I am xxx buff.








彼とは同じクラスで。

一度隣りの席になったことがあって。

…あ、でもクラス別けされた最初の方だけで、ほとんど話したこともなかったんだけれど。

それで、それ以降は隣の席になったことはなくて。

近くの席にはなったことあるけれど、それだけで。






でも放っておいても、彼の噂は自然と耳に入ってきて。

テニス部だとか。レギュラーだとか。

関西人だから関西弁をしゃべるんだ!とか。

もちろんその噂は皆女の子からで。

彼が結構な人気者であることを物語っていた。

あ、あと彼女いないとか、いないとか…いないとか?








ある日の友達との会話、だった





「忍足君悩み事があるみたいよ。」

「そうなの?」

「様子が違うのに気づかなかったの?好きなクセに。」

「好きじゃないっスよ。」

「嘘。」

「本当っ。だって知ってることといえば、テニス部だとか、

レギュラーだとか、関西人だとか、彼女いないとか、A型だとか、数学が得意だとか、

映画鑑賞が趣味だとか。」





ベシィ

ノートで叩かれた





「ストーカー?」

「ひッ。」

「…何ビビッてんの…否定しろよ!」

「噂です、聞こえてきただけです。」





気づかないですよ。

いや、ちょっと様子が違うかなってくらいは思っていた。

でも私はどーせ、クラスメイトの一人であって、たいして話したこともなくて。

今も席がとなりなのではなく、近いだけであって。

あ、今は彼が席にいないからこんな話しているんだけれど。






「ほとんど話さないもん。」

「でも気づけよ。」

「…鬼。」

「何か言った?」

「何も。」

「…まいいや、私次サボるから宜しく。」

「えぇ!?」






抗議しようとした瞬間、予鈴のチャイムが鳴った。

彼氏とサボる気だ。彼氏とは忍足君と同じテニス部の向日、そうそう向日君。

知った時は本当驚いた。いつの間に、本当いつのまにだよ。

でもおかげで彼の事を色々教えてくれるようになったんだけどね。

でも向日君にバレてないよなぁ、何も言ってないよねぇ…



「ラブラブなんですねー…。」




颯爽と出て行った友達の後ろ姿を見ながら、ため息を吐く。

羨ましいとは思うけど、自分は無理だなという絶対な諦めもある。

そりゃ想像する、自分の好きな人と、彼女達みたいになれたらと。

でも、積極的に動いていた彼女と違って、私は噂で聞く彼しか知らなかった。












「で、あるからして、BとCは24cm…AとC間が18cm…」





授業が始まる。ちらりと、視線を送る。

彼は、忍足君は少し眠そうだった。まぁこの時間は誰でも眠いだろうが。

私の席は一番後ろの窓際という最高ポジション。

しかも私の隣りの席は人数上誰もいない。

あぁちなみに彼は斜め前だったりする。

正直、隣りになると緊張するから、斜め前もいいなと思ってたり。






にしても、つまらない、数学の授業。

つまらないから、彼が気になったキッカケを思い出してみる。

簡単だ、キッカケは、ありがちだけど、方言。

見た目は知的なメガネで、真面目な黒のサラサラヘアで、物腰も落ち着いて大人っぽかった。

けれど喋った瞬間、ものすごいギャップを感じて。






隣りの席になって、凄く緊張して、とにかく会話をと思って。

そして投げかけた言葉が「め、メガネ似合うね。」

返ってきた言葉が「あぁこれダテやねん。」だった。

笑顔付き。嫌味ではなくて、返す言葉がなかった。

その時点で、忍足君はちょっと見た目と違う、だった。

気になった。





「様子が変…か。…ただのクラスメイト程度に、何が出来るのさ。」





彼には聞こえないように

小さく呟いた







「次のページの練習問題やってみろー。隣り同士なら相談しても構わん。」






げ。と我に返る、この先生は当ててくるからマズイ。

しかたなく教科書の指定されたページを開く。

…なんだっけこれ、あぁ無理だ。数学は無理だ。

彼の心ぐらい分からない。

…何言っちゃってんの私。いいやもうとにかく解こう。

…あぁ分からない。…ん?






。教科書見せてもらってもええ?忘れたんやけど、隣りおらんねん。」





心臓が止まるかと思ったって、

こういうことを言うのだと私は身をもって体験した。

隣りの席はさっきの友達だよ、向日君の彼女だよ。

よくサボってくれた。あとで褒めてやる。

彼が隣りの席に、同じく空席だった私の隣に移ってくるのを見つめた。






「…手ぇ動いとらへんけど、平気?」

「…いや、あの、えー…全然わかんないです。はい。」

「ああ、苦手やったな数学。」

「う、うん。面白くないし…全然。」

「俺もそう思うわ。簡単でつまらん。」






い、意味違うだろ!嫌味か!いいけど!許すけど!

惚れた弱みか?弱みだな?あぁもう混乱する。

ドキドキしてるけど。心臓バクバクしてるけど。どうするよこれ。

フライングして告白とかしちゃう?

こんなチャンス二度とないからねー。

…冗談だけどね。そんな勇気微塵もありませんけどね。






「なんや切羽詰まった顔しとんなぁ…そんなに苦手なん?数学。」

「え?あ、うん。やるよっ。えっとCが90度だから…」

「ここをXに置き換えたらえぇねん。で、AC辺とBC辺、面積の二分の一やから…」

「あぁ、そっかかけて、したらXの値が、」






ふわふわした感じがする。

半分の緊張と、半分の集中。

心半分ここにあらず、限り少ない勉強用の脳みそ分だけ働いている。

できなきゃ申し訳ないのと、普通に教えてもらえるのが嬉しいのと、

普通に話せてるのがかなり嬉しくて。

あぁやっぱり言ってしまおうか。

なんちゃって。








「6、18…?」

「せや、でもXは9以下やろ。せやから答えは、」

「6。」

「正解。出来るやん。」

「忍足君、教えるのうまい。数学得意とか、本当羨ましい。」

「んなことないって。役にたたんしなぁ実際。みたいに現代文得意とかのがえぇわ。」

「いや現代文も案外役にたたないと思うけど。」








…あれ?

ん?

ちょっと待て。

私、流しちゃいけないとこさっきからサラリと流してないか?






「…えーっと、なんで知ってるの?数学苦手とか、現代文得意とか…私、言った?」

「…言うてなかったか?」

「ないと思うけど…」

「…そういや、なんで俺が数学得意って知っとるん?」

「…言ってなかったっけ?」

「さぁ覚えとらんけど…」






ん?なんだろうこの展開は。

なんとーも言えない空気が漂っていますが。

でも別に居心地が悪い空気ではなく。

なんといいますか、給食前の4限目の時間というか、

次の日はお休みの金曜日というか。

ダメだ私なんか期待してきちゃっていたりしたりする。

ばかあほやめろ私。





「…はちっこいなぁ。」

「な、何を急に…忍足君がでかすぎるんだよ。」

「んなことあらへん。」

「ある。変な食べ物ばっか好きなくせに。」

「何言うてんねん。変やない。は牛乳嫌いやから成長せえへんのやで。」

「だって、不味い…」






あーほら、やっぱおかしいよ。

彼もそう思ってるだろうけど。おかしいよね。

何で私が牛乳嫌いて知ってるんだろう。

恥ずかしいから言わないでいたのにな、女友達以外。

あ、そう言えば忍足君の好きなのもの=変なもの

それ忍足君から聞いたんじゃなく友達から聞いたんだった。

しまった言っちゃった。

あーヤバイドキドキしてる、さっきよりずっと。






「ほ、保健室行こうかな…」

「…なんや、気分悪いんか?」

「ちょ、ちょっと動悸が…大きく空気を吸いたい。」

「ほんなら保健室やのうて、屋上がええやろ。」

「あ、でも屋上には今友達が…。」

「あ、屋上は今岳人おるんやった。」

「・・・。」

「・・・。」








間があった。

私は、数学全くできないし、バカだけど。

多分今心の中で思い描いていること、

期待していること、期待してしまってること、私

の勝手な勘は、多分正解じゃないかな。

…ショック受けるだけかな、期待なんかして。

でもしょうがないじゃないか、自惚れだってしますよ?






「あー俺も青空が見たなった。」

「え。」

「先生―…」






忍足君の先生を呼ぶ、独特のイントネーション。

その声が教室に響く。皆がちらりとこちらを、私の隣りに視線を送る。

私はそんな彼を横目で見る。

そして手元に開いてある教科書を静かに閉じる。

そして、彼のその後の言葉に耳を傾ける。

屋上にいるだろうカップルの驚く顔想像しながら。











end