「比呂士くん。」




次の授業までの短い休み時間

私は隣のクラスであり

幼馴染である柳生比呂士を尋ねた





、どうしたました?」

「英語の辞書を忘れてしまいました。」

「それはいけないですね。」

「重いですからねー。持って来たくないという気持ちがこのような形で表れました。」

「それは問題です。」





へらと笑って誤魔化した

「仕方ない」と彼は小さなため息とともに言い

比呂士くんは「次は忘れずに」の台詞をきっちりつけた





次の日

例によって私はまた辞書を忘れた

もはや故意だろうと思われても仕方ないだろう

まぁそれは間違いではない…のだが





「…あ、れ。」

「おはよう。」

「えっと…あの…」

「…おはよう。」

「おはよう…仁王くん。」





でもその日、尋ねたそのクラスには

目的の幼馴染は居なかった

いたのは、仁王雅治だった





「何じゃ、その顔。俺がこのクラスって知らんかったか?」

「ううん、知ってたよ。」

「大抵、柳生のとなりに居ったもんな。」

「うん。」

「…柳生なら今、居らんよ。」

「…みたいだね。」

「英語の辞書?」

「うん。」

「…はい。」





彼はそう言って

私に分厚い英語の辞書を手渡した

じっと私はその辞書と彼を交互に見つめた





「…柳生のじゃなきゃ、いかんか。」

「ううん。」

「俺のじゃ、嫌?」

「…まさか。」





顔が、笑みを作るのを

我慢できなかった

我慢できず満面の笑みを零したら、やっぱり不思議そうに見られた





「…何か、俺の顔についちょる?」

「全然、何も。」

「それにしちゃ、楽しそうな顔じゃ。」

「――――頑張って、通ったかいがあったなって。」

「通った、かい?」

「わざと英語の辞書を忘れ続けてきたかい。」

「…」




ぽかんとした顔を、仁王は浮かべた

ちょっと

してやったりという気分になった





こともあろうに私は

紳士で真摯な幼馴染を使ったのだけれど

―――いつか、こんなチャンスがくることを願って




彼に会わんが為に





「………積極的じゃの。」

「そんなことない。自分で直接話しかける勇気、なかったし。」

「…そうか。」

「うん。―――私ね、」

「…ん?」





「仁王君が好きなんです。だからこれから頑張るね。」





「……好き……がんばる…?」




再びぽかんとした表情を、仁王は浮かべた

ああ本当に珍しいんじゃないかな

柳くん辺りに与えたいデータだ




唐突に、仁王はパタリと顔を伏せた

あ、さすがにちょっと引かれたか

突然に、突然を重ねすぎただろうか




「――――えっと…あの…突然ごめんね。」

「…」

「…これから、私のこともっとしってもらいたいから。」

「…頑張る?」

「うん。私のこと知ってもらえるように。」




そこまで言って

ぱっと顔を上げた仁王君と目が合ったから

今度は耐え切れずに私が目を伏せた





最後までちゃんと、顔をあげてようと思っていたのに

本当は心臓が物凄くバクバクいっている

自分の中でも急展開だから





誰かが聞いているかもしれない、休み時間の教室で

でもいつか言おう

言わなきゃ、と思っていたことだったから


―――そして、仁王が、ぽつりと口を開いた





「あー…なんじゃ…」

「…えっと、迷惑…かな?」

「いや、柳生が好きだったんじゃ、ないんか。」

「?比呂士くんは幼馴染。それ以上でも以下でもないよ。」

「そ、か。」

「うん。」





暫く、また沈黙

おずおずと、視線を上にあげた

何故か、困惑顔と彼と目があって、そして





「…なんちゅうか、もう好きなんじゃが。」

「…は?」

「いや、だから、頑張らんでも、もうあんたのこと好き。」





真顔で、彼は言った

今度は私がぽかんとした

彼が、不敵に微笑む





















「…どっちもどっちでしたね。全く世話が焼ける。」



廊下側、教室のドアにもたれ

双方の心情を知っていた彼は

笑みを漏らしつつそう呟いた



ういうこと