まらない人 後 







こと私くし

今朝まで平穏な生活を送っていたのだが

偶然拾った落し物、大事な大事な生徒手帳

それがあの手塚国光のものだったもんだから




こんなことになってしまった





「…」

「…」






今、とりあえず固まっています




生徒会長であり、テニス部部長であるこの人

捕まえるのは簡単ではなかった

おかげで私は一日中探し回るハメになった




そして部活後にやっと捕まえることが出来た

そして生徒手帳をとっと返して去るつもりだった

しかし出たその際に一緒に出た台詞が問題だった





『今日、ずっと貴方のことばかり考えていました!』









違うのだ、確かに考えていたのには違いないが

これじゃ絶対違うニュアンスで捉えられる

本当は落し物を届ける為

ずっと探していたと言いたかっただけなのに





あの手塚国光を目の前に、緊張しすぎてしまった

…だってあの誰ものが焦がれる手塚国光なのだから

…と、私は思っているのだけれど





とにかく

今はこの硬直状態をどうにかしなければいけいない

というか言い直さなくてはいけない

じゃないと





「ヒュ〜♪さっすが手塚部長!こんなところで告白受けるなんて」

お黙りツンツン頭!



「…す、すんません。」





と、この様に勘違いしたやつが出てくるのだ

まったく、あのツンツン頭め

じゃなくて





「…あの、とりあえず、落ちつきましょう!」



「あぁ…俺は落ちついているつもりだが…」






そうですね、落ち着いてないのは私です

あれでも心なしか手塚さんも動揺しているような…

まさかね、告白なんて慣れっこの筈だし





「あのですね、イヤなんと言うか、違うんですよ。」

「違う…?」

「そう、ただ私は今日一日中貴方を探していただけであって…」





「告白するタイミングを探していたのかにゃ!?」

黙れっつってんだろうがこの似非猫が!



「…ご、ごめんなさい。」





ツンツン頭こと桃城に続き、似非猫こと菊丸も黙らせる

そんなことしてたら苛立ちが再びせり上がってきた

というかまどろっこしい…!





きっと視線を強くし、手塚のほうに向き直る

ぐだぐだ言おうと思うからダメになるんだ

もう一気に言うしかない





「手塚国光さん!」

「何だ?」

「うっ…」




愚か者…覗き込まれたくらいで固まるな私!!

身長のせいだ身長の!

ちびな私の馬鹿!(もう何が何やら分からない)




「だからッ…」

「あぁ、何だ?」

「…う…だ、か、」




もう駄目だ




バンッ




「 ーッ!?」




叩き付けた

今日私を苦しみ続けていた

落し物を





「これ、あ、アナタの落し物!」

「…生徒、手帳?」

「これをね、届けたくて、ずっと今日探してたわけなんです。」

「そう、だったのか…、」





心臓の鼓動が煩い、顔を見ることが出来ない

顔が火照る

渡せた達成感よりそっちのほうが気になって




…そうなってしまう理由は簡単なのだけれど

認めるのは辛いから

今は言葉にしないでおく





そして私はへらっと笑った

いつもの

友達に笑いかけるような笑みで




「…それじゃ!」




私は逃げるようにして

彼に背を向けた

そしてまたダッシュしようとした






ぎゅ




「え?」




捕まれた

細かく言うと手塚国光の左手に、自分の右腕が

そして彼は言った




「…すまなかった、ありがとう。」

「ど、どういたしまして、」




そして今度こそ

その腕からスルリと抜けて走り出した

走り去りながらぼんやり思ってた





あぁ私は

あんなにアナタを捕まえるのに苦労したのに

アナタは簡単に私を捕まえるのね

なんて




心臓のドキドキは

なかなか収まってくれなかった

















「ふー…」







翌朝、小さなため息を吐きながら

いつもの時間、いつもの道で

学校に向かっていた



でも思い出されるのは

昨日のこと

昨日のあの人




「情けない…あの失言も…あぁテニス部燃やしたい…。」




若干物騒なことを言いつつ

また小さなため息をはいた

どうしてこんなに切り替えられないのか




やはり、理由は簡単

昨日自身で認めるのを否定した事実が

ずっと頭の中でまわっているから




情けない

たった一つの事実が自分をこんなにも大人しくさせる

らしくないと思う

本当に





。」

「……まずい幻聴が聞こえてきた。」





後ろから聞こえてきた

もの凄く聞き覚えのある声に

私はそう呟いた





「…寝ながら歩いているのか。」

「失敬な!」





眉間にしわを寄せ

ばっと後ろを振り返った

そこにいたのはやはり彼だった





「て、手塚サン…お、おは、おはよう…」

「あぁ、おはよう。」

「あ、あれでもこんな時間…朝練は?」

「今日はない。…学校まで一緒にいいか?」

「へッ?…う、いえ、あ、つつ、謹んでお受け致します。」





頭の中の“答え”がまたぐるぐると回りだした

なんて心臓に悪いことを言うのだこの人は

いや…少し、いや、…嬉しい、申し出なのだけれど




私は自分の日本語がおかしいことはおいといて

ひたすら今ここで隣で歩く人へと神経を集中させていた

というか勝手にそうなる





「昨日は、本当にすまなかった。」

「え、いや、もういいって、全然!」

「そうか。」

「うん。お礼も言ってもらったし。もうこの話は終わり!」





律儀な人だワザワザまたお礼に来てくれるなんて

そう思って私はまたへらっと笑った

それに手塚の視線を感じる





まっすぐ目が合うと、つい目をそらしてしまう

耐えられなくて

顔が、熱い




それから

そんな私の様子を見てか

手塚は呟いた





「やっぱり…違うな。」

「え?…違う?」

「いや…前俺が見かけた時受けた感じと。」

「見たの?私を?」

「あぁ。」

「へー…何が違うの?っていうか、私何してた?」



「物凄く楽しそうな顔で教室のドアに黒板消しを挟んでいた。」



「今すぐ忘れろ。」





一瞬真顔になり突っ込んだ

しかし恥ずかしくてまた顔を伏せる

(確かあれは、宿題を忘れ課題を出してきた

数学の先生への報復だったのだが…よりによって)




「変なとこを見るな…」

「いや、なかなか面白かった。」

「イヤミかっ」

「本音だ。」

「なお悪いッ」

「すまん。」





会話になってるんだか

なっていないんだか

随分情けない内容だが




でも楽しかった、楽しく感じた、嬉しかった

だから私は笑った、そしたら

手塚の表情も少し崩れた気がした(笑顔ではないが)

それがまた嬉しかった





だから私は

いつの間にか心の中で素直に認めていた

“答え”を





私は、この人が好きだ





彼に落とし物を届けるという名目に

自分の本当の気持ちを押し隠して

ただ遠くから焦がれ

それでよしとしようと思っていた




けれど、なんだかそれも面倒で

そんな言い訳がましい

今までの自分の気持ちよりも




今は素直に認め

コノ場の雰囲気に入りこみ

笑うことのほうが楽しくて




あぁ私は貴方がすきだから

今、とても楽しいです





「…ありがとう。」

「もういいって。」

「いや、拾われたのがお前でよかった。」

「え、どうして?」


「今、楽しいからだ。」





私は目を開き

顔を完全にあげ手塚を見る

そして照れくさそうに笑った




コノ人も同じことを思ってくれているのかと

自惚れだと心の片隅で叫びながら

自惚れでもいいやと言いながら

私は思った







「ん?」

「また話しかけてもいいか?」





発せられたセリフに私は笑った

そんなの











「喜んで。」








end