「あっつー!、ドリンク頂戴!」
「はい英二。お疲れー」
「さんきゅ!」
「もらってない人いる〜?」
「あーもう9月だってのに、蝉うっさいなぁ。」
「汗止まらないねー。ちゃんと水飲みなよー。」
自分は大して動いていないのに
滴ってくる汗を拭いながら
思い出したうように、目的の人物を探す
「海堂―。」
「…ッス。」
「ちゃんと水分補給しなさい。」
「わかってるッス。」
いっつも、一歩離れてる
だから探して
渡す
マネジャーだから
寂しい気持ちは押し殺せる
こうやって渡すことが
嬉しくもあるから
けれど
それも
「やぁ、珍しいね。二日連続残るの。」
「ん。」
「…まぁ不二あたり、気づいてると思うけど。」
「そうだろうねー。」
「…どうかした?」
今日も、昨日と同じように
夕日が差し始めたコートで
フェンス越しに、眺める
「――――今日で、来るのやめようと思って。」
「…どうして?」
「んー…変に噂になっても困るし。」
「君が?」
「彼が。」
ふぅと、乾が息をはくのが分かる
分かってる
おかしいのは
「彼を好きになるのは、いけないことかな?」
「…いけない、ことではないよ。」
「じゃあ、そのままでいればいいじゃないか。」
「ダメだよ。」
彼は
今テニスが一番だから
間違いなく、いい意味でも、悪い意味でも、邪魔になる
彼は一生懸命だから
私がいれば
彼は揺れる
「じゃあ、自分の気持ち殺すのか?」
「――彼はね、テニスが大好きなんだよ。」
「…そう、だね。」
「そんな彼が、私は大好きなんだよ。」
彼が好きで
好きだから
これでいい
「彼の、気持ちは?」
「知ってるクセに。…大丈夫。彼にとって私はマネージャーだから。」
「そうだけど彼は、」
「だから、今。バイバイ…」
彼はきっといつか好きな人を見つける
大好きなテニスと上手に両立して
でも、それは今じゃなくて
罰でもある
気持ちを殺すことは
だって私は
彼の勝ちを一番に願ってしまっているから
「マネージャーは、平等でなくちゃ、いけないから。」
「十分、平等だよ、君は今でも。」
「その内、見えなくなっちゃうよ。」
「…辛いだろ。」
「…」
辛いよ
大好きだから
だから、今の内に泣いておく
マネージャーは、みんなに平等で
信頼を受けていて、いなきゃいけなくて
だから、今日で終わり
「…いいんだ。」
「…じゃあ、俺は何も言わないよ。何も、見てないから。」
「……ありがと…。」
ここで、終わりにするから
だから、彼の勝ちを願わせて下さい
今は彼だけ見させて下さい
後ろ姿だけでも
蜩の声が、どこからか聞こえる
深まっていく夕暮れの中で
フェンスを背にした
君にさよならを