私は今最高にテンションが低い
それはもう
涙が出そうなくらい
手の中のソレに、ぎゅうと力を入れる
そして、恨めしそうに睨む
私は、どうしてこう、料理が出来ないのか
分量も混ぜる順番も間違える
砂糖と塩とベーキングパウダーと
…その他モロモロも材料も取り間違える
本当に、根っから向いてないと思う
でもそれをここまで恨めしく思った事はなかった
私は、チラリと、ソレに目をやる
「ブン太くん、はい、これ!」
「さっき家庭科で作ったんだよ。」
「クッキーに、カップケーキもあるよ!」
同じクラスの、人気者な彼、丸井ブン太
ただいま、超笑顔である
羨ましかった、その周りにいる女の子達が
私は、ご飯を、お菓子を
美味しそうに食べる人が好きだ
彼はそれはもう幸せそうに食べる人だった
殆ど言葉を交わしたことはないけれど
挨拶したり…ガムをあげた事がある位だ
なくなって落ち込んでいた時にあげた
ただ、一度、それだけなんだけど
『…丸井くん、どうしたの?』
『…あーか。ガム、買い置きしとくの忘れた。』
『…買い置き…え、えっと私のあげようか?』
『え、マジ?』
『うん。私の好きな味だけど。』
『あっ俺もそれ好き!やべーさんきゅ!』
思わず声をかけずにいられないくらい
しょんぼりと項垂れていた彼は
現金なくらいいい笑顔を見せた
それがおかしくて、つい笑ってしまった
『…何がおかしいんだよぃ』
『ご、ごめん。…すごく嬉しそうだから。』
『だってガムがなきゃ始まんねぇーもん。』
『…お菓子食べてる時みたい。』
『ん?』
『すごく、幸せそう。』
『…そうかぁ?なんか子供みてぇ。』
『…私はすごく好き、そうゆう笑顔。』
『…』
幸せそうにお菓子を食べる彼を見て
私も楽しくなる
最初はそれだけだったけど
気づいたら、彼自身に恋をしていた
その時はちょっと喋り過ぎたかななんて思って
今迄そんな喋った事なかったから嬉しくて
そしてお菓子を食べる彼の姿を思い出してたら
つい私も必要以上に笑が溢れてしまって
楽しくなってしまって
でも彼はそれ以上何も言わずに
もう一度さんきゅとだけ小さく呟いて
足早に去っていった
そんな、それだけど
一瞬の小さな幸せだった
放課後を告げるチャイムがなる
私は回想をやめ、のそのそと立ち上がる
帰ろうとした…所で日直だったのを思い出し
更にテンションが下がり席に戻った
調理実習のある家庭科の日は
少しのドキドキと
たくさんの、憂鬱
私も、あげたい
あの笑顔を、もう一度近くで見たい
…の、だけれど
いつの間にかシンと静まり返った教室
僅かに残る甘い匂いに
また切なくなった
「―――。」
「…」
「おい、ってば!」
「…え?」
背後から声が聞こえてきて
その聞き覚えのある声に
ありえないと思いつつ
ゆっくり振り返った
「…ま、丸井、くん?」
「…おう。」
「…あ、えーっと…ぶ、部活は?」
「ん?あぁ今行くぜぃ。…うーんと、な…」
内心、かなり緊張しつつも
冷静を装って、いつもみたいに
何んでもないって顔して、彼に話しかけた
逆に、彼はちょっとぎこちなかった
困ったような、照れているような
必死に言葉を探しているような
「なぁ、…―――くれっ。」
「―――え?」
「だからぁ!お前の、作ったお菓子!」
「―――えぇ?」
意味がわからない
散々もらってたでしょう
それ以前に、なんで、私の?
「…お前だけくれないもんな、ちっとも。」
「…そ、それは、」
「俺のこと嫌いなのかなーって、思って。」
「そっそんなこと、ないけど…」
「ガムもお返しあげなかったの、怒ったのかなぁって。」
なんだか、逆に非難めいた目で
ふくれっつらで
見られた
「えっと、それは全然怒ってないけど…」
「じゃー…他にあげる人が、いるとか?」
「そんな人、いない。」
「じゃあ、俺、もらっちゃダメ?」
「…」
うわ、やばい
ドキドキしてきた
何、なんだ、これ、この状況
「ご、ごめん。」
「あ、いや、俺のほーこそ悪ぃな!」
「あ…」
「忘れてくれっ!じゃあ俺部活行くからっ!」
「あ、待って!そういう意味じゃなくて!」
話を切り上げ
走りだそうとした彼を、止めた
嫌だったから、このままは
「私―――…殺人的にヘタなの。」
「…は?」
「丸井君に、お腹壊して欲しくないわけ。」
「…」
「本ッ当に、出来ないの…料理。」
「…それで、今までくんなかったのか?」
「うん、まぁ…」
「じゃあ、本当はくれようとしてたとか?」
「…で、できれば…。」
「マジ?」
そう、素直に言ったら
ばぁって、本当ぱっって
彼は満面の笑みを零した
「じゃあくわねぇから、頂戴!」
「へ?」
「本当は、食いたいけど、食ったら気にするだろぃ?」
「うん…あげれない。」
「だから食わないから頂戴。」
「…でも、もらってどうするの?」
「とっとく。あと部の連中に自慢する、とか?」
ぐいっと彼は手を伸ばしてきた
じれったそうに、嬉そうに
自慢って何、とか
どうして私の?とか
色々頭の中を疑問がくるくるしてるけど
とりあえず私は鞄に手を突っ込み
くしゃくしゃになった包み紙のソレを取り出し
ポンと彼の手の上に置いた
自意識過剰かもしれないけど
めちゃくちゃ嬉しそうに彼は笑った
「さんきゅ!」
「…う、うん。」
「…まぁーお前の好きな笑顔は見せてやれねーけど。」
「え?」
「何でもねぇ…じゃまた明日な、!」
「あ、うん。部活頑張ってね…?」
「おう!」
軽い足取りで、彼は教室を去っていった
結局、疑問は何も解決されないまま
でも、きっと明日
明日には分かるかもしれない
だって明日からはお菓子がなくても
話しかけられる気がするから
愛情は込めました