ぱしん
と、乾いた音が響いた
手のひらがじんじんする


じっと目の前の彼を睨む
何も言わない
殴られたのに



「痛かった?」
「ううん、俺が悪かったんだし。」
「…そうだよ。」
「ごめんね。」



逆に謝られた
でもそれがおかしいとも思わない
少し赤くなった彼の右頬


どうして殴ったか
それは彼が女の子からのプレゼントを受け取ったから
嬉しそうな女の子の笑顔、思い出して苛々する



「付き合うの?」
「付き合わないよ。」
「告白されたでしょ?」
「されたけど断ったよ。」
「嬉しかった?」
「困った、かな。」



嘘付け
いい笑顔だったじゃん
幸村だって


もう一度手がでそうになったけど
痛いだろうからやめておいた
勿論、自分の手がだけど



「…あー、ごめん。」
「どうしてが謝るの。」
「殴ったから?」
は悪くないよ。」
「…」



うん
そうだよね
うん


私は悪くない
幸村がそう言ってるんだから
苛々させた幸村が悪いんだ



「帰る。」
「夕飯食べていかないの?」
「食べない。」
、」
「何。」
「本当にごめんね。あの子とは本当に何もないから。」
「…じゃあ二度とあんなことしなければいいじゃん。」
「うん、そうだね。」



縋るように手を掴まれて
悲しそうに謝られた
…そんなに言うなら許してあげる



バタンと彼の部屋のドアをしめる
おばさんに挨拶して彼の家を後にした
直ぐ隣りにある自分の家へ足を向ける



彼とは、幼馴染で
小さい頃からよく一緒にいた
そして今も同じ学校に通っている



気がむいた時、学校でも話しかけるし
今みたいに家にもいく
私からは


でも彼からは私の家には滅多に来ないし
学校でも話しかけてこない
理由は私がやめてと言ってるから


私がしたい時に
したいようにしているだけ
そう、したいからするだけ




**




。」
「…何。」
「遅いね、今から帰るの?」
「居残りだったの。」
「一緒に帰らない?」
「…後ろの人らも?」
「あ、今日ミーティングだけだったから。」



にこにこした幸村に呼び止められた
提出物を忘れてて残ってたから帰りが遅くなった
だから彼らと鉢合わせになったらしい



別に彼らと一緒になるのははじめてじゃない
幸村と絡んでると一緒になることが多い
羨ましいとか言われたなぁ、興味ないけど



「どうして居残り?」
「レポート忘れてた。」
「終わった?」
「途中で諦めた。」
「手伝うよ。」
「うん。」



じゃあ幸村んち寄るコースか
結局一緒に帰ってるし
後ろが騒がしい



「なぁ。」
「…何ブン太。」
「お前クラスの奴と付き合ってなかった?」
「…あぁうん。」
「あ、やっぱマジなんだ。」
「もう別れたけど。」
「えっこの噂最近だぜ?」



ブン太はクラスが同じ
確かにクラスの一人と付き合ってた
つい一週間ほど前まで



「え、なんで別れたの?」
「うっとうしいから。」
「どんな風に?」
「何でも予定を決めてくるとこ。」



今日は一緒に帰ろうとか、明日の休み遊ぼうとか
断るとなんでって顔をする
私は私のやりたいようにしたい



「…えーそれ普通じゃね?」
「私あいつの所有物じゃないんだけど。」
「いや全然そこまでいってねぇよ。」
「誰基準なのそれ。」
「…お前難しいなぁ…」
「…難しいの?」



逆隣りで歩く幸村を見る
最後のセリフは彼に投げかけた
ずっと黙ってた彼がこちらを見る



「俺はを難しいと思ったことないよ。」
「あやっぱ幸村も付き合ってんの知ってたの?」
「うん。」
「…止めたりしねぇの?」
「俺にそんな権利ないよ?」
「…はぁ」



やっぱわかんねこいつら
とブン太が小さく呟いた
だったら絡んでくるなと思う



「…でもそれじゃあ誰とも付き合えなくねー?」
「それなんか困る?」
「いや…さぁ…?」



何が困るんだろう
むしろ居て鬱陶しいだけだった
しつこかったからいいかと思って付き合っただけなのに



「…なんかレポートめんどくなってきた、」
「やってあげようか?」
「したらテストやばいもん。」
「また勉強見てあげるよ。」
「…じゃあお願い。」


「お前らなんで付き合うとらんのじゃ。」



突然、ぽつと後ろにいた仁王が呟いた
無言で首だけ後ろに向ける
こいつ苦手、何考えてるか分かんない



「…なんで?」
「幸村もモテるのに誰とも付き合わんし。」
「へぇ、幸村また告られでもした?」
「…あぁ今日も廊下で待ち伏せされとったな。」
「…へぇ初耳。」



仁王に向けてた意識が、幸村にいく
昨日怒ったばっかなのになぁ
また、苛々してきた



「…断ったよ、すぐ。」
「へぇ。」
「名前も憶えてないし。」
「嘘つき。」



断ったのが本当でも
きっと顔くらい憶えてる
昨日プレゼントを渡した子だって



「昨日といい、モテるね。」
「たまたまだよ。」
「付き合えば?」
「そんな暇ないから。」
「じゃあ私とも無理して会ってる訳だ。」
「それは関係ないよ。」



苛々する
無意識に早足になる
もう誰も話しかけてこないで



は別。」
「何がどう別なの、無理しないで。」
「無理したことなんてないよ。」
「どうかな、」
、待って、」



ぐと手首を掴まれた
流石に力で勝てるわけないから、足が一瞬止まる
それが、たまらなく腹立たしくて



乾いた音が響く
また、手が出てしまった
ああもう手が痛い



「手、痛い。」
「―ごめん。」
「で、誰に言われたの。憶えてるでしょ?」
「ごめん、うん。」
「嘘ついたんだ。」



ああ鬱陶しい
一緒に足とめないでよ
テニス部の連中



「付き合いなよおめでとう。」
「付き合わないよ。」
「幸村気がきくしね、うまくいくよ。」
「あのね、。」
「帰る。」
!」



肩を掴まれて止められる
苛々、苛々する
無理やり幸村の方に向かされる



「乱暴にしてごめん、でも話聞いて。」
「……何見てんの。」
「…ごめん、みんな先帰って。」



ぎょっとした感じで見ていた
テニス部の連中に向けた台詞
幸村より先ず彼らの視線が気になったから



二人だけ残される
ってもまだ帰り道の途中だけど
道端だけど



、」
「…」
「返事いいから、聞いて」
「…」
「俺が一番大事なのはだから。」



そう言って抱きしめられた
通りすがりの人と目が合った
でもまだ振り解くことはしなかった



「お願い信じて。」
「…」
に嫌われたらどうしたらいいか分からない。」
「…だったら二度と嘘つかないで。」
「約束する。」



さっきより強く抱きしめられる
痛いって言ってるのに
はぁとため息をつく



「分かったから離して痛い。」
「ごめん。」
「帰ろうよ。」
「うん。」



満足したように幸村は笑った
それに私は無表情で返す
だってどんな顔すればいい?



視線を逸らして
足を進める
すぐ横に幸村がついてくるのが分かる



これでいい
また明日からも
いつもと一緒




**




。」
「ブン太…何。」
「あー昨日、幸村と、」
「なにお説教?」
「違うけど、仲直りしたのかよ。」
「仲直りって程のことじゃない。」



えーという顔をする
よく顔に出る奴
殴った事いいたいんだろうけど



「まぁ、収まったてことは、」
「…」
「付き合うことになった?」
「…なんでそうなるの?」
「え、だってお前ら」



ガタンと席を立つ
次の授業のテキストを忘れた
幸村持ってるかな



、」
「私、幸村の事好きじゃないけど?」



あっけにとられた顔をしてる
何がおかしいの
だってブン太私の気持ち知ってるわけないよね



私は彼のものじゃない
私は彼が好きじゃない
好きなんかじゃない



ただ苛々するから殴るだけ
苛々するから怒るだけ
どうして何てもう今更考えられない



「お前なぁ…」
「煩い。…それ以上何も言わないで。」
「…」



それだけ言って教室を出た
考えない、考えたくない
だから私はいつもと同じように彼を呼ぶ



「――幸村、」
「…どうしたの。」



ほら、いつもと同じ笑顔でしょ
この笑顔は私にだけ
だから、今のままで、いい







「愛してる」と素直に言えたなら、どんなに楽だろうか?