「さん。」
「…柳生君、どうしたの?」
授業前、珍しい人に声かけられた
委員会は一緒だけど
それ以外ではあまり話さない彼
「申し訳ないのですが、数学のテキストを貸して頂けませんか?」
「数学?いいけど、珍しいね?」
「すみません。」
「はい、どーぞ。」
本当に、珍しい
テニス部の子もいるのに
なんでわざわざ私の所に来たんだろうが
「…何故私のとこに?って顔してますね。」
「え?あ、うん…あ、嫌なわけじゃないよ!」
「分かってます。…以前私もテキストお貸ししましたよね。」
「…ああ!」
「だから、逆に貸して頂けるかと。」
「そんな、無くても貸したよ。」
「ありがとうございます。」
にこりと彼は微笑んだ
メガネのせいで表情ははっきり分からないが
委員会でも感じた通り真面目な人だなぁと思った
丁度チャイムがなり
終わったら返しますと丁寧におじぎして
彼は教室へ帰っていった
**
「助かりました。」
「…本当に直ぐ返しにこなくてもよかったのに。」
「約束しましたので。」
「今日委員会あるから、その時で良かったのに。」
「…その委員会ですが、一緒に行きませんか?」
きょとんとして彼を見上げる
頭丸々1個分くらいは違うなぁ
じゃなくて一緒にだっけ
「…うん、勿論いいけど。」
「ありがとうございます。」
「ふふ、お礼言われることじゃないよ。」
本当に真面目だなぁと思わず笑いながら返す
すると、やっぱりメガネで表情が読みとりにくいが
じっと見られてる気がした
「…どうしたの?」
「いいえ。」
「あ、私次移動教室だからもう行くね。」
「引き止めてすみません。」
「ううん、また放課後に。」
返してもらったテキストを机にしまう
ふと見れば教室に残ってる人もほとんどいなかった
少し慌てて次の授業のテキストを出してる時
「ああ、そういえば…」
「え?」
「仁王君が、」
「仁王が?」
仁王とは今現在同じクラス
席も近く意外によく話す
と言っても彼がテキストをよく忘れるからだが
ついでによくサボるから
提出物やらなんやらの前は結構助けている
そういえば今日もまた姿を見ていない気がする
「あなたが、優しい人だと言っていました。」
「…へぇ。」
「その言葉もあったからかもしれません。」
「私にかりたの?」
「はい。本当に優しいですしね。」
そう言って彼は教室に帰っていった
その姿を見送って
私も慌てて次の教室に向かった
**
「お疲れ様です。」
「お疲れー」
約束通り彼と一緒に委員会に向かい
小一時間程の話し合いが終わり
解散となった
「柳生君、今から部活?」
「ええ。」
「…ねえ途中まで一緒に行っていいかな?」
「…ええ、勿論。」
靴をはきかえ
少し遠回りをして
テニスコートへ向かう彼についていった
そして、切り出す
「…柳生君って優しいよね。」
「…そうですか?」
「うん。委員会の度に思ってたけど。今日、より思った。」
「それは、ありがとうございます。」
「それでー…」
足を止めて
彼の前に立つ
そこでじっと彼を見上げた
「…それで、何ですか?」
「…私の事、どう思ってるか知りたいんだけど。」
「優しいと、さっき言った通りです。」
「それだけ?」
不服、と言わんばかりに彼を見上げた
彼の表情は、読めない
メガネの奥がみたいのだけれど
「…もしかして私が仁王の事好きだとか思ってる?」
「…仲は、良いと思ってます。」
「クラスメイトだからね。」
「…それだけですか。」
「勿論。」
にこりと笑顔で返した
彼は何も言わない
ああでも、ちょっと…
少し間をおいて、私ははぁと結構盛大にため息をついた
ぴくと彼が反応する
もう一度じっと見るが、何も言わない
「…ねぇ、アンタ、何がしたいの?」
「…」
「に お う。怒られたい?」
「…いんや。」
「…。」
コイツ
やっぱり柳生君に変装してやがった
仁王がメガネを取る
「いつから気づいちょった?」
「さぁ?」
「…告白する前?」
「誰が告白しましたが。」
「。」
「…したらどうしてたの?」
「…」
何も言わず視線だけ送ってくる仁王に
呆れて再びため息が出る
とりあえずほっぺたを抓っておいた
「痛い…」
「アンタもし本当に私が告白しようとしてたら最低だからね。」
「しようとしとったんか。」
「だからそうじゃなくて。」
「せんでいいから知らん。」
「何言ってんの。」
「分からん?」
むかつくから分かってやんない
というか本当に知らない
もうどうでもいいけど今更
「知りたない?」
「興味ない。」
「…酷いの。」
「どっちが。」
「。」
「何。」
「嫌いにならんで。」
「…じゃあ二度としないで。」
分かったと彼が小さく返事をした
そして聞く
どうしてこんな事したの?と
「…柳生と仲いいから?」
「…だから?」
「…なんでじゃろ。」
「…私が知るか。」
テニスコートが見えてきた
本物の柳生君にはなんと言ってあるんだろうか
てか委員会出たの仁王…
「『ああ、そういえば…』」
「ん?」
「って言った後に言った言葉は、アンタの言葉?」
「…何て言うたっけ…」
「…じゃあいいや。」
「ちょお待って今思い出す。」
「私は帰る、明日はちゃんと自分で来なさい。」
ずるい人、本当に
そして待ってという彼の言葉は無視する
踵を返して逃げるようにその場を去った
「ああ、そういえば…」