわけでもないのに一人慌てふためく





「て…手塚、国光…生徒会長であり、あのテニス部の部長。

成績優秀、運動神経抜群、周りの人間からの信頼度も高く

教師陣の信頼度及び期待度もハンパない。

当然の如く女の子達からの熱い視線は途切れることを知らない

…あの鉄仮面、手塚国光か…!)」





最後は褒めていない気がするが、今はどうでもいい

とにかく学校の中で(私の中で)手塚国光はそんな存在だった

憧れとかそんなもん通り越して雲の上の存在だった





「……元の位置に戻そうかな。」





一瞬本気でそう思った

なんせ彼とは一切接点がないから

話したことも、目すら合わせたこともない

いつも見てるだけ

それだけで、良かったから





「あぁあ…どうしよう…届けるしかないのか…」





こうして、私の長い一日は始まった













「そうだよねーよく考えたら落としてましたハイ!で終了じゃん!

 あはは!私てば何深刻に考えてたんだろー♪」





ちなみに独り言である

友達が奇怪な目でみてきたが気にしないでおく

廊下で一人でしゃべりながら歩いて何が悪い





とりあえず持ち前のポジティブ精神により

さっさと渡してしまえ計画に乗り移った私は

彼のクラスを目指すことにした





が後にこの計画が

ガムシロ10個分並に甘いことに気づくのである

なんせ相手はあの手塚国光なのだから












「つ、捕まらない…」





そう、捕まらない

休憩時間毎に、彼の教室へダッシュするのだが

移動教室だの、先生からの呼び出しだの、生徒会

部の集まり、諸々… タイミングがことごとく合わなかった




そんなこんなで、もう五時間目

まさかこんなにも捕まらないと思わなかった




職員室に届けてしまえばいいじゃないかとも思ったが

もし怒られたら手塚君が可哀相かなぁと思い控えた

私って優しい




もしくはクラスメイトに渡そうかと思ったが

私が取ったんじゃないか、とか思われたら嫌だし

手塚国光も抜けてるんだな、とか思われたら可哀相だし




ため息をつき、放課後にかけることにした












「次が、最後だ…これを逃したらもう…」





と、意気込むは帰りのHR

放課後になれば間違いなく彼は即効部活に行く

そこを押さえるしかない…!





「じゃあHR終わるぞ。

日直は悪いがこのプリント整理して職員室に持ってきてくれ。

以上。」





可哀相に日直居残りかよっ

……って、日直私だ♪

…ちくしょう












「あのはげー明日ドアに黒板けし挟んどいてやるー」





さっきからずっと

ウラミツラミの言葉を吐きながら

私は一人大量の資料をまとめていく




この五種類のプリントを人数分一枚づつまとめればいいらしい

もう一人いた日直は

「もうすぐ試合だから…ゴメン!」と言って部活に行った





酷いよ!

あんたの試合より

手塚国光の生徒手帳のほうが大事なのに!




とアホことをいわないで黙って見送ったあたり

私も大人になったと思う

本心ではあるが





「とにかく、まだまだチャンスはある。本当はイヤだったけど…」





そうラストチャンスは部活の帰りに捕まえること

校門かテニスコートで張っていれば間違いなく捕まえられる

確実だ





「逃がすか手塚国光…地の果てまでも追いかけてやる!」





数々の失敗と苦労と雑用と独り言を重ね

苛立ちもピークに来ていた

そして私は猛スピードで資料整理を進めた
















振り返れば今日一日生徒手帳に始まり

生徒手帳に終わった日だった

授業中だっていかに爽やかに

ナチュラルに渡すかずっと悩んでいた





授業後はクラス委員長の「起立・礼・着席!」の合図とともにダッシュした

そんなことを繰り返し、三時間目も過ぎれば

クラスメイト達の奇怪なものを見る視線もなくなった





そして今、私はここにいる

緊張と期待と苛立ちを含んだ気持ちで

そう、ここテニス部部室の影で佇んでいる…!

(直でコートに行く勇気はなかった)






「部室に来た瞬間に渡せばいいよ、そう。

着替え終わるの待ってたら更に遅くなるし。

さすがの私もそこまで待ちたくないし

ミーティングとかまた始められたらやっかいだだし。

あぁでも生徒手帳渡すぐらいだったら行ってもいいのかな…

あぁでも部活中だから怒られるかもしれないし…

それにあんな大勢いるとこで渡すなんて恥ずかしすぎる!

ラララ、ラブレターなんて思われたら…


いやっ、無理やっぱ 「ここで 君何してるんだい?」 っっだあ!?」





本日一番長い独り言をぶつぶつ言ってたら

急に声を後ろから声をかけられた

思わず変な悲鳴が出た





「す、す、すいません!あの、もしかして私怪しかった!?」

「ああ。」





メガネをかけた背のたっかい彼は間髪いれずそう答えた

表情が見えない

怖い、そしてヒドイ





「こんな所で、一人でぶつぶつ何を言ってるのかな?」

「あのこれは心の声が漏れてしまっただけでですね…」

「…待つとか、待たないとか言ってった気がするんだが…誰かに用か?」





緊張し慌てふためく私に

背のたっかい彼こと乾は至極優しめに問いかける

一方の私は予想外の事だった為

おろおろするしかなかった





「いや、あのですね、あの、いや、えーーうんと…」

「…あ、…君確か五組のさんだよね?」

「はい?え、何で、知って、まさかストー」

「違うよ。君、結構有名だからね。」





言おうとした言葉間髪入れず遮断され

私はあまり面白くない

しかし、有名とは?

有名になった覚えはさらさらない、と私は聞き返す




「有名って…?」

「五組の可愛いけど凄く変わった子。」








今私凄く馬鹿にされてる





「いや、変わってるって言っても悪い意味じゃ…」

「変わってるに良いも悪いもあるかい(怒)」

「…まぁそうだね。それよりさっきの話の続きなんだけど。」





肯定したよこいつ、しかもそれよりで流したよ

と盛大に突っ込みたかったが、再び話を戻されたことで

私は自分の使命を思い出した





そうだ 生・徒・手・帳…!





「あのっ、あの部活は…」

「部活?なら、終わってるよ。ついさっき。」





し、しまったあ!

この人のせいで気づかなかった!

つかレギュラージャージ着てるこの人がここにいる時点で終わったことに気づけよ私!





「どうかした?そうだ…さっき誰か待ってるって…」

「あ、そ、そうなんです、あの、てづ…部長、…さんは?」

「部長?手塚なら…ホラあそこ。手塚!」




呼んじまったよコイツァ!!

いや、それでいいんですけどねっ

こ、心の準備が…





「乾、どうかしたのか?…彼女は?」

「あぁ、手塚に用があるらしいんだ。彼女が。」




予想外の展開に固まった私を他所に乾は会話を進める

そして乾と呼ばれた彼は私の方に視線を落としてくる

当然、手塚の視線もバッチリくる




やっとだ、やっと今日一日中探しもとめていた人がここにいる

私は今日の失敗と苦労と雑用と独り言を思い出し

自分を奮い立たせた





「あ、あのっ、ぶちょ、て、手塚さん!今日、」

「…何だ?」





だんだんと周りの部員から視線が集まってくる

無理もない

異様な雰囲気を放つ女生徒と部長が対峙しているのだから





しかし私はそんなことを気にしている場合ではない

今こそ今日の苦労が報われる時なのだから

そう今日一日中私は、





「今日っ…ずっと、」

「ずっと…?」





異様な緊張の中

一日のことを走馬灯のように頭に浮かべる

手塚は軽く首をかしげ、目の前の彼女の言葉を待つ




そし私は叫んだ





「ずっと貴方のことばかり考えてました!!」








あ、間違えた

そう思ったが

もう遅かった 





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