ころんと、何かが転がる音がした

不二は音のした方に目をやる

―――小さな、不思議な色をした箱があった





「どしたの?不二〜箱?綺麗だね。」

「…誰かの、落し物かな?」

「開けてみたら?誰のかわかるかもよー」

「うん…」





英二のその声に押されたのと

妙に湧き上がる好奇心で、その不思議な箱を開けた

―――― 一瞬、ざぁと、風が吹いた気がした

箱の中身は、空っぽだった





「何も、入ってないね。」

「にゃんだろ。」







『―――――――Did you open the box?』


(その箱を開けたの?)






急に、その声は響いた

物凄く 、耳にダイレクトに伝わってくるような声

声のする方へ振り向いた





「…―――――君の?」

『………Did you open the box?』

「うん、ごめんね…。」

『――――――Oh my God.』





少女は―――同じ年くらいだろうか

ひどく驚いた顔をして言った

申し受けないと思いつつ…妙な子だと思った

真っ白いワンピースのような白い服に、白い肌、裸足で、





「不二?」

「え?」

「どうしたの?急にぼーっとして!」

「え?…英二、今の人…」

「今の人?」




呼ばれた英二の方を見て

また直ぐに彼女の方を向いた

―――――――――そこには、誰もいなかった















それから、ずっとその拾った箱を見つめていた

さっきの少女は一体誰だったんだろうか

―――この箱を見ていると、周りと遮断された空間にいるような

そんな錯覚に襲われる




「―――――――じ!不二!」

「…あ」

「どうしたんだ、教科書も出してないじゃないか。」

「…」




いつの間に授業が始まっていただんろう

覚えてない

覚えてるのは、この箱を見ていたことだけ




――――なんだろう

分からない、寝ていた覚えもない

違和感を覚えつつ、不二は教科書を取り出した








「不二〜どうしたの?」

「うん…なんでもないよ。」

「不二が注意受けるなんて、めっずらしい。」

「そうだね。」

「ま、いーや。お昼食べよー。屋上いこう!」

「ん。」




曖昧に笑みを返して

お弁当箱を取り出し立ち上がった瞬間

――――――意識が飛んだ















「酷い熱よ?不二君。いつから無理してたの?」

「…熱…?」

「安静にしていなさい。先生職員室に行って親御さんに連絡してくるから。」

「はい…すみません。」

「もー!不二のバカッ!気分悪いならいえよ〜!」

「…ごめんね、英二。」





気がついたら、保健室のベッドの上だった

体調は悪くなかったはずだ

なのに、急に意識が途切れた





でも、確かに今はダルい、頭が重い

何なんだ、一体

――――箱はどこに?



そしてすぐに気づく

手の中にある箱に

いつから握りしめていたのか





「変ね…。」

「あれ、先生早かったね。どったの?」

「電話が繋がらなかったのよ…」

「不二んちに?」

「えぇ…というか、電話自体が故障してるみたい。」

「他の電話からかけたら?」

「ええ、でも、どの電話も通じないの。」

「ええー?」





困惑した先生の顔が視界に入る

…意識が朦朧とする

酷い耳鳴りがする、体が痛い





「とりあえず、薬出すわね。」

「先生はやく〜!不二、大丈夫?」

「…ん…」

「きゃあッ!」

「先生!?―――うわ何、それ…」

「酷い…誰かの悪戯かしら…」





薬類の入った棚をあけた瞬間

ズタズタにされた袋や

不自然に潰されたケースが崩れ落ちてきていた

そして










『―――――開けてはいけないモノを、あけたからだよ。』











「え…」

『その箱は、絶対開けちゃいけないものなの。』

「君は…さっきの…」

『今、貴方はあらゆる災いを招いている。』





はぁ、と私は小さくため息をついて

箱を持っているだろう彼に近づいた

先ほどと変わって随分と顔色が悪くなっている





『…言葉、通じてるよね?』

「…うん。」

『箱は、持ってる?』

「…これ?」

『そう。返して。すぐに、楽になるから。』





私は、横になっている彼に近づき

その箱を受け取った

ふと、小さく息を吹きかけて、蓋を開けた





『…楽になったでしょ?』

「…君は、誰?」

。』

?」

『名前聞いたんじゃないの?』

「…うん。まぁ、そうだね。」

『字(アザナ)はパンドラだけど。』

「―――――――パンドラ?」

『うん。この箱、私のなの。』




箱を取り戻した安堵もあり

私はニコリと彼に微笑みかけた

箱が手元に戻れば、それで元通り





この箱は

ふらふらとしていたら、つい落としてしまったのだ

…ついで許されるものじゃないけど




まぁでも直ぐに戻ったんだから

彼に降りかかった災難もチャラってことでいいだろう

…してもらおう




「君は…神様?」

『神様?』

「違うの?」

『まぁそうともいえるかも。』

「かも?」

『この箱、普通の人は触れない筈なんだよ。すごいね、貴方。』




そう

そもそもこの箱は普通のヒトには見えもしないもの

なのに彼は見て、触れ、あけた





『この箱ろくでもないの。開けたらまず災いが出てくるんだもん。』

「…なのに、どうして持ってるの?」

『私が与えられたものだし。誰かが管理しなきゃいけないからかな?』

「そんなに危ないもの?」

『うん。ヘタしたら死んじゃう。』




ころっと何でもないように

私はは言った

彼はじっと視線を向けてくる





「上…に住んでるの?」

『うん。』

「たまに、落とすの?」

『遊んでる時、たまにね、本当たまに。』

「―――どうして、僕は拾えたんだろうね?」

『…運命かな?』

「え?」

『なんちゃって。』




ふふと、つい私は笑ってしまった

あまり下の人間とは交わっちゃいけないのだけれど

回収してすぐ引っ込むつもりだったけれど

なんだか妙にこのヒトが気になって





「…どうして、あの時消えたの?すぐ箱取ればよかったのに。」

『あー…ごめん。んと、本来私の姿も、見えないはずなの。』

「パンドラ…のことも?」

『うん。なのに見えてる事にびっくりして。』

「そうなんだ…不思議だね。」

『…貴方こそ、何者?』

「―――――君のファン。」

『え?』

「今、なった。」




そう言って彼は微笑んだ

顔がほんの少し熱くなるのを感じた




『な、何言ってるの。』

「事実。」

『…。あっ』

…?」

『呼ばれてる。帰らなきゃ。』




唐突に、そらは宙を…天井の、ずっと上を見ながら言った

その時になってやっと気づく

周りの時間が止まっていることに





『大丈夫だよ。時間も直ぐ戻すから。』

「…止めてたんだ。」

『そうじゃなきゃ、君ずっと独り言いってることになっちゃう。』

「ああ…そっか、英二達には、見えないんだっけ。」

『うん。 ―――――――本当、不思議な人だね。』

「…君に言われたくないよ。」




私はまた微笑んだ




「また会える?」

『…んーどうだろう。』

「…箱は、もう落とさないようにね。」

『拾えるの、きっと貴方だけだと思う。あ、拾ってももう開けないようにね。』

と会えるなら、拾って開けるかも。」

『…君、名前は?』

「…不二、周助。」

「周助。」



















またね、と言って少女は消えた

最後の声は、どこからか響いて届いた




なことは、ほんのわずかな恋心