「あれ?」
「…」



友達と学校からの帰り道
宿題に使うプリントを忘れた事に気づき
慌てて学校に戻ってきたのだけれど



誰もいないと思っていた教室の中
彼、がいた
クラスメイトの



「仁王。」
「…ん?」
「…何してんの?」
「…」



マフラーをぐるぐると巻いて
机に腰を掛け、窓を方を向いていた彼は
私の声にゆっくり顔だけ向けた



「おー…。」
「…まだ帰ってなかったの?」
「…寒いけぇ」
「は?そんな理由で…あ、待ち合わせ?」



今日はお昼すぎから突然の大雪だった
部活も全て中止、下校命令が出たわけで
珍しい大雪と早めの帰宅に全生徒が浮き足立っていた



「待ち合わせなんてしちょらんよ。」
「じゃ何してんの?」
は?」
「忘れ物。」



変わった人なのは知ってる
噂はちょいちょい聞いてたけど
となりの席になるまで話した事もなかったし



かと言ってそんな仲良しになったわけでもない
さっさとプリントを取って帰ろう
私の机は彼の座る机のとなり



「…早く帰ったら?雪、やみそうにないよ。」
「最悪じゃ…」
「本当に寒いから帰んないの…?」
「…変か?」
「うん。バカじゃないの。」



素直に思った事を、目線も合わさずいい
机の中のプリントを引っ張り出した
さ、よくわからない人はおいて帰ろう、と思ったのだけれど



「っ」
「…」
「な、何…近いんですけど顔…」
「お前さんははっきり言うの。前から思っちょったが。」
「はぁ…」



顔を上げたら
彼の顔が目の前にあった
まだ机に座ったままだが



「あー…とりあえず帰りなよ。」
「寒い、死ぬ。雪、冷たそう。」
「…傘さして。」
「忘れた。…はあったかそうじゃのー」
「そりゃ生きてるから。」
「…」



あったかいわよ
人間の体温が一番心地いいっていうしね
まぁ今は関係ないてか、この状況には関係ないけど



「…なーちょっとぎゅーってしてもええ?」
「はあ?やだよ気持ち悪いなにそれ。」
「…おま、」
「そういう甘ったるい言葉無理。」



いや、本当に無理
コイツが人気あるのは知ってる
テニス部モテるよね


私だってイケメンが嫌いなわけじゃない
幸村くんとかカッコいいよね
でもそれとこれとは話が別だ



、酷い。」
「アンタもね。セクハラ。」
「…まだしちょらんけど。」
「したら殴るけど。」
「…女の子には負けん。」
「男って狙い易い急所があっていいよね。」
「…」



ああそう、うん
もう少し女らしくしろって
友達から時々言われる



「使いモンにならんくなったらどうすんじゃ。」
「あはは、情けないそれくらいで機能しなくなんの?」
「…もーちょい、こうオブラードに包まんか。」
「男に言われたくないけど。」
「なにがじゃ」
「頭ん中超下品な事ばっかでしょ。」



あははと笑いながらカバンのチャックを閉じる
友達の忠告は一応受け取っといたけど
まあそう簡単に直せないし



「例えば…?」
「さあ、知らない。男じゃないもん。」
「女の子も結構エロい事考えとるって聞いたが。」
「あーまぁそういう子もいるんじゃん?」
は?」
「機会があれば。」



機会があればってなんだそれと自分でも考える
彼氏がいるわけでもないし
好きな人がいるわけでもないし



「じゃあ今考えて、」
「何を?」
「んー…あっためて言われたら?」
「裸で抱き合う?」
「…」
「アンタは?」
「あー…ヤる?」
「ホラ何でそこまでいくかな。」



何を話してるんだとだんだん思ってきた
でもまあ寒いのは事実だし
もう少し話に付き合って温まってから帰ろう



「あったかそうじゃろ。」
「その後冷めそう。」
「…ああ、うん。」
「汗かいたら冷えるじゃん余計。」
「…」
「ハグがいいよ、ハグ程度が。」



じいと視線だけで仁王に返される
なんだよ、と思いつつ
彼の後ろの窓の外に目線をやる


さっきより雪が大粒になってないか
薄暗くなってきたし
未だ暖房の効く教室は幸せだが、本当にそろそろ帰らなきゃ



「仁王、本当に早く帰りなよ。」
「…帰るん?」
「当たり前でしょ。じゃあね。」
「…、ちょい待ち。」
「ストップ。」



立ち上がろうとした仁王を止めた
怪訝そうな顔を彼がする
彼との距離は、彼の足幅で一歩くらい



「…なんじゃ。ストップって。」
「今それ以上近づいたら殴る。」
「…はあ?」
「今アンタの頭ん中で私、服着てる?」
「…」
「図星でしょー」
「お前さんが悪い。」
「確かに。」



あははと笑いながら
後ろに一歩下がる
いやそれでこそ健全な男の子だと思いますよ



「傘、職員室で借りたら?」
「…」
「風邪ひかないようにねー」
「…」
「何?」



流石に傘なしで帰るには酷い天候
早い内に女の子に声かけてれば喜んで一緒に帰ったろうに
そう思いながら、睨み気味にこちらを見る仁王を見る



「一個忠告しちゃる。」
「ん?」
「他の男とこんな会話しんとき。」
「えー?」
「押し倒されてもしらんよ。」
「したら、急所だって。」
「男なめんな。」
「分かった分かった。」



今度こそ背を向けて
後ろ手に手を振った
仁王のため息が聞こえた気がする


教室のドアをまたいだところで
もう一度彼の方へ向いた
立ち上がってマフラーを巻く彼と目があった



「…傘入れてあげよかー?」
「…入れて。」
「方向一緒だっけ?」
「お前さんチの先。」
「そ。」
「…家上がってもええ?」
「…何言ってんだか。」



傘入れてあげるのやめようかなと思い直す
ち、と小さく舌打ちが聞こえた
誘ったの、間違えただろうか




でいいなら送るけど