観月という人は、他人の目なんて気にしない

自分の思うがままに、進んでいく

私はそんな彼をいつも遠くから見ていた




あの綺麗な顔で、にっこり微笑んだと思えば

物凄く冷たい目で、人を一瞥する彼

私が、観月からはじめて近くでもらった視線は

後者でした…





ぐき

どたん

がさがさがさ…





「…あー…」




廊下で、先生に渡されたプリントを運び中、転んだ

…恥ずかしい、誰もいなくてよかった

と、思っていたのだけれど





「…」

「…っ!…あ、ご、ごめんなさい!」




謝る必要は特になかったと思うが

いつからいたのか

突き刺さる彼の視線があまりに冷たくて

彼の足元にまで散らばったプリントを慌てて集めた




「…何もない所で、よく転べますね。」

「―…すみません。」

「貴女がそんなに抜けた方だとは思いませんでしたよ。副会長。」

「―…ご存知でしたか。」

「馬鹿にしてますか。」

「いや、そんなっ…」




彼が一枚だけ拾ってくれたプリントを受け取りながら

そんな会話をする

―私が副会長だと、彼が知っているとは思ってなかったから




だって彼は私にとって、憧れの人で

私は普段、生徒会の副会長ではあるけれど

大人しく、地味に過ごしているだけの存在で




あまり多くない友人の一人に、彼が気になると漏らしたら

友人は同情の目で見てきた

その時は、きっと彼は人気があるからだと

そう思ったのだけれど




―それはあながち誤りではなかったのだけれど

それ以上に

彼の性格は

とてもクセがあるようで




「…あ、の…プリントありがとう…」

「えぇ…」

「それじゃ…。」




私は逃げるようにその場を去った

ああ、本当最悪だ

初めてのまともな会話がこれなんて

しかもあの冷たい目線…

私はうなだれながら、プリントを握り締めた














二度目、彼と再び会話をしたのは

生徒会室だった

忙しい会長のかわりに、一人プリントの整理をしている時




「失礼します。」

「はい。―あ…」

「…会長さんは、いらっしゃいませんか。」

「あ、す、すみません。今席外してて。」

「―いえ、丁度いいです。」

「え?」




何が?と言う前に、彼は私の前の席に座った

手には、部活動に関する提出書類だろう、持っている

私は何も言えず、黙って彼を見ていた




「―聞きたいことがあります。」

「は、はい。」

「貴女…さんは、僕が嫌いですか?」

「え!?―い、えっそんなこと!」

「じゃあ、僕が怖いですか?」

「…そ、そういうわけでも、ないです。」

「―壇上の貴女とは大違いですね。」




壇上の私とは、おそらく集会の時などのことだろう

会長と一緒に、挨拶やなんやらで体育館で話すことはよくある

―あの時より、今の方がよっぽど緊張するよ




「―あ、あの、緊張してるんです。」

「緊張?何故?」

「―…目の前に、観月さんがいるから。」




そう言って、おそるおそる彼へと視線をむける

彼は一瞬虚をつかれた顔をしたと思ったら

にこりと、見たことのない物凄く優しい笑顔を見せた




「素直ですね。」

「―…嘘、つけないような気がして。」

「賢明ですよ、その考えは。」




今までと打って変わって

柔和な笑顔と、優しい声色で話すものだから

顔が赤くなるのと、動悸が激しくなるのが

止められない




「すみません。僕もちょっと冷たくあたりすぎましたね。」

「え?」

「壇上で、普段廊下などで見かける貴女があまりに凛として見えたので。」

「…?」

「これくらいでいかなきゃ、舐められると思いまして。」

「…?舐める…?まさか。」

「ええ、まさか僕のことが好きだなんて思ってませんでした。」

「好ッ…」




ぼん、と何かが顔で爆発したんじゃないかと思った

好き?

何故、バレてる?




「何故分かるのかって顔してますね。」

「―…」

「簡単ですよ。僕も貴女に惚れているからです。」

「―…へ?」

「部活がありますので、この話はまた。書類置いておきますね。」




―彼が去った後も、私は固まったままで

戻ってきた会長に、めちゃくちゃ心配された

意味が、分からなすぎて、私は呆然としていた




私は彼をいつも遠くから眺めてるだけで

ろくでもない所を見られて

冷たい目線を送られて

でも次あった時彼は

私にほれたという―――わけがわからない














それから私は彼に流されるままに付き合う事になっていた

気づいたら常に一緒にいて

気づいたら物凄く傍にいて

 ―…なのに、未だ彼のことはわからないことばかり



「遠くから見てても分からなかったけど…」

「?何かいいました?」

「…近くにいてもやっぱり分からないなぁ…」

「何がです?」

「観月って、不思議な人。」

「…当然ですよ。そう簡単に分かってたまりますか。」












ふ、と微笑みながらそう言って

彼はまた

優雅に笑む



語は始まっていた