チョコとサボテン
サボテンの刺に触れる、痛い
何だか無性に腹が立ったので
傍にあったアンプルタイプの栄養剤を突っ込んだ
「…きれーな部屋。」
見渡す、見慣れた不二の部屋
センスの良い、清潔な、彼らしい部屋
私の部屋よかよっぽど…
「きれーだよねぇ…」
ちなみにこの部屋の主は今はいない
この暑い中、ホットチョコが飲みたいと
私が我侭を言ったので
それを作りにキッチンへ言っている
本当、私がどんな我侭を言っても
彼は微笑んで許してくれる
というか我侭を我侭とも思っていないのかも
心が広いなあ
大人だなあ
…比べて私は、ガキ丸だしだなあ
「、お待たせ。」
「あ…本当に作ってきてくれたんだ。」
「冷たいものもあるから。好きな方飲んでいいよ。」
「…飲むもん。」
ベッドを背にして、私は座りこんだ
不二は私の真正面に座る
何が楽しいのか、いつもより微笑みの色が濃い
「…熱し、暑いし…甘い。」
「忙しいね。無理して飲まなくていいよ。」
「…交換して。」
「僕のと?いいよ。」
笑顔のまま、あっさりと渡してくれた
100%林檎ジュース
受け取ったのはいいけど、飲む気にならなかった
「…どうしたの?拗ねたような顔して。」
「…サボテン…」
「え?」
「アンプル一個分、栄養剤入れちゃった。」
そう言って、出窓にあるサボテンを指差した
怒るかな?
怒らせたいのか、私は
彼は、黙って私の指が刺す方向を見ていた
「そっか。」
「…私サボテン好きじゃない、刺あるから。」
「…そうなの?」
「うん。」
ああ可愛くない可愛くない私
顔を伏せて、林檎ジュースの入ったコップを握りしめて
憎まれ口を叩いている
ねぇ、あなたはどこまで許してくれる?
本当に許してくれている?
本当は怒ってる?
私のこと、嫌いになる?
「私、我侭だから。」
「…」
「一緒にいても、つまんないでしょ。」
「…それで?」
「…だから、」
だから
もっと
可愛くて素直な子が
「…今思ってること言ったら、怒るよ?」
びくっと肩を揺らしてから、顔をあげた
目の前の彼はやっぱり微笑んでいたけど
聞き間違いじゃないよね?
「ご、めんなさい。」
「うん。…甘いね、これ。」
「そりゃ…チョコだしだから…。」
…ごめんなさい
だってあなたはいつも私の我侭を聞いてくれるから
…私が「別れて」って言ったら、
それにも笑顔で応えちゃうんじゃないかって
「?」
「ねー…、私のこと好きですか。」
「当たり前でしょ?」
「そっか…」
「うん。」
カップの縁を指でくるくるなぞる
彼はもうホットチョコを飲んでなかった
代わりに林檎ジュースを持つ彼の手元だけを見つめる
「私が馬鹿でも?」
「馬鹿でも。」
「可愛くなくても?」
「可愛くなくても。」
「…我侭、ばっかり言っても?」
「我侭だって思わないから。」
下を向いたまま、言葉を搾り出していく
握り締めるコップ、中身がぬるくなっていく
きっと今も彼は、微笑んでいる
「あー…やっぱ、ダメ。」
「…何が?」
「あなたじゃなきゃダメだろうね私。」
「…問題ないね。」
「うん。」
顔をあげて、ぎこちない笑顔作る
それでも、心からの、笑顔
彼は思ったとおり、優しく微笑んでいた
end