「おっかしーなぁ…」
「…うるせぇな何がだ。」
遠くで雷が轟く、ざぁざぁぶりの雨の中
千石は傘の下から少しだけ、その暗鬱な空を覗いた
亜久津は心底どうでもよさげに
それでも律儀に彼の呟きに応えた
「今日ねぇ、俺ラッキーな筈だった。」
「へぇ。」
「こんな雨は降らない予定だった。…まぁ傘はちゃんと持ってるけど。」
「…そうかよ。」
「うん。」
ふ、と憂鬱に千石はため息を吐く
亜久津はふかしていた煙草を投げ捨てる
千石はチラリとそれを見る
「学校出た途端、ソレなんだから。」
「うるせぇ。」
「…あれ、どっか行くの?あっくんチこっちでしょ。」
「うるせぇってんだろ。」
「はいはい。また明日ねー、バイバーイ。」
喧しい雨粒の中、千石は笑顔で手を振る
亜久津は聞こえないふりをして
いつもと違う方向に体を向け歩き出した
千石はその歩いていく彼の背中を見送った
――――――――そして視界に入れた
パシャパシャパシャ
「……。」
「……。」
するりと、お互いの傘があたらないように
…傘をさすと途端狭く感じる、道路横の歩道を
女の子が一人、千石の横を通り過ぎた
バシャン
「あ。」
「あ。」
「…もー…最悪。」
「……。」
――――――― 私は、思わず呟いた
歩道に立つオレンジの髪をした男の子を避けるために
道路側いっぱいに避けた
そしたら見事車に跳ね水をかけられた
「大丈夫っ?」
「えっ?…あ、はい、平気です。」
「ちょっと傘、入れてね。」
「え?あ、あの。」
オレンジの髪の子が、いきなり自分の傘を畳んだ
そして私の赤のドット柄の傘の中に入りこみ、屈んだ
ぽかんとして、私は見下ろした
「ごめんね。俺が道路側に避けるべきだったよね。」
「え、いや、てかハンカチ、汚れちゃうよ、大丈夫だよ。」
「女の子の服汚させて、放っとけないでしょ。」
「…ありがとう。」
私は若干呆気にとられつつ、大人しく
その濡れた制服のスカートを拭いてもらっていた
そして雨音だけの無言の空間の中で、つい呟いていた
「おっかしよなぁ…」
「…どうかした?」
「今日ね、私ラッキーな筈だった。」
「……」
オレンジの髪の子は
少し驚いた顔で見上げてきた
…何か変なのこと言っただろうか?
「…俺もだよ。」
「本当?朝の占い?」
「うん。けどこの雨じゃ、アンラッキーだなって思ってたんだけど。」
「私も、同じこと思ってたんだけど。」
けど、今私はなんとなーく
この今私達が占領している歩道
どかなくていいように
誰も通らなきゃいいなっなんて違うことを思ってた
ニコ
と私と彼は思わず笑った
彼は立ち上がる
「…俺、千石キヨスミっていうんだぁ。山吹中。」
「…。この通りの向こうの中学通ってる。」
「酷い雨だね。制服大丈夫そう?」
「雷も鳴り始めたね。うん、大丈夫だよ。」
この出会いは
やっぱり
ラッキーかもしれない
降ってきた幸運