「いいなぁ」
「何が?」
「私も恋人欲しい。」
「…何急に。」



がりがりとノートに文字を書き写す
とても見易い綺麗な文字の一方
書き写される文字は、お世辞でも綺麗とは言い難い字



「友達がさぁ今日デートだって…」
「それで代わりに俺が捕まったんだ。」
「だって今日の帰りまでにコレ提出でしょ?」
「葵が宿題忘れたからでしょ。」
「友達が私より彼氏をとったからだよ。」



そう友達にノート写させてって言ったら
今日デートだからって
酷い



「ノートを写させてくれなかった事が?」
「彼氏いることが羨ましい。」
「…作れば?」
「殴るよ?」



と女の子らしくない台詞を吐いて
ノートの次のページをめくる
そりゃ幸村あんたはその気になれば簡単でしょうね



小学校の頃から知り合いだったから
他の女の子のように黄色い声が上げられない
気付いたら人気者になってたなコイツ



「何でかなぁ」
「何が?」
「何であんたそんなモテんの?」
「別にモテてないよ。」
「腹立つ。」



じぃと睨んだ
シャーペンの芯がポキと折れる
バカにしたような笑みで返された


バカにしてるように見えるんだって
別に僻んじゃにないし
ああ嫌になってきた



「誰か紹介してよー」
「え?」
「テニス部のイケメン。」
「…誰か気になる人でもいるの?」



えー誰にしようかなぁ
適当にテニス部って言っただけだし
だってほら人気あるから



「…いるんだ?」
「え?」
「誰?」
「え、あ、違くて…」
「言えないの?」



誰にしようか悩んでたが
逆にそれが言うのを躊躇ってるように見えたらしい
訂正しようともう一度口を開こうとした



「あのね、」
「ねぇ」
「彼氏作る方法教えようか。」
「え?」



なにそれ是非
優しく微笑む幸村をじっと見る
さっきの笑顔はちょっと怖かったけど



「今から僕が言う言葉に必ずうんって答えてね。」
「え?あ、はい、OK。」



多分きっと私は期待に満ちた目で見てる
だって幸村は昔から
私を助けてくれた


いつでも優しかったし
裏切られた事なんてない
今だってこうやってノートを見せてくれてるわけだし



「何?幸村。」
「うん、葵、」
「ん?」
「俺と付き合って?」
「どこに?」
「返事、違うでしょ。」
「え?…ああ、うん。」
「もう一度言うよ?」



ちょっと意味が分からない
どこに付き合うの
うんって言わなきゃいけないのは忘れてた



「俺と、付き合って。」
「…うん?」
「?付けないでくれるかな。」
「え、ごめん、分かったもっかい。」
「俺と、付き合って?」
「うん。」
「ありがとう。」



にっこりと幸村が笑った
ああいい笑顔だね
それで?



「え、ごめん意味わかんない。」
「これからよろしくね。」
「は?」
「はじゃないでしょ。恋人になったんだから。」
「え!?」



あ、さっきの付き合えってそう言う意味
やだ私お約束みたいな間違いしてた
じゃ、なくて



「え、なんで!?」
「何が?」
「なんで幸村と私が?」
「うんって言ったでしょ。」
「いや、え、だってそれは、」
「いやなの?」



え、何ですかその顔
そんな顔見たことないけど
悲しそうですね



「い、いや嫌じゃないけど。」
「じゃあ問題ないね。」



ええー
なにそのいい笑顔
なにさっきの悲しそうな顔、嘘?



「さ、帰ろっか。」
「え、ちょ待ってこれ…」
「明日でいいよ。」
「や、ダメだって今日の帰りまでにって先生が…」
「ああ、それ嘘。」
「はあ!?」



確かに今日の帰りまでにってのは幸村に言われた
先生からの伝言だって
いやその授業サボってたんで


サボった上に宿題忘れたとか最悪だよね
ってそうじゃなくて
そういう事じゃなくて



「何で嘘!」
「口実?」
「なんの?」
「葵と二人っきりになる為。」
「え、いや、でも私最初友達頼る予定で…」
「俺が彼氏と帰ってって頼んだの。」
「…」



あいた口が塞がらないというか
何で
そこまでして


呆然としてると
幸村はてきぱきと彼のノートと
私のノートを鞄に片付けた



「え、ちょっと待って」
「まだ何かあるの?」
「幸村はいいわけ?」
「何が?」
「私が彼女で。」
「…」



ちょっと今度は驚いた顔してる
今日はいろんな顔見れるなぁ
大抵落ち着いたこう余裕のある笑顔が多いのに



数秒、彼はぽかんとした顔をして
それからすぐいつもの笑顔に戻って
立ち上がりながら言った



「当たり前でしょ。」
「…当たり前なの?」
「もうずっと昔からそう思ってたから。」
「思ってた?」
「うん。」
「何を?」



眉間にシワ寄せながら聞く
少し間を置いて、葵って本当鈍いねって言われた
言い返そうとしたら立つように促された



なんだよ答えろよと思いつつ
立ち上がって席を戻し
鞄をとった



すると彼が目の前にたって
分からない?って聞いてきて
だから分からないから聞いてるって言い返した



そしたらまた彼がやたら楽しそうに笑うから
イラッとしてきて
何がおかしいって言い返そうとしたら



アイツは事も無げに言ってきた
なにそれ
なんですかそれ



「…もっと早く言ってくれてれば、」
「れば?」
「彼氏欲しいなんて言わなくてすんだじゃん。」
「そうだね。」



そう言って幸村は
手を繋いできた
彼はとても嬉しそうな笑顔で



そっかそう言えばよかったのね
ものすごい台詞な気もするけど
今更ドキドキしてきたよ



ってことでどうやら恋人が出来たみたいです






「愛してるよ」