配症の君へ








「…。」


しゃべったら怒られるんだろうな

私は彼の勉強が終わるのを

彼のベッドの上で寝転がって待っていた




(勉強の何が楽しいんだろう)

(しかも独逸語の勉強かよ)

(口挟んだらお前もやれって言われるだろうな)




突っ伏しながら

顔だけ彼の座る机の方へ向けた

真面目な横顔が目に入る




彼は何事にも惜しみない努力をする

そして胸を張り、自慢するに値した力を得ていく

だから、誰も彼を馬鹿に出来ない・・・逆に焦がれる




…だから、そんな跡部が私に好きだといったのも

気まぐれじゃないかと、今だに思う時がある

彼が私を知るキッカケなんて、本当些細なもので









『・・・Liebenswurdigkeit・・・』 好意、親切

『――――Liebenswurdigkeit.』 

『・・・あ?』

『リーベンス・ヴュルディヒカイト。ちょっと、発音違った、と思う。』





図書館で、彼は、分厚い独逸語の参考書を手に取っていた

そして本に書かれていることを何気なく呟いたのだろう

それをたまたま私が聞いた




そしてそれだけ突っ込んで

さっさと立ち去ろうかと思った

・・・けれど




『おい・・・独逸語、得意なのか?』

『え?・・・あーうん、住んでた事あるから…。』

『へえ…』




昔、家族と数年住んでいた

だいぶ忘れかけているが、簡単にならまだ出来る

でも、この時口を挟んだのは本当気まぐれで




じっと彼の目線を感じる

…彼の事は知ってる、有名だから

ただ、知ってる程度だったのだけれど




それ以来

彼とは、特に約束するわけでもなく

会えば、独逸語の参考書を手に、話ををするようになった












「…なつかしい…。」

「あ?」

「あ、ゴメン。」

「…。」




跡部はパタンと、机の上の参考書を閉じた

そして一息はきながら、私の寝そべるベッドの横に座った

起き上がろうと、体を仰向きに戻したが、制された




「なに、さっきからウゼェ顔してんだ、。」

「う、うざいって…」

「何、考えてる?」

「んー――――・・・Liebeskummer…?」 リーベス・クマー*恋の悩み




ほんの些細なキッカケだったから

いつかは

この人は私に飽きるかもしれないって




それが、不安だった

不安で、不安に、押しつぶされそうだった

彼に、すっかりハマってしまったから




彼に惹かれれば惹かれるほど、思う

私は彼ほど打ち込めるものも、強さも

なにもなくて




自分卑下したって、どうにもならないの分かってるけど

でも、それだけ、彼のことになると、ダメになる

いつから、こんな風になっちゃったんだろう




「バカが。」

「だって。」

「俺が信じられねぇのか。」

「・・・られる。」




だけど

どうしてもどうしても、不安に駆られて、思ってしまう

“Ich liebe er, aber er liebt mich nicht.”

私は、彼が好きだけど、彼は私のことは好きじゃ…ない




「…とか、」

「見事な妄想だな。」

「妄想って…」

「勝手に何突っ走ってんだ、アホ。」




アホとかバカとか、暴言吐きながら

跡部は私の髪を撫でた

やさしい手だった




。」

「・・・ん?」

「キッカケなんてどうでもいいだろうが。」

「…」

「今、ここにいるのはお前だけだ。」

「私、だけ…」

「だから、余計なこと考えんな、バカ。」

「…うん。」




Ich bin voller Liebe zu dir 
貴方への愛でいっぱい

それだけでいい

彼は必ずそれに応えてくれる








end