「迷惑なの。」
「だって彼、彼女いないって…」
「本気で取らないでよ。」
「どうしてそんな嘘…」
「アンタに関係ない。」
そう言って
私は持っていた手紙を握りつぶし
泣きそうになってる彼女の前に落とす
“彼”へのラブレター
机の上に置いてあったソレを見つけて
私が、返しに来た
だって必要ない
彼女なんていらないんだから
だから私が代わりに返事をしてあげただけ
「もう二度とこういう事しないで。」
そう最後に言って
その場を後にした
こういう事をするのは、はじめてじゃない
**
「コラ。。」
「…なぁに。」
「お前また俺の部屋入ったやろ…」
「知らない。友香里じゃない?」
「…」
部屋で明日の宿題をしていたら
兄の、蔵ノ介が入ってきて言った
ドアの前でじっと睨んでいるのが背中越しに分かる
はぁとため息をついて
ペンを置いた
バレるのは分かってる
「返してあげたの。」
「また勝手になん?」
「彼女欲しかった?」
「そういう訳やないけど。」
「ないのに?」
「お前がする事やないやろー」
私がしなきゃダメなの
だってお兄ちゃんは優しいし
わざわざ断りにいくの時間の無駄でしょ
何度もそう言ってるのに
なんでかな
どうしてそんなに怒るの
「部屋に入るんはいいけど、」
「…けど?」
「人のモン勝手に取ってくのはアカンで?」
「お兄ちゃんのものじゃないよ。」
「…一応俺がもらったもんやろ。」
「無駄なものだよね。」
言い切って、前に向き直る
後ろからため息が聞こえる
呆れられたって絶対謝らない
ぱたんとドアがしまる音がする
小さくため息を吐いた
嫌われたいわけじゃない
ただ
ただ
私は
コンコンとドアを叩く音がする
今度はお兄ちゃんじゃない
お兄ちゃんはドアを叩かない
「ちゃん。」
「…友香里。」
「また勝手にラブレター返したんやって?」
「聞いたの。」
「クーちゃん呆れとったよ〜」
「その呼び方やめなって。」
「なんでークーちゃんはダメって言わんもん。」
「…」
イライラする
これが他人の女だったらもっとイライラするけど
同じ妹でも私はその呼び方はしない
「ほんと、ちゃんはクーちゃん好きすぎやろ。」
「…おかしい?」
「…ちょっと異常?」
「なんか問題ある?」
「…さっきのは問題やん?」
ああもう煩いな
もう終わったはなし
いつもの事でしょ
お姉ちゃんにも注意された
でも聞かない
私は何も悪いことなんてしてない
「お兄ちゃんの手間を省いてるだけでしょ。」
「だからちゃんがする事やないって。」
「誰がしたって同じ。」
「私はせんけど。」
「私は友香里とは違うの、もう煩い出てって!」
ひどいと喚く友香里を無視して
立ち上がって追い出し、ドアをしめた
なにが異常なもんか
「ちゃん!」
「…まだ何かあんの?どっかいって。」
「ちゃんの一番やばいのは、」
「…」
「自分が彼女だって嘘ついてる事やで!」
「…どっか行って!」
ドアの向こうから叫ぶ彼女に
怒鳴り返す
それの何がおかしいの
「そんな嘘つく必要ないやん!」
「誰もお兄ちゃんの彼女なんかなれっこない!」
「それこそちゃんには関係ない事やろ!」
「…」
今度は何も言い返さず
ドアをそばを離れ
ベッドに潜り込んだ
**
「…、飯やで?」
「…」
「寝とるん?」
ぎしとベッドが軋む
ポンポンと頭を撫でられる
でも顔は上げられない
「どないしたん、」
「…怒ってる?」
「…怒っとらんよ。もともと。」
「呆れてる?」
「…顔上げて話し、」
毛布を捲られて
あきらめて上半身を起こす
乱れた髪を梳いてくれる
「…何泣いとん。」
「お兄ちゃん、」
思ったより近くに腰掛けてたから
そのまま抱きついた
あやすように背中を叩かれる
「嫌いにならないで。」
「ならんよ。」
「彼女なんて作らないで。」
「…お前がおったら作れんよ。」
それは、私が邪魔するから
なんども邪魔した
お兄ちゃんに近づいてくる人たちの
彼女だって嘘ついて
酷い振り方をした
その度に窘められた
でもそんなのどうだっていい
そのせいでお兄ちゃんが嫌われる事になっても構わない
何度怒られたって構わない
でも嫌われるのだけは
じゃあこんなことしなきゃいいって分かってるけど
分かってるけど
「蔵ノ介…」
「…アカン、言うたやろ名前で呼ぶの。」
「…友香里はクーちゃんって呼んでるのに。」
「お前もクーちゃんだったらええよ。」
「友香里と一緒なんて嫌。」
お兄ちゃんが小さく笑うのが分かる
お姉ちゃんや友香里がクーちゃんと呼ぶのは許すのに
私が呼び捨てするのは何故か許してくれない
「私が嫌いだから?」
「違う。」
「じゃあどうして。」
「…秘密。」
「…なにそれ、意味わかんない。」
少し体を離して
じっと近くからお兄ちゃんの表情を見る
ああかっこいいなぁ
「…」
「ん?」
「…キスしてくれたら、もう言わない。」
「…んー…あかんやろー」
「どうしてキスなんて今時誰とでもする。」
「…お前彼氏おるん?」
「?いないよ。」
いるわけない
面倒くさい
お兄ちゃんがいればそれでいいんだから
「…作れってこと?」
「欲しいん?」
「いらない。」
「やったら作らんでええ。」
「…?」
指で唇を押される
キスしてくれないことは分かってる
言ってみただけ
こうやって抱き締めてくれるなら
それだけでいい
また肩に顔を置く
「…お兄ちゃん、」
「んー?」
「好き。」
「…俺も大好きやで。」
「嬉しい。」
このままだとずっとこうしていたくなってしまうから
ご飯行こうと、言って離れた
本当は本当に離れたくなんてないけど
ベッドから降りドアに向かう
そこで動かないお兄ちゃんに気付き
どうしたのかと振り返る
こっちを見ていたらしく
直ぐに目が合う
不思議に思い、声をかける
「どうしたの?」
「…なぁ、、」
「ん?」
「俺も彼女作らんから、」
「…え?」
「お前も彼氏作らんといてな?」
「…?…うん、いいよ。」
そんなことで
お兄ちゃんが彼女を作らないのなら
喜んで
お兄ちゃんが満足そうに微笑む
そんなこと言われたのははじめてだったから
少し不思議だったけど
その笑顔にどうでもよくなった
ご飯行こか、とお兄ちゃんも立ち上がる
うん、と返事をしてドアをあける
そばまで来た時
ちゅと髪にキスされた
これは前もしてくれたことがある
それでも嬉しいのを隠しきれず
緩んだ顔のまま見上げる
いつもの笑顔
ああ幸せ
この笑顔の為なら
私は、何だってする
誰を傷つけたって構わない。それで、手に入るなら