「ねぇ、景吾は今どんな気持ち?」
私と日吉が目の前でキスしてるのを見て
あなたはどんな気持ちですか
また、逃げた
そう言い捨てて
皆呆然としてて誰も止めることはなかった
浮気に対する共謀作戦last
「…日吉、どう云うことだ。」
跡部は顔を伏せながら声を発した
でも不機嫌を通り越してキレてるんじゃないか
そんなオーラだけ放って
対して日吉はふぅと、静かにため息を吐いた
「先輩はこの前、跡部先輩が他の女とキスしているのを見ました。
ショックを受けた先輩を、俺が慰めていました。
今みたいに。それだけです。」
一気に日吉は言い切った
跡部は無言だ
そして次に口をあけたのは忍足だった
「…俺は、この前日吉とがキスしてるトコ、偶然見たんや。
でその事に聞いたら、怒らしてしもた。
何や、切羽詰ったカンジしとった。」
それでも跡部は黙っていた
相変わらず顔を伏せたまま
日吉はその様子を見て再び声をかける
「俺を殴りたきゃそれでいいですけど、
それより今はとっとと先輩を追いかけてください。」
「…てめえに言われなくても、分かってんだよ。」
やっと一言そう言って
いつものように鋭い眼光で日吉を睨み
日吉の横を駆け抜けて行った
**
―――があの部室での事を見ていた
それは何となく分かっていた
あの後待っても来ない、電話も出ない
メールも無視の様子から見て
でもそこまで怒ってるとも
ショックを受けているとも思わなかった
どこか、あいつはそこいらの女とかと違って大人で
なんでも理解してくれると思っていた
テニス部に途中入部した時も、あっという間に馴染んでいった
雰囲気に気圧されることもなく
そして傍にいることが当たり前になっていた
だから
今回の事も笑って突っ込んでくるだけだと思っていた
「…!」
「っ、跡部…」
走るのをやめ
フラフラと歩いていたを捕まええる
その目は赤くて
「…悪かった。」
「…何が?」
ちゃんと言うべきだった
すぐにでも捕まえて
そうすれば、こんな顔をさせることもなかった
「…あの女とは何でもねぇよ、むこうから勝手にしてきただけだ。」
「…景吾からしてなかった?彼女が、座ってって…」
「ネクタイ引っ張られりゃ、嫌でもそういう体制になるだろーが。」
「そっか…そう…やっぱ、そうだよね…」
涙に腫らした目で
何かあきらめるかのように息を吐く
ぼんやりと視線を中に浮かせて
「そっかって…お前、わかって…」
「跡部にちゃんと言ってほしかったの。」
「…?」
「隙があるんだよ。」
「隙、だと?」
「私のことだけ好きなように思えない。」
「…何、フザけたこと言ってる。」
「私のこと好きなら、彼女のこと跳ね除けるぐらいのことしてよ。
私のこと好きならもっと必死に私のこと追いかけてよ、日吉殴るくらいしてよ。」
中にさ迷わせていた視線を一気に跡部に送る
腫れた赤い目は、再び水をためだし
流れそうになる
「…悪かった、お前がそこまで思うと思わなかった。」
「全然分かってない。…不安なんだよ、これでも。」
「不安…?」
「跡部のこと好きだから。」
睨んでいた目をそらし、少し目を伏せる
それでも頬が軽く朱に染まるのは隠せなくて
跡部はいつもみたいに自信に満ちた笑顔を浮かべた
「ああ…分かってる。」
そう言ってくっしゃと髪を撫でた
今度は嬉しくて、やっとホッとできて
涙が出た
**
「で、お前、日吉は結局何なんだ。」
「あぁ…」
「あぁじゃねぇよ…とりあえず、殴る。」
「馬鹿跡部。さっきのは冗談、学校戻るよっ」
「バッ…」
跡部がまた青筋立てるのを無視し、
私はまた走る体制をとる
そうだ、そこをほっぽったままだった
「誰がバカだ、ッ…」
「いーーから、早く戻る、学校!」
途中まで来た道を
跡部の腕を引っ張って無理やり走りだす
涙はもう止まった
「日吉!」
「あぁ…やっと仲直りしたみたいですね。」
「おい日吉、てめぇと何」
「うっさい跡部。ちょっと黙ってて。忍足と岳人もちょうどいいや。」
「てめ、っ…」
さっきの状態のまま
今回の騒動の関係者がいるのを確認する
まぁ一人把握できてない子もいるけれど
「日吉、ありがとう。それとごめんね。」
「いいえ、結構面白かったです。」
「そう?でも作戦成功だよね。」
「作戦というか単なる共謀でしたけど、行き当たりばったりの。」
「だよねー結局私ら噂になってたのかな?」
あーそういうことね
とポツリと忍足が呟いた
なに?と私が先を促す
「…お前ら十分噂になっとったで。それで跡部が、」
「黙ってろ忍足!」
「…そんな怒らんでもえぇのになぁ岳人?」
「ごめん、俺マジ意味わかんねぇ。」
なんだウマくいってたんじゃん
なんて日吉の肩をポンと叩く
跡部の一度納まった不機嫌オーラも再びでてくる
「もちろん、日吉と私は何でもないよ。」
「…キスまでしてか?」
「しましたね。」
「…いい度胸だな、日吉…」
ビキッと跡部の額に青筋がはしる
私は少し苦笑して
宥めるように静かに話す
「おあいこでしょ。ま一回多いけど。」
「…おあいこ、だ?」
「もといえば隙見せた跡部が悪いんだって。」
「んなこと言ったってあれは、」
「え、言い訳?」
「…分かった、もう何も言わねぇよ。」
ふぅと息を吐いて、跡部はそういった
と言っても自分が余計絡まらせたのも否めない
…とも思ったけど、いっか
「世話がかかりますね、先輩方。」
「日吉、いい気になんなよ…」
「…何度もキスしたことだけは、謝ります。」
「…」
「こんなことで先輩負かす気ありませんし。」
「ったりめぇだ…。実力で、本気で来い。」
「…先輩はいりませんけど。」
「たりめーだ、やるか馬鹿。」
なんだか嬉しいような
少しバカにされたような気分だったが
黙って二人の会話を聞いていた
よかった、変な風に仲がこじれなくて
結局自分だけが子供だったような気もするが
…その通りか
でも、うん、よかった
私は微笑みながら
そして跡部に聞こえないよう日吉に囁いた
「日吉…ありがとね。」
「…さっき聞きました。」
「うん、でももっかいありがとう。」
「…共謀は今回までですからね。」
「ふふ、うん。了解。」
end