「別れなよ。」
「嫌だ。」
透明な、小綺麗なカップには
ピンク色をした紅茶がはいっていた
それを挟んで私は、兄、周助と話していた
「僕への嫌がらせ?」
「被害妄想。」
誰もいない休日の昼間の自宅
キッチンに置かれたテーブルで紅茶を啜る
麗らかな日差しが差し込んでいるというのに
「別に、彼が悪人って言ってるわけじゃないよ。」
「悪人でも私は別れないよ?」
観月と付き合っているのが
兄にバレた
面倒だから隠していたのに
裕太のバカが口を滑らせた
「…嫌いなんだよね。あんま、言いたくないけど。」
「兄が嫌いな人を選ぶなんてなかなかな妹だね、私。」
「僕が嫌い?」
「嫌い。」
ほら、こう言ったって笑う
本気でそう思ってないくせに、って笑う
なにもかも、いつも、いつも、いつも、見透かしたように
「どっちから?」
「はじめ。」
「なんて?」
「はじめに聞いて。」
「話したくない。」
「じゃあ永久に謎。」
「どうしてOKしたの。」
「愛してるから。」
愛してるなんて、何か知りませんが
澄ました顔で、紅茶を啜りながら、私は言った
兄は少しだけ、その私とは似ていない端正な顔を曇らせた
「愛してる?…、バカ?」
「なに、私がはじめに騙されてるとでも?」
「うん、そう考えるのが自然だね。」
「じゃあ騙されてやる。」
「。」
「騙されて。いいように弄ばれて、ボロボロにされて、捨てられてやる。」
別に、本当にこれは兄への嫌がらせではない
私はマゾでもない
観月にそこまで夢中なわけでもない
「そんなことになったら、僕、本当に何するか分からないよ。」
「…そんなに私が好き?」
「愛してるよ。」
兄は、周助は言った
その顔を見てから
逸らすようにピンク色の液体を見つめた
私は、裕太と同じようにルドルフに通っている
けど、周助が彼を疎むキッカケとなった試合は見ていない
けど
「ただいまー。」
「あ、お帰り、裕太。」
「―――――…お前せいだバカユータ!」
「はぁ!?帰ってきた早々何だテメーは!」
「アンタがぼろくそに青学の一年に負けて、結果青学に負けて、はじめが荒れて、
周助がはじめ嫌いになって、挙句そのはじめと付き合ってることバラしたんでしょ!」
「ッ…謝ったろ!つか前半はに関係ねぇだろ!」
ダンッッ
「…。」
「…。」
「裕太、上、行ってな。」
「…兄、貴……分かった。…、悪かったよ…。」
「遅い。謝るのが。」
「。」
「……ごめん裕太。」
兄に、抵抗が出来る筈がない
我々妹、弟の分際が…
キレたら、この家で最も恐ろしいのは周助だ
でも裕太が暢気に帰ってくるもんだから
思わず八つ当たりした
でもそれくらいで、テーブル叩かなくてもいいじゃないか
…紅茶、ちょっと零れてるし
「ねぇ、。」
「…何?」
「僕と彼、どっちが好き?」
「好きが違う。」
「どっち?」
「無理。」
「。」
「やめてってば。」
ゆっくりと、周助は立ち上がって私の後ろにまわった
椅子の背もたれ越しに、強く抱きしめらた
そして、ユラりとバランスを崩し、床に倒れこんだ
それでも、抱きしめられたままだった
周助が耳元で小さく笑う
なんだか危ないことを言っているがあえて流す
――…こうされると、体の全てを包み込まれて
飲み込まれるような、感覚に陥る
ずっとこのままでいいや
と思うような恐ろしい程の居心地のよさ
兄は、周助は、これをよくやる
私がこれに弱いと知ってるか、知らないでか
あぁもう――本当にそろそろ離して欲しい…でないと
耳元で囁かれる言葉に
素直に従ってしまいそうになる
このままでいいかなって
もう、いっかって
…でも、やっぱり、もう一回考えても、観月は好き
だから
…――誰か、助けてくれないかなぁ
「…―――あんた達、近親なんとかは、やめてね。」
「あれ?由美子姉さん、お帰り。」
「…お、お姉ちゃん。助かった…。あ、あのね、はじめがね周助に殺されそうなんだよ。どうしよう。」
「それは物騒な話しねぇ。はじめってアンタの彼氏?」
「うん。」
「綺麗?カッコイイ?性格、ちょっと捻くれてる?」
「…うん。なんで知…?」
「周助にソックリね。」
そう言って、笑いながら姉はキッチンを出て行った
数秒間を置いて
周助が相変わらず私を抱きしめながら
声をあげて笑った
近親…なんとかの心配はないと思う
だって私は周助を好きになるんじゃなくて
ちゃんと、周助に似た違う人を好きになっているのだから
「…笑うな!バカッ兄貴ッ!」
まわされた腕を振りほどきながら
叫ぶ
声は、虚しく響いた
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